異界の召喚憑依術師~チート術師は異世界を観光するついでに無双する~   作:秋空 シキ

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 本編の前に謝罪を。
 一ヶ月もお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
 おこがましいと思いますが言い訳としては……正直に言いますと、他の作品を読んでおりました。



【第十話】ゴブリンの襲撃!2

 ゴブリン

 身長約120cm体重約45kg

 全身緑色をしていて手には棍棒、腰に布を巻いている頭の良い魔物。その頭脳は集団で暮らし、パーテイを組んで獲物を捕らえるほど。

 しかし個としての力は魔物の中でも最下位に位置し、単体で戦ったら初心者冒険者と互角である。また弱点が多く、斬撃、打撃、魔法攻撃のどれにも強い耐性を持っていない。なかでも火に弱く、初級とされているファイヤーボールひとつで命を落とすこともある。

 

 これがさっき見たゴブリンの生態だ。しかしこいつはなんだ?

 姿、形はそっくりだけど、大きさと色が違う。赤黒い肌に2mを優に越える身長、手に持つ棍棒はもはや木の幹かというほどだ。それがグレイスさんの前に堂々とたっている。

 グレイスさんは恐怖で固まっていた。

 

 俺がさっきから撃っている火矢もいにもかえさず悠々とたたずんでいてる。

 そいつは大きく腕を振りかぶると、ゆっくりと降り下ろして______

 

「避けろぉぉぉぉおおお!!」

「……ッ!」

 

 咄嗟に出た声に正気を取り戻したグレイスさんが横に跳ぶのを見るとニヤリと笑う。

 

ゾクリ

 

 獲物、というより玩具。弄ぶかのようにわざとらしく、ゆっくり、降ろしたと言っても良い程のそれは地面に深くめり込んでいる。それほどの筋力。

 

 だから、ただ、笑っただけ、それなのに、それだけなのに……差がわかってしまった。

 

 

 

「クソッ!『濃い霧(ディープ・ミスト)』」

 

 瞬間、一寸先すら何も見えない霧が赤黒いゴブリンを覆い隠した。

 

 木の上から炎翼を広げて滑降し途中でグレイスをお姫様抱っこして、浮き上がろうとするが、少し離れた場所に着地する。

 まだ飛行に慣れていない弊害だ。自分の実力に嫌気がさした。

 

 まだ、深い霧が残っているため、逃走するチャンスだ空を飛べる俺一人なら……とグレイスさんを見る。

 

 まさに顔面蒼白といった表情だ。

 

 俺はまだ人一人抱えて飛ぶことはできない。それにあまりの迫力に唖然しているグレイスさんは、あたりまえだが、戦力外。ほっとけばいい。しかし、流石にそれは人としてどうかと思う。

 クソ……

 

「ウオオオオオォオオオ!!!」

 

 濃い霧は叫び声ひとつで散った。

 俺がもたもたと決めあぐねてるせいだ。

 

 赤黒いゴブリンはこちらに鋭い目を向けてくる。

 どうやらもう逃がす気も隙もないらしい、赤い瞳がそう語っていた。

 

 グレイスさんを庇うように前に立つ。

 正面から見たこのゴブリンの気迫がビリビリと肌を駆け抜け、冷や汗がたらりと垂れた。

 

 ヤバイな……足が硬直して動かない。逃げることも向かうことも出来ないなんて。

 

 辛うじて働く頭を使いスキルを発動させる。

 

「看破」

 

======================

 

ゴブリンジェネララル

lv54

 

HP3200/3200

MP640/640

 

======================

 

 

「ハハハ………」 

 

 思わず乾いた笑い声を出してしまった。

 

「54かよ……」

 

 それは個人ではなく六人パーティの平均LVが60だったら安全に倒せると言われてる領域。

 間違っても今の俺や、グレイスさんが挑んで良い相手じゃない。逃げろという警報が頭に絶え間なく響いてくる。

 だがしかし、引けないのも事実。

 

「全く、どうすりゃいいんだか……」

 

 いまだ動けそうにないグレイスさんの手に握っている短剣を手から取るとぎこちなく構え、頭をフル回転させる。

 

「……まって、そ、そそその剣は……」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないんですよ」

 

 後ろを振り向かずに言う。

 

 何かを必死で伝えようとしているのが背中越しに伝わってくるが、いかんせん声が震えている。

 

 何がいいたい、と目線を送ると俺の握っている短剣を指差した。

 

 これになにが……

 

 チラリと短剣を見る。そのとき、ふと魔力を感じた。それは、隠されているような、いや包まれている?短剣を裏返して見るが、見た目はなにもない明らかに普通の短剣だ。今度もまた、違和感が、いや記憶の残像が頭をよぎった。

 

『グレイスさん』

『何かな』

『確かに初心者の森とはいえ、そんな装備で大丈夫なんですか?』

『大丈夫、大丈夫!こう見えても私、結構やるから、余裕余裕!』

 

 一見なにも違和感のない会話。ただ、今は違和感が残った。

 

 余裕余裕!と言っていたのにグレイスさんがゴブリンの罠にあっさり嵌まったこと。

 そのとき、いくら集団で来たとはいえ魔法を使っていれば、もしくはスキルを使っていれば簡単に勝てた程の実力差があったこと。

 また、顔に焦りが出てたこと。

 

 そして今、握っている短剣が魔力に包まれていて、現状、俺の看破スキルが発動しないこと。

 これらのことを考えると、簡単に言えばこの短剣、何かがあるのだ。それは____________……スキルと魔法を発動させない効果。

 

 

 俺はグレイスさんがなにかを言おうとする前にポツリと言った。

 

「え?う、うん……え、でもなんで?え?」

 

 うんうん、この反応は面白い。

 昔から頭は良く回る方だったんでこの光景は何度か見たことがある。それから、火鳥モードは消えていないな。固有スキルは例外なのかも知れない。

 

 ……さて、グレイスさんのおかげで多少の緊張はほぐれてきたが、悠長にやっていられる暇はないんでね。  さっさと終わらせますか。

 

 俺は短剣を一度地面に突き刺す。

 そして再び看破で調べた。

 

==================

 

 

 

 案の定といったところか。思った通り俺が手に持っていなかったら簡単に看破出来た。

 

 そしてその情報を見て思わず頬が緩んでしまう。

 あまりにも俺にぴったりな能力を秘めていたからだ。それはもうぴったりである。

 先程ハイスペックブックにしか載っていない魔法があるのだがそれとの相性が抜群なのだ。それを上手く活用さえ出来れば勝てるくらいには。

 というか寧ろそれしか勝ち目がないんじゃないかな。作戦的に、成功させればこちらの勝ち。失敗は死に直結しまーす、って感じ……なんのデスゲームだよ。さらに成功率は不確定という完全に出たとこ勝負。

………でも、さっきよりは状況が好転していると言っていいだろう。

 

 さて、作戦を練ったは良いがそれを実行するにはどうしてもグレイスさんの助けが要るな。

 

 

「グレイスさん」

「…………」

「グレイスさん!」

「…!なに?」

 

 ………どうしようかこれ。いま完全にどっかいっちゃつてたよ。意識が。

大丈夫か?

 

「作戦なんですが、まず……あー、やっぱいいや。とりあえず俺が合図したらこの短剣の能力使って下さい」

「わ…わかった」

 

 ゴールしか言わない超簡潔な内容だったんだけど大丈夫かな?不安しかないんだけど……まあいいや

 

 

 

 俺は、キッとゴブリンジェネラルを睨んだ。こいつは、先程からいっこうに動く気配がない。油断しまくってるというより、冷静にこちらの出方を伺っているといった様子だ。

 

「いいぜ、こっちからいってやんよ」

 

 ダッと地面を踏み込み、全力とはいかないものの、機転を効かせられるくらいのスピードは出す。

 

「ウォォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 どうやらあちらも戦闘体勢に入ったようだ、強力な威圧を放ってくる。が!もう遅い!

 

「妖狐!」

 

 瞬間、ダンッ!と地面が爆ぜた。妖狐は身体能力が飛躍的に上昇するスキルだ。

 そして、

 

「白狼、『瞬歩』!」

 

 ゴブリンジェネラル目前で更に一気に加速する。二段の緩急をつけたスピードはそれはもう、意表を突けたようで、ゴブリンジェネラルが反応を起こす前に懐に入ることに成功した。

 

「うおおおおおおお!」

 

 ズブッと音がした。俺の手に持っている短剣が浅いながらもゴブリンジェネラルの肉に突き刺さった音だった。

 

 そしてそのまま、右腕を唸らせて大回転!

 返り血が飛び、頬に付いたが気にせず、ゴブリンジェネラルの横を突っ切った。

 

 ある程度の距離を開けたら振り返って、

 

「フッ、ちょっと油断のしすぎだぜ」

 

 と、しっかり警戒してたことを知っておきながら言う。

 

 ブチン

 

 何かが切れた音が聞こえた。

 

 今さっきまで赤黒かった肌は、もう湯気が出るんじゃないか?ってくらいになっており、額に幾本の筋がはしっている。

 

 まさか、こんな安い挑発に乗るなんて思わなかった。

ついでにグレイスさんに気をとられないようにしたんだけど……大丈夫だな。ゴブリンジェネラル俺しか見えてないし。

 

 

「ウブオオオオオオオオオオオ!!」

 

 なんの列車だ。ってくらいの突進を、ひらりと……かわせるわけないので、思いっきり逃げる。

……怖すぎアレ。

 

 

 俺は今、白狼という種族で『瞬歩』を使わなくとも妖狐より速く走ることができる。が、やはりレベル差が大きいからゴブリンジェネラルの方が少し速かった。それにあいつにとってはこの森を熟知しているから走りやすいはずだ。

 

………まあ

 

「ウブオオオオオオ!!!」ドオン!ドオン!ドゴン!

 

 今の奴にとってそれは関係ないか……木々を薙ぎ倒しているし。

 あの熊といい、なんでこうも俺とあう魔物は自然破壊がお好きなのか、一度聞いてみたいよ。

 

………っと少しづつ近づいてきたか。そろそろだ。

 

「『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』」

 

 地面に水溜まりを作っていく、まあ、これも気づいてかわしていくだろうからスピードダウンを狙っているだけ……

 

「ウォオ!?」

 

ドシャア!

 

 

 ……盛大に転んだようでなによりです。まさか、ひっかかるとは……あいつ絶対バカだろ

 

 そのかいあってか、俺の目標としていた距離までゴブリンジェネラルはいっこうに追い付けそうもなかった。

 

 

 グレイスさんとの距離、目算、推定350メートル……ここまでくればいいだろう。

 

 俺は短剣をズブリと地面に刺すと

 

「ウオオオオオ!!」

 

 自業自得の癖に激怒している泥だらけのゴブリンジェネラルに目を向けた。

 

 さて、いまのままじゃ単純に魔力が足りないからな。

 

 

 

 

 

 

 




 次の投稿は明後日。五月二十九日となります。

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