俺と君を繋ぐ音   作:小鴉丸

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下手な表現の部分もあると思いますがお許しください。


第三話 ぶつけた怒り

~美咲side~

 

 

「ふー、暑い……」

 

ミッシェルを脱いで外の風にあたる。

周りでは他のメンバーが今日のライブについて話していた。

 

「今日も楽しかったわ、お疲れ様みんな!」

 

「お疲れ~! こころん、薫くんも!」

 

「ふっ、笑顔のためならこれくらいどうという事はないさ」

 

そしてもう一人、花音さんだが……。

 

「…………」

 

なぜか元気が無いようだ。

昼からだろうか? あんな感じになったのは。

 

「花音さん?」

 

後ろからあたしは声をかけてみるが反応がない。昼の事もあり流石に心配になってくる。

 

「花音さ―「花音」――?」

 

「……!」

 

ビクッと体が震える。

あたしの声と重なった声はあたしよりも低くすぐに男性のものと分かった。だが、それが誰だかは分からない。

その声にだろう、花音さんがこちらを振り向く。

どうやら声の主はあたしの後ろにいるようだ。

 

「?」

 

あたしも後ろを見て確認する。

制服は春高だろう。学校帰りだろう鞄を手に下げていた。

 

「悪いな、君」

 

「あ……」

 

男が花音さんに向かって歩き始めた。その進行方向にいたあたしを邪魔だったからか、肩に手を置かれ体をずらされる。

その男は花音さんの前に立つと静かにこう言った。

 

「ちょっと、話がある」

 

 

 

 

~花音side~

 

 

「な、なに?」

 

目が合った時に予想はしていた、けど。

 

「……二人で話そう」

 

美咲ちゃんを少し見て場所を移動するように指示される。

 

「かっ花音さん!」

 

「ちっ……」

 

強引に手を引っ張られる。

 

「大丈夫……知り合いだから、待ってて?」

 

私は奏くんに引っ張られて人の少ない公園の奥に行く。その奏くんを見るとどこか焦っている様に見えた。

 

そして公園の奥に着き手を離される。

 

「花音、お前……バンド組んでたんだな」

 

「……うん」

 

「どうだ。……なんて言うか、後悔はしてないか?」

 

私が音楽を続ける理由。それはこころちゃんに誘われたのもあるが、それが引き金になりもう一つの理由もできた。

それは、奏くんにまた音楽をしてほしいから。

 

「後悔してないよ。楽しいもん」

 

私は奏くんが音楽を辞めた理由を知っている。

楽器から完全に手を離して、私に音楽の話を全くしなくなった。

 

「楽しい、か」

 

奏くんは何かと比べるように呟いた。

 

「……悪かったな、雰囲気崩して。他のやつも心配してたのにを強引に連れ出して」

 

「う、うん……私こそごめんね」

 

「花音が謝る必要はないだろ」

 

しゅんとして言った私の頭に手を置いてくしゃくしゃとする。

 

「わぁ、もう……」

 

「ははっ悪いな。じゃあ俺は帰るから……邪魔して悪かった」

 

「花音!」

 

奏くんが帰ろうとすると後ろから他のみんなが私を心配してか追いかけてきた。

 

「って何も無いじゃない」

 

こころちゃんがそう言う。

 

「かのちゃん先輩大丈夫!?」

 

「心配したよ花音」

 

はぐみちゃんと薫さんが私に駆け寄ってくる。美咲ちゃんはこころちゃんの後ろでそれを見ている形だ。

 

「…………」

 

「ちょっとあなた!」

 

無言でその場を立ち去ろうとする奏くんに声をかけるこころちゃん。

 

「何だ?」

 

「花音に何をしていたの?」

 

「話だよ、他人には関係ないだろ」

 

「他人じゃないわ。私と花音は仲間だもの」

 

「は?」

 

訳が分からない、と言わんばかりの声だった。こころちゃんはいつも通り自分のペースで話を続ける。

 

「この人は花音の友達なの?」

 

「う、うん」

 

「そう。それならあたしの友達でもあるわね!」

 

「……はぁ」

 

頭を抱え、大きくため息をつく奏くん。

 

「お前とは初対面。よって友達じゃない。俺に関わってくんな」

 

「? なんと言われようが関わるわ」

 

捨て吐くように言った言葉に首を傾げながら答える。

 

「関わる理由なんて無いだろ」

 

「理由ならあるわよ?」

 

「言ってみろよ」

 

「あたし達がライブをしていた時にあなただけ笑顔じゃなかったからよ!」

 

確かに思い出すと奏くんは笑ってなかった。周りはみんな笑っているからそんな人がいると余計目立って見える。

 

「笑顔じゃないと悪いのか?」

 

「こ、こころちゃん……もう、いいから。奏くんも……」

 

二人の雰囲気が悪くなってきた、それを察して私は会話を止めに入るが……。

 

「笑顔じゃないと楽しくないもの。あたし達はハロー、ハッピーワールド! 世界を笑顔にするのよ! あなたも楽しい方がいいでしょ?」

 

「俺は楽しくなくてもいい。演奏を見て笑うなんて、もう出来ない」

 

手を握りしめて強く言う。

私は奏くんがそう言う理由を知っている、けど知らないこころちゃんはそれに食いつく。それも一番に苦しいところに。

 

「もう? 昔は笑っていたのね? それなら大丈――」

 

「っ!」

 

奏くんが動いた。きっと我慢の限界だったのだろう。

 

「きゃ!?」

 

奏くんはこころちゃんの胸倉を掴んで顔を近づけて重い声で言い放つ。

 

「お前に何が分かる。何も知らないから言えるんだろ。俺とお前は他人だからな。それでもな、人の心まで入ってくるなよ? 昔は昔、今は今だ」

 

それは奏くんの思い。

今まで決して外に出すことのなかったもの。一人で抱え込んでいたもの。

 

「さっきお前は“世界を笑顔に”と言ったな、良い目標じゃねぇか。でもな、それは本当に出来ているのか? お前がただ目を瞑っているだけじゃないのか?」

 

「そ、そんな事は――」

 

こころちゃんが初めて動揺を見せた、前に美咲ちゃんも似たような事を言ったがこんなにはならなかった。

それを見た奏くんは嘲笑う。

 

「ははっ。言い返せないか。今までどんな活動をしてきたか分からない、さっきを見る限りでは路上ライブに似たような事をしてきたんだろう。自分達は少しづつ目標に向かってる。そう思っているんだろうがそれは考えないようにしてるだけだ」

 

「ちが――」

 

「…………」

 

そんな二人を見てる美咲ちゃんは悔しそうに下を向く。他の二人も声を失っている。

奏くんの気迫に押されてるのだ。

 

「こう見えて俺も昔はバンドを組んでいた、奇遇な事に目標は“みんなを笑顔にする”なんて馬鹿げた目標を持っていたさ」

 

その頃の奏くんを思い出す。

とても笑顔で、楽しそうに演奏をしていた。

 

「俺がお前に教えてやるよ。目を瞑ってるお前に、知らないふりをしているお前に、俺が教えてやる」

 

「や、めて……あたしは……、そんなつもりじゃ――」

 

こころちゃんの瞳には涙が浮かんでいる。一方的に言われて、言葉が自分の中に被弾しているのに耐えれないのだろう。

 

「お前のその行動は――」

 

 

 

「もうやめてよ奏くん!!」

 

その言葉を遮るように叫んだ。こんなに大きな声を出したのは初めてだと思う。

 

「!!」

 

私の声で我に返ったのか手を離してこころちゃんから離れる。そのこころちゃんは地面に力なく座る。

 

「俺は……」

 

下に座るこころちゃんを見下ろしている奏くん。こころちゃんは両目から涙を流していた。

 

「くそ、だから嫌なんだよ……」

 

頭を搔いて面倒くさそうに言う。

そしてこころちゃんの目の前にハンカチを投げてその場から去っていった。

 

「奏くん……」

 

私はその幼馴染みの背中を見ることしか出来なかった。




今回は主人公の過去に少し触れました。

それではまた次回に……。

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