赤鬼転生記~クロスオーバーオンライン~   作:コントラス

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宏壱の名字を山口から須崎原に変更しました。


第一鬼

 俺がこの世界で目を覚ましたのはとある女の腕の中だった。

 心配気に俺の顔を覗き込む女を他所に、周囲の状況を確認したことを覚えている。

 経験上、世界を渡って直ぐに危険に晒されることはないと知っていたが、やはりそれも絶対とは言い切れない。

 

 まぁ、その心配も杞憂に終わったけどな。

 俺がいた場所はマンションの通りみたいだった。幾つもの扉が並び、高い柵の外から風が吹き込む。

 空は暗く星々が夜天を彩っているのが見えた。

 

 

──ねぇ、大丈夫? お母さんは? どうしてここにいるの?

 

 

 赤い瞳の女が俺に声を掛けてくる。

 背は140前後。童顔で青みがかった長い黒髪をストレートに下ろし、頭部にシンプルな赤いカチューシャ。そして目を引くのは顔と身長の割りには大きな胸部。俺の推定Gカップ。

 ただ、俺に目線を合わせるためか、前屈みになっていたから余計に大きく見えただけかも知れない。

 

 その女の名は須崎原 なぎさ。俺の母親になる……いや、俺の母親だ。

 

 ◇

 

 それももう12年も前の話だった。

 いつもは親なんていなかった。今回は何故か母さん(お袋呼びをしたら泣かれた)の家の前に転生(転移)した。

 それから戸籍を作ってマイクロチップを入れて、指紋登録、声紋登録、網膜登録をした。

 このみっつの登録は必須らしい。声紋と網膜は使いどころが少ないが、指紋は結構使う。

 この世界にキャッシュは存在しない。全て電子マネーだ。で、電子マネーを貯める口座があるのだが、まず国民にはコードの記されたカードが配布されている。これは戸籍を持っている人間全てに与えられるものだ。

 そのカードに口座番号が記録されているわけだ。で、電子マネーを店で使うにはカードを渡し機械に通す。そして指紋認証でやっとこさマネーを引き出せるのだ。

 要は本人確認のために登録しておく必要があるってことだ。

 それ以外にも、犯罪者の特定が非常に容易になったというのも大きいか。

 

 電子マネー化されたことで強盗の類いは格段に減ったが、ハッキングして電子マネーを盗むなんて技術が確立した時代があったらしいが、それもマザーコンピューターのプロテクトが全てを防ぐってんだから凄い。

 国民の金は全部マザーコンピューターが管理しているってわけだ。本人(・・)に聞いたから間違いない。と言っても、これは周知の事実だけどな。

 

 

「コー、聞いてるのか?」

 

 

 俺を回想(世界観説明)から引き戻す声が隣から聞こえた。

 

 

「あ? ああ、聞いてる聞いてる。今日の晩飯だろ? うちは多分──「全然聞いてないだろ!? 誰が人ん家の晩飯に興味あるんだよ!?」──……じゃあなんだよ。お前と話すことなんて飯以外に何があるんだ?」

 

「もっとあるだろ!? 俺とコーの関係は飯だけか!?」

 

 

 俺をコー、コーと呼ぶこの男、若干くすんだ金髪を短く整えた残念イケメン、柴波(しばなみ) 雄介は初等科4年からの付き合いだ。

 顔は整っていて、10人いれば7、8人はイケメンだと答えるだろうが、掛け算の九の段ができないという知能の低さが目立つのだ。

 つまり、黙っていればイケメン。口を開けば阿呆イケメンである。

 

 

「で? なんだよ。俺は今から帰って晩飯作らないといけないんだが?」

 

 

今日の授業は6限。現在時刻は3時半過ぎ。既に放課後を迎えている。

 

 

「はーっ、よくやるよな。料理なんて調理ロボに任せればいいのに」

 

「人の暖かみがないだろ」

 

 

 調理ロボというのは、まぁ、そのままだ。材料を入れて、インプットされたレシピを設定すれば10分ほどで料理ができるという、100年ほど前に普及された機械だ。

 今では一家に2台はあると言われているが、(うち)にはない。母さんが嫌うから買っていないのだ。

 昔は家にもあったんだが、機械で作られた料理ってのはどうも暖かみを感じない。いや、料理自体は出来立てでほかほかあつあつなんだが、俺の気分的な問題だ。

 

 それがあって、一応設置されていたキッチンで俺が料理をしてみた。使わないから色々と掃除が必要だったが……。

 まぁ、簡単な物しかできなくてスクランブルエッグとベーコン、あとはキャベツとレタス、トマトを盛ったサラダを作って母さんに出してみた。

 結果は大好評だった。味付けなんて塩こしょうだけだし、焼き加減なんててきとうだったんだが。

 とまぁ、そんなわけで我が家は料理ロボはお役御免となって、手料理を振る舞うことになっている。

 他人から見れば物好きってことになるらしいけどな。

 

 

「ってだから違うって!」

 

「違うのか?」

 

×(バツ)オンの話だよ! ×オンの!」

 

「はぁ、またそれか。好きだな」

 

 

 ×オン……クロスオンラインは数ヵ月前にサービスが開始された今話題のVRMMOだ。

 ロボット産業も然ることながら、VR技術が飛躍的進歩した現代。その技術は娯楽方面に著しい成長をみせていた。

 

 例えばスカイダイビング。実際にやるとなれば命の危険もあるが、VRで行えば安全だ。脳に特殊な信号を送って、眼だけでなく、風を肌で感じ、匂いを鼻で感じ、落下する浮遊感を味わえる。

 太陽の近さや空の広さをリアルに感じられる。それこそ実際に空を飛んでいるのではないか? と勘違いするほどに。

 

 他にもパラグライダーや雪山を登ったり海中歩行さえできてしまう。

 普通ならできないことをしたり、道具が必要だったりと面倒なこともない。

 そうして安全にリアルに体験して、ノウハウを身に付けて実際にトライしてみて嵌まる、なんて人も少なくはないらしい。

 何かしらの技術を身に付けるのにも便利で、普通なら失敗できない場面でもVRで失敗して学べば、本番では上手くできるなん例もある。

 仕事や遊びに幅広く活用されているのがVRなんだが。

 取り分けゲームに関しては凄まじいと言えるだろう。

 モンスターと戦ったり、戦争に参加できたり、魔法を使ったり、格闘技を身に付けれたり、超絶な美少女と恋愛できたり。とまぁ色々あるわけなんだが、その中でもVRMMOが人気だ。

 学校の友達か、会社の同僚、家族、恋人、はたまた赤の他人か……ともかく、交遊関係に大きな広がりが得られる。話題も増えるしな。

 

 閑話休題(っと、話を戻そう)

 

 ×オンは過去のアニメや漫画、小説、映画に至るまでのヒーロー、ヒロインと一緒に冒険したり、食事したり、語らいあったり、戦ったりできるゲームだ。

 それこそ、200年前の物語の英雄達が目の前で動く姿は圧巻ものだろう。

 

 何故俺が200年前と言ったかというと、実はアニメや漫画、小説、映画なんかの創作物はかなり廃れている。

 というのも、どれも似たり寄ったりのストーリー性で面白味がなくなってしまったことが原因らしい。

 異世界に行って魔王と戦ったり村人に紛れたり召喚者に裏切られたり。

 過去にタイムスリップして武将の主、或いは部下になったり。

 学校や会社でのんびり駄弁ったり。

 スポーツで優勝したり地球が滅んでその原因と戦ったり。

 VR世界に閉じ込められてデスゲームに巻き込まれ、辛い目に遭いつつ解決したり。

 空から女の子が降ってきたり小動物に魔法少女にされたり。

 と、まぁ俺が実際に経験した感じの物もあったりするのだが。

 

 またも閑話休題(取り敢えず話を戻して)

 

 要はマンネリだ。マンネリの所為で日本の文化が衰退の一途を辿った。

 で、求めたのが実際に体験してみよう。ってことらしい。

 先に言ったようにできないことをやってみる。それが冒険したり、戦ったりってことに繋がっていった。

 その水面下で動いていたのが、過去に存在した物語の中の登場人物達と話してみたいというものだった。

 衰退の一途を辿った、そう言ったが、やはり面白いものは面白い。

 年月を越えて再放送されたり、配信されたりと過去の作品は現代でも見られ、読まれている。

 昨日はハム○プトラ3をテレビで見た。名作は今でも愛されているってことだ。

 で、だ。愛された名作達がVR化されないわけがない。ただ、ストーリーをなぞるだけでは詰まらない。

 一緒に笑い、泣き、怒り、喧嘩し、喜び、分かち合う。時には共に強敵に挑み、時には安息を共にする。そんな日々をヒーロー達、ヒロイン達と過ごしてみたい。

 決まった台詞ではなく。決まった表情ではない。自由に喋り、様々な表情を見せる。そんな彼ら彼女らが一堂に会いしたら。そこに自分も混ざれれば。

 そんな想いがVRの発展と共に開発者、技術者の中で燻り始めたのが約150年前。そして完成したのが1年前。サービスの開始が数ヵ月前、らしい。

 まぁ、全部受け売りだけどな。

 

 

「いや、面白いってほんと! 俺まだ誰ともあってないけど、フレンドは緋弾のアリアのジャンヌちゃんと、一緒にタワーに入ったことあるって聞いたんだ! レベルも高くて(すんご)い強いらしいんだよ! あと可愛い!」

 

「本音はそれだろ」

 

「いや、まぁそうなんだけど……。ほ、ほらっ、コーもやろうぜ! 楽しいからさっ!」

 

「考えとくよ。じゃあ俺もう帰るからな」

 

 

 ニカッと快活な笑みを浮かべる雄介に告げて立ち上がり、机の横のフックに掛けていた弁当とキーボードの入った薄い学校指定の革製ハンドバッグを手に教室の出口に向かう。

 

 

「おう! また明日な!」

 

 

 底抜けに明るい声に、後ろ手でひらひらと返し、教室を出た。




因みに、自分は似た作品が多い! などと思っていません。
異世界転移物、主人公強い系大好きです。ただ、このまま増え続ければ遠い未来そんな時代も来るのかな。なんて思っただけです。

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