赤鬼転生記~クロスオーバーオンライン~   作:コントラス

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第十三鬼

 初心者丸出しの白一色から武偵高の制服に着替える。制服と一緒にベッドに置かれていた折り畳みの財布はブレザーの内ポケットいきだ。

 財布の中身は10万ガル。初期所持金額だ。これで身の回りの物、必要になる物を揃えろってことだ。

 

 と言うわけで、俺は自室を出て寮を出る。武偵高には必需品がある。拳銃と刀剣だ。校則で携帯が必須だと定められているのだ。

 ⋯⋯まぁ、それは原作での話で、忠実なのはNPCだけ。プレイヤーにその校則は当て嵌まらない。学校に所属するのはゲーム内での身分をはっきりさせるためであるのと、スキルの取得をしやすくさせるためだ。

 通い詰める必要はないし、所属学校の生徒として振る舞う必要性もない。どこどこの生徒と言ったところで、それは肩書き以上の意味を持たないのだ。

 とは言えだ。ロールプレイというわけじゃないが、ある程度殉じてみるのも楽しみ方のひとつだろう。

 なので、銃とナイフを使った戦闘技術を取得してみようかな。と思ったわけだ。

 

 

「さて、銃はどこで売ってんのかな?」

 

 

 メニューからMAPを引き出して確認してみる。

 路上の真ん中では通行の邪魔になるから、武偵高寮を囲む塀に背を預けた。

 MAPを見ると、現在地から銃を売っている店までの距離は、2432mほどだということが分かる。

 その場所をタッチすると、赤い点がマークとして付いた。

 さっき、シークレットミッションをヘルプで確認したとき、MAPについて載っていた。

 目的地をマークしておけば、MAPを開いていなくても、しっかりナビゲートしてくれるらしい。

 

 実際、MAPを解除すると、薄い青の透明な矢印が、目的地に進む方向に向かって伸びている。

 それを確認して背を預けていた塀から離れ、一歩足を踏み出す。

 

 が、直後、明後日の方、多分MAPを見ながら歩いていた全身白一色の少女にぶつかってしまう。

 

 

「きゃっ!?」

 

「わっ、と⋯⋯?」

 

 

 俺の胸に額をぶつけて尻餅をついた少女に、伸ばした手が空を掴む。

 実感はなかったが、どうやらゲーム内の俺の身体能力では、随分と鈍い動きしかできないみたいだ。これはステータスに、ゲームの仕様に俺の能力が引っ張られ、殉じている証拠だろう。

 

 

「すまん、大丈夫か?」

 

「い、いえ、わたしもMAPばかり見ていて、注意散漫でした。ごめんなさい」

 

 

 俺が差し出した手に掴まって立ち上がった少女は深く頭を下げた。

 

 

「いや、俺もよく見てなかった。お互い様だ」

 

 

 そう言って頭を上げるように言うと、少女はほっと安心したように息を吐いて顔を上げた。

 

 

「──っ!?」

 

 

 その瞳が俺を捉えた瞬間、少女の眼は大きく見開かれた。

 肩甲骨まである黒髪をストレートに下ろした茶色がかった黒目の少女だ。

 艶のある髪にくりっとした大きな目。華奢ながらもふっくらとした頬やしっとりとした唇。身長は俺の胸の高さ程度で、140ちょっと。そして、小柄なわりに白の長袖シャツを内側から持ち上げる胸部の装甲は規格外と言って良い。

 俺の見立てでは88はあると見える。そこからきゅっと絞まる細い腰に、丸みのある尻。細いが肉付きの良い太股。

 プロポーションの良い黒髪美少女だ。

 

 

「あ、あのっ、お名前を伺っても良いですかっ?」

 

 

 俺の視線に気付いていないのか、少女は前のめりになって俺を見上げる。どこか興奮気味と言うか、焦りがあると言うか、気まずさみたいなのもあるか?

 なんにしろ、俺のことを知りたいらしい。

 

 

「コーイチだ。君は?」

 

 

 名前を聞いておいて聞き返されると気味悪がる、なんてことはないだろう。

 

 

「あ、えっと⋯⋯」

 

「ああ、名前は寮で決められるんだ。リアルの方じゃなくて、ゲーム内で使おうと思ってるやつを名乗ってくれ。嫌じゃないなら、だが」

 

「嫌だなんてそんな! えっと、小夜って呼んでください!」

 

 

 一瞬の思考の後、そう言った。

 しかし、サヨ、ね。聞いた名前だな。たしかリナの母親だったな。⋯⋯俺が殺した。

 偶然だろうし、殺した人間と同じ名前の者と会うことなんて生きてりゃ幾らでもある。気にするだけ無駄か。

 

 

「あ、あの、コーイチさんは武偵高に入ったんですか?」

 

「ああ」

 

「わたしも一緒です! 武偵高の衛生科にしようと思って!」

 

「そ、そうか」

 

 

 背伸びをしてまで顔を近付けてくる少女、小夜に俺は上体を逸らす。

 

 

「あー、もういいか? 行くところがあるんだ」

 

「あ、ごめんなさい!」

 

 

 勢いよく頭を下げた小夜だが、いっこうに動く気配がない。視線を地面と俺の顔の間でゆらゆらと動かしている。

 

 

「どうした?」

 

「えっと、その⋯⋯」

 

「ん?」

 

 

 意を決したように小夜は顔を上げ、豊かな胸の前できゅっと両拳を握り混む。

 

 

「ど、どこにいくか聞いても良いですかっ?」

 

 

 と、一生一代の告白をするように叫んだ。


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