小夜と出会って1時間後、俺達は繁華街にある銃器屋にきていた。
繁華街にあるってのは少し物騒だが、この世界(ゲーム内のことだが)には必要とする人間が多くいる。リアリティーに欠けはするが、利用者としてはありがたい。
因みに、小夜に行き先を伝えたところ、同行を求めてきた。妙に緊張で頬が強張っていたが、男を誘うのは初めてなのかもしれない。
⋯⋯男を誘うってのは別の意味に聞こえるな。
「はぁ⋯⋯いっぱいあるんですね」
ハンドガン、ショットガン、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル。壁際や店内のど真ん中に置かれたショーケースにある銃器を見て、圧倒されたように呟く小夜が息を吐く。
店の奥にカウンターレジがあり、店員らしき男が新聞を広げて座っているのが見える。時折、然り気無く店内を見渡しているのを思うと、盗難されないか見張っているらしい。
出入り口にいる俺たち以外にも、店内には様々な制服を着た老若男女が数人いる。
「ここにいても邪魔になるだけだ。店を見て回ろう」
「は、はい!」
緊張気味の固い声で返された。本物の銃(と言っても、ゲーム内ではだが)には妙な威圧感がある。例えそれがただの置物だとしても、俺達人間は様々な資料からそれがどういったものかを学んでいる。
俺自身は実態件ありきだが、それを差し引いても、銃の本質を知っているが故に感じる重厚感だ。
小夜も、無意識にそれを感じているんだろうな。
「じっくり選ぶと良い。暫く自身の身を守る相棒になるからな。見た目よりも使いやすさを重視しろよ」
「わ、分かりましたっ」
得意ぶって話す俺に、緊張気味ながらも真面目な顔つきで頷く小夜。何と無く妹になつかれた兄のような心境だ。
現実でもこうであれば、と無益なことを考える。
「さて、どれにするか」
見るのは店内中央に鎮座するショーケースだ。ショーケースには、取り回しやすい拳銃が等間隔に並べられている。
壁際にあるのは拳銃以外の銃だ。
ショーケースをぐるりと一周する。小夜の姿はない。とある一点で視線が止まり、瞬きも少なく、ひとつの自動拳銃を見ている。
一目惚れってやつだろう。本当は手に取って、使い勝手を確認した方が良いのだが、自分自身が好いていないと、手に馴染み難いこともある。気に入ったのなら、暫く使って慣れさせるのも手の内だ。
「決まったか?」
ある程度の目星を付けて小夜の隣に戻る。
「っ」
ピクッと肩を跳ねさせた小夜が目を丸くして俺を見る。相当集中していたらしい。
「は、はい、決まりました。えっと、これなんですけど」
ガラス越しにひとつの自動拳銃を指差す。グロック18と書かれたプレートの上に置かれた銃だ。
値段は8万ガル。初期投資としては少し高めか?値札にご丁寧に攻撃力も書いてある。基準を攻撃力10のベレッタという銃に置いてみると、20というのは高い方なんだろう。
殺傷能力の高い銃が、攻撃力の高い低いで、ダメージを大きく変えるものなのかは疑問だが、ゲーム仕様ってことで、気にしたら敗けなんだろう。
「何を選んだら良いか分からなくて⋯⋯えへへ」
そう照れ笑いを浮かべる小夜。
「まぁ、そうだよな。最初はそんなもんだ、あとで良いのがあれば買い換えればいいしな」
それに、このゲームは初期武器のチューンアップができるらしい。
塔には階層があって、その階層毎に主が存在する。その主を倒すと、“武昇石”って宝石を落とす。それを塔内にある錬金術師が開く調合屋に武器と一緒に持ち込むと、武器のランクを一段階上げてくれるらしい。
他で言うところの、限界突破ってやつだな。
因みに、銃には他にも強くする方法がある。それは、銃弾だ。
銃弾にはランクがあり、プレイヤーのレベルに合わせて使える銃弾のランク幅が広がるそうで、ゲームの難易度を上げたいなら、低いランクの銃弾でプレイするのも楽しいらしい。
ランクは10段階。数字の高い順から低くなるほど銃弾は強力になる。解放条件はプレイヤーレベルを10上げることで、10毎々に使える銃弾のランクが上がる。
と、学校で聞いた。話によれば、プレイヤーレベルの上限は200が限度で、カンストすると、物を言うのはアバターの成長のさせ方と、操作テクニックだそうだ。
「コーイチさんは決めたんですか?」
と、銃の仕様について考えていると、小夜が俺の顔を覗き込んでくる。彼女の髪が肩から落ちて、ショーケースのガラスに広がった。
「ああ、目星は付けた。これだ」
俺が指差したのは、回転式拳銃だ。S&WM19(コンバットマグナム)、値段は5万ガルと、小夜が選んだグロック18よりも安く、攻撃力50で、ショーケースにあるハンドガンの中ではトップクラスに高い数値を誇っている。
「凄い攻撃力ですね。この中だと一番じゃないですか?」
「まぁ、実際強力な銃らしいからな。当然と言えば当然だ。でも、一番って訳でもない」
そう付け加えて、幾つかの銃を指差す。70越えは見当たらないが、60を越えるのが二丁、50を越えるのが三丁ある。
ただ、人気はなさそうだ。それは当然、使い勝手の違いだろう。弾数が多く、
威力は高いが、面倒臭いって印象がある回転式拳銃は人気が今一みたいだ。その影響もあって、自動拳銃に比べて安くなってるのかもしれない。
「すんませーん」
経済的に他に見る物もない。そう判断した俺は、未だ新聞を広げている男に声を掛けた。