異界の召喚憑依術師~チート術師は異世界を観光するついでに無双する~   作:秋空 シキ

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【第十話】グレイス

 私は目の前に広がる光景に息を飲んで固まっていた。

 ドクンドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。

 硬直した右手が短剣を強く締め付けた。

 

「ああ、あ、………あぁ」

 

『いやー!ママも一緒に行く____!』

『暴れるなグレ!後で必ず助けるから』

『そうよ、パパがきっと助けてくれるわ、だから安心しなさい』

 

「あぁ……」

 

『グレ、いいかい、ここからあっちに向かって名一杯走るんだ』

『ママは?パパは?』

『大丈夫、すぐに追い付くからね』

『ヤ!いっしょがいい!』

『大丈夫だから、ほら証拠にこれをあげる。パパの大切な剣だ』

『取りにもどってくる?』

『大切な宝物が、2つここにあるんだ。当たり前だよ』

『……わかった』

『いい子だ』

 

「…………あ……ああ」

 

『おい聞いたか?』

『んあ?』

『コレナ村の話だよ、つい先日廃村になったらしいぞ』

『なんだそりゃ?』

『大量のゴブリンとジェネラルが襲ったらしい』

『終わったなその村の人民』

『だな!ギャハハハハハ』

『パパとママはかえってくるもん!』

『?……なんだおめぇ』

『かえってくるもん』

『お、おいまさか生き残りか!』

『しめた!こいつぁ高値で売れるぜ!』

 

「あ………ああ」

 

 薄く、ぼんやりとした記憶だったが甦ってきた。視線を上げると

 

「……ヒッ!……」

 

 かつて父と母を殺した張本人がそこにいた。

 視界の上から棍棒が迫っているのもみえる。

 

 私もここまでかな………父さんを殺した奴に勝てるわけ、

 

「避けろおおおおおおお!」

 

 その声に一気に現実へと戻された私は咄嗟の判断で回避することに成功する。

 

 直後、お腹の辺りに衝撃を受け、ふわりと浮かんで、ジェネラルと離れた距離にいることに気が付いた。

 

 そして私の前に苦虫を噛み潰したしたかのような顔をした彼の姿が目に入る。

 

 どうやら何か考えている様子で、チラリとこちらを見た。

 

「ウオオオオオォオオオ!!!」

 

 そして、ジェネラルの叫びに一瞬驚くと私の前に立ってくれる。

 この時ばかりはあのユーイチが大きく見えた。

 

「ハハハ………54かよ」

 

 しかしすぐ、小さく弱々しい雰囲気になってしまう。

 

「全く……どうすりゃいいんだか」

 

 その声と同時に多分固有スキルなんだろうけど、炎で出来た翼がちいさくなる。

 

 彼はくるりと振り替えると呆然としている私の手から短剣を取った。ああそれは父さんの……

 

「……まって、そ、そそその剣は……」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないんですよ」

 

 確かにそうだけど………でも……。

 なんだ?

 そう語っている視線が私に突き刺さる。

 

 短剣を指差して、形見なの、と言いたいのに私の口は彼越しに見えた爛々と光る目に怖じ気づいて、閉ざしてしまった。

 

 ホント……情けないな。レベル的に言えば彼は私より圧倒的に格下なのに、私よりずっと強くみえる。

 確かに過去のトラウマだからといって逃げてもいいかも知れない。だけど、いつまでも逃げ続けちゃいけないんだ。いつかは結果を出さなくちゃいけない。それに、冒険者になった理由だって……ホント、なにやってるんだろうな。

 

 ふと、父から貰った短剣に目を向ける。

 

 ……あの剣さえあれば父さんは負けない、冒険者になって初めてわかった。それほどの力量だった。

 今でも後悔してる。あの場で、私があんな我が儘を言わなければ、まだ一緒に暮らせたんだ。

 

「……スキルと魔法を発動させない効果」

 

 そうそう、あの剣にはそんな効果があった。だけど、父は剣士だったから関係無く、って、ん?あれ?今、ユーイチが言った?

 

「え?う、うん……え、でもなんで?え?」

 

 彼は私の反応を見るとニマニマと笑った。すると今度は真剣な顔になり、一度短剣を地面に刺すと、また、何かを考えるように顎に手を当てた。

 

 実はあの剣にはもうひとつ秘密がある。というか、それを発動させるのに対価としてスキル、魔法が使えなくなる。

 私も一度見たときが有って、それはもう凄かった。こうドドーンて感じで辺り一面が吹き飛んだよ。

 まあ、父さんが母さんにこっぴどく怒られた方が凄かったけど。

 懐かしいな。

 

「グレイスさん」

 

 ホントあの頃に戻れたらいいのに、

 

「グレイスさん!」

「…!なに?」

 

 急に大きな声出さないでよ。

 

「作戦なんですが、まず……あー、やっぱいいや。とりあえず俺が合図したらこの短剣の能力使って下さい」

「わ…わかった」

 

 たったそれだけ言ってゆユーイチはジェネラルの方へ向き直り、突撃していった。

 

 ていうか作戦ってそれだけ?………んん?ユーイチって短剣の能力知ってたっけ?

 

 ふと思い、ユーイチを見てみると炎の翼ではなく、尻尾と耳が生えていた。それも彼の固有スキルなのかな。

 私はそう確信すると今度はジェネラルを見る。

 

 こちらもこちらで相変わらず堂々と立っている。だけど、その目は私を見るときよりも警戒の色に満ちていた。

 

 

 

 小さくないショックを私が受けていると、その間にユーイチはかなり接近していて……消えた。いや消えてはいないが一瞬、ほんの一瞬、体が輝いたと思ったら既にジエネラルの懐に入っていた。

 全く見えないスピードで移動したのだ。

 

 ジェネラルもその事実に驚いている。勿論私も。

 しかし、愕然としていても現実の世界は動いて彼の腕と短剣は正確にジェネラルの腹へと迫っていった。

 

「うおおおおおおお!」

 

 

 キラリと彼の尖った牙が夕日の太陽に反射して、短剣はジェネラルに突き刺さる。そしてそのまま、両手で握り一回転。

 

「はははは」

 

 明らかな初心者の振り方だった。だけど、復讐を目的に武術をたしなんでいる私よりも純粋な一撃で、証拠に彼の頬が赤く染まるも、その顔は眩しいと思える顔をしていた。

 

 しかし、多少の傷で狼狽えるほどジェネラルは甘くない。なんてったって奴は卑怯で下劣で最低だから。私の両親が死んだもうひとつの理由がソレのせい。

 

…………やっぱり。

 

 ジェネラルは私の方を見ると、その顔を喜色の色に染める。ずる賢い奴は人質をとるのだ

 

 

「フッ、ちょっと油断のしすぎだぜ」

 

 しかし、その顔はすぐに真っ赤に染まった。ユーイチが明らかな挑発をしたからだ。

 

 昔、ジェネラルを調べていた時に他のゴブリンより頭が良いと書かれてあった。つまり、こいつはユーイチの挑発の意味をしっかりと理解しているということに他ならない。だからこそ、顔を真っ赤に染めて額に幾つもの青筋を立ててユーイチに向き直った。

 

「ウブオオオオオオオオオオオ!!」

 

 そして遠吠えを挙げながら、突進していった。

 

 

 

 

 ユーイチとジェネラルが森に消えると私はペタリと地面に座った。

 ホッと胸をなでおろす。怖かった。なによりもあの顔が……かつて村人を襲ったジェネラルにそっくりだったから……ダメダメだったな。私。

 

 森から幾つもの爆音が聞こえてくる。

 

 

 一度息を整えると、ジェネラルがいなくなった森を私は睨んだ。復讐を誓ったからには成し遂げなければならない。ユーイチからの合図はきっとその終わりだ。絶対に失敗は許されない。

 

 私の手ではないけど、父から貰った短剣で、その役目を果たそう!

 

 

 そう、決意したところで不意に後ろから声がかけられる。

 

「今です!」

 

 その声を合図に私は、能力を発動させた。

 




 次回の投稿は六月一日以内になりそうです。

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