俺と君を繋ぐ音   作:小鴉丸

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あけましておめでとうございます(遅い)

作品は書いてるんですよ。ただいつの間にか色々書いててこっちに手が回らなくて──はい、自業自得の言い訳ですね。取り敢えず逃げはしませんので、すっ────ごい気長に待てばそのうち更新してます。


第二十三話 お互いの昼

〜奏side~

 

 

告白して結ばれてから数日後、最初こそはからかわれたりもしたが心から祝ってくれてるのは伝わっていた。クラスの奴ら全員から言われた時は驚いたが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

そんな事があり生活も落ち着いた頃……。

 

『ピンポンパンポーン! 2-B組の草薙奏くん、白羽総士くん。1-A組の九十九龍斗くんは至急、一階の食堂に来てくださーい! 来ないなら私直々に迎えにまいりまーす!』

 

それは、四限目が終わりいつものように昼飯を食べようと思っていた時に起きた出来事だった。

 

「うわぁー……家帰っていい? いやマジで」

 

「ダメに決まってるだろ。諦めろ、俺も嫌だけど行くんだからさ」

 

周りからは羨ましがられている。それはきっと、憧れの生徒会長に呼び出されたからだろう。だがその人と関わりが深い俺達にとっては、厄介事を押し付けられるとしか思わないのだ。

 

昼食を片手に教室を出る。するとやはりというか、歩いていると知り合い達から今の放送について質問をされる。「どうして呼び出されたんだよ?」とか「会長のサイン貰ってきて~!」とか、色々だ。それ程ここの生徒会長は生徒達から人気が高い。

 

「あ、先輩」

 

階段を降り一階に着いたところで龍斗と遭遇した。気だるそうに近くまで歩いてきて、一緒に食堂へ向かう事となった。

 

「で、何で呼ばれたんだろうな」

 

「って俺も知りませんよ。家では何も聞いてませんし」

 

「どうせ厄介事だろ」

 

男子三人で適当に話しながら廊下を歩く。

 

前も校内放送で呼び出された事があり、そのときは荷物運びの手伝い、その前は各部活への不足道具の確認ともっぱら生徒会の仕事を手伝わされていた。

 

「んー……。文化祭の手伝いとかか?」

 

「文化祭って、四ヶ月後ですけど……。こんなに早くします?」

 

あるわけない事を言う総士を否定する。

 

そうしてる間に、俺達は食堂に着いた。

そのエリアに入るといろんな匂いが鼻に届いてきて、お腹がすいてくる。そして、俺達を呼んだ張本人が手招きをしているのが目に入った。

 

「やぁやぁ、今をときめく少年達。元気してるかい」

 

近付いてその人が座っているテーブルに腰を掛ける。するととてもいい笑顔で話し掛けてきた。

 

「呼び出しを食らわなければ元気だったな」

 

「総士先輩と同じだ。校内放送で呼ぶなって言っただろ?」

 

「だって階段面倒だし!」

 

上級生だけど気軽に愚痴を言う。これはこの人の位置もあるだろう。

 

「それで藍葉さん、どうして今日は呼んだんですか?」

 

この学校の生徒会長であり、俺達エタハピと関わり深いこの人は九十九藍葉。春高の三年生で龍斗の姉だ。顔立ち、スタイル、運動神経、頭脳どれをとっても良くて人望もある。総士が不完全な天才なら、藍葉さんはさしずめ完成された天才というものだろう。……言動は少しあれだが。

 

「他ならぬ君達に頼みがあってね~。いっただきまーす♪」

 

「あ、飯。総士先輩は何します? 頼んできますよ」

 

「おぉ頼むわ、じゃカレーの並で」

 

藍葉さんが食堂の定食を食べ始めたのを見て龍斗は注文をしに行った。それと同時に俺は珍しく持ってきていた弁当を広げる。

 

「お、何だそれ、未来の手作りか?」

 

いつもと違う俺の昼飯に総士は反応を示す。

 

「いや花音が作ってくれた。手間がかかるからいいって言ったんだけど……」

 

「ふーん……。そう言う割には顔、ニヤついてるぞ」

 

「は? な──」

 

総士の言葉で食べ始めようとしていた手が止まる。総士はからかうように笑いながら話を藍葉さんに振った。厄介事が広まる前に話を止めようと思ったが、先程の言葉で瞬時には動く事が出来なかった。

 

「そうそう先輩! ようやくこいつですね花音と付き合ったんですよ!」

 

「へぇ──って何も知らなかったら言ってたね」

 

「あれ、知ってたんですか。奏に教えてもらってたとか?」

 

藍葉さんは首を横に振る。

 

不思議に思い俺は考える。

まず花音は誰にも言ってないはずだ、総士もこの反応からして言ってない。未来には言ってるが学校からして藍葉さんに伝えるのは難しい、九郎や莉緒も同じだ。可能性があるとすれば……。

 

「先輩持ってきましたー」

 

カレーと定食を持ってきた龍斗を俺は見る。総士からお金を受け取っている龍斗に俺は質問をした。

 

「なあ龍斗……お前藍葉さんに俺と花音の事言ったか?」

 

「話してませんけど……。もしかして、何か姉ちゃんに言われたんですか?」

 

龍斗が性格からして嘘をつくとは思えない、となると一体誰が教えたんだ?

 

謎は深まるばかり、そこで黙って俺の様子を見ていた藍葉さんが口を開いた。

 

「別に私は教えてもらった訳じゃないよ、見ただけだもん」

 

定食に手をつけながら話し続ける。……個人的にはどっちかにしてほしい、一応女性なんだから。

 

「見た、って何をですか」

 

「ふふっ……。あんなに堂々とキスされたらね~、もう見入っちゃうよ~」

 

「はぁ!?」

 

「おぉ」

 

藍葉さんの言葉に龍斗と総士は対象的な驚き方をする。

 

「っ……! でもそれは花音さんの幸せだから……でも、でもぉ……っ!」

 

「やるな奏! 恋人って感じがするぜ? あぁでも、ちゃんと見てみたかったなぁ」

 

当の本人である俺は声を発せれないままでいた。

 

キス? 確かにあれから何回かしてるが、人の目に付くような場所ではした記憶が無い。する時は家でやるのだ、そんな外でなんてした記憶は……。

 

 

『好きだ──』

 

『んっ──、ん……ぅ』

 

 

そこで思い出したのは告白の日の記憶。そう、あの時だけ外でキスをしていて。

 

「……ま、まさかあの時……見てて……」

 

藍葉さんはただ笑うだけ。それがその現場を見ていた事を何よりも証明していた。

 

「それでさそれでさ! 花音ちゃんの味はいかがなものでしたか、草薙さん!」

 

マイクを持つふりをして手を前に突き出してくる。がそんなのに反応したら向こうの思うつぼだ、なるべく平常を保って俺は弁当を食べ始める事にした。

 

俺が黙るのを感じ取ったのか藍葉さんは一人で喋り始める。それを総士と俺は呆れながら見ていた。

 

「むむぅ、それはさぞかし美味かったのでしょうね! 前々から思ってたけど、こう……ふわふわしてて柔らかいもんね。上から、下まで!」

 

「う、上から……下まで……っ!?」

 

そこは姉弟と言うべきか、お互いに変なノリには付き合うらしい。

 

味わいながら騒ぐ二人を無視して総士と話しながら弁当を食べる。九十九姉弟は俺達が食べ終わるまで話を続けていたのだった。

 

 

 

 

~花音side~

 

 

「あら? 花音のお弁当……」

 

「千聖ちゃんも気付いた? いつもと違うよね。どうしたの花音ちゃん?」

 

お昼、千聖ちゃんと彩ちゃんとご飯を食べる事になり私達の教室で弁当箱を広げている最中に起きた事だった。

 

「う、うん。色々とあってね……」

 

「なになに、何があったの!」

 

何かに勘づいたのか彩ちゃんが興味を示す。別にそんなに面白くはないんだけどなぁ……。

 

だけどその後ろで千聖ちゃんも聞き耳を立てていて話さないといけないらしい。きっと千聖ちゃんの場合は、奏くんが絡んでいるのを気付いているからだろうけど。

 

二人の期待の視線を受けて、私は今朝の出来事を話し始めた。

 

「え、えっとぉ……今朝、なんだけど──」

 

 

 

 

「か、奏くんっ!」

 

「え、花音? どうしたんだよこんなに朝早く……、取り敢えず中に入っていいぞ」

 

少し息を切らしていたのを見て驚いた表情で家の中に通してくれる。

そのまま奏くんに続いてリビングに行くと、制服姿の未来ちゃんがソファーでのんびりとしていた。

 

未来ちゃんは私を見るやいなやすぐに飛び起きて抱きついてくる。私は抱きとめる、すると未来ちゃんのいい匂いが鼻に届いてきた。

 

「わぁ~! お姉ちゃんだ! おはよー!」

 

「おはよう未来ちゃん。今日も元気だね」

 

「うんっ! 元気だよ!」

 

そこでここに朝早くから来た理由を思い出す。未来ちゃんと話すとつい本来の目的を忘れかけてしまうのは、私の悪いところだろう。

 

「そうだよ、奏くん!」

 

「……別に大声出さなくても聞こえるって。で、どうしたんだ今日は。学校もあるだろうに」

 

制服にエプロンという普段は見ない格好に少しドキッとしてしまいながらも、来た目的を果たす為にバックから弁当箱を取り出す。そしてキョトンとする奏くんの前にそれを突き出して……。

 

「こ、これっ……作ったんだけど、食べてくれる……かな? 奏くんの料理よりは下手、だけど……」

 

「お、俺に……? わざわざ作ったのか?」

 

赤くなる顔を隠すように下を向きながら頷く。すると弁当を受け取り優しく頭を撫でられた。

 

それだけの事が無性に嬉しく感じてしまい、ますます顔が上げれなくなってしまう。

 

「そんな──いや、ありがとな花音。素直に嬉しいよ。でも……」

 

でも? 何かあったのだろうか。

 

奏くんをゆっくりと見ると、気まずそうに頬を掻いて苦笑いをしていた。そして指を机の一点を指す。そこには弁当箱が何故か三つ置いてあった。

 

一つは奏くん、もう一つは未来ちゃん。それであと一つは誰のだろうか?

 

「あー、そういえばお兄ちゃんも作ってたもんね。お弁当」

 

「まさかこんな事になるとはな。完全に予想してなかった……」

 

二人で話を進められて少し寂しい感じがする。気になる私は奏くんにどういう事かを聞いてみた。

 

「あの弁当だけど、俺らとあと一つは花音に作ったんだよな」

 

「え……そうなの?」

 

今度は私がキョトンとしてしまう。

それもそうだ。別に私達は交換する予定なんてなかったのだ、むしろ何も伝えてないのだからサプライズだったのだが。どうやら私と奏くんは同じような事を考えていたらしい。

 

「最初は二人の分を作ったんだ。それで時間があったから俺のも……ってな。まぁ取り敢えずは俺と花音の弁当を交換するとして、うーん一個余るなぁ」

 

「あ、私も一個余っちゃう……どうしよう」

 

自分の分と奏くんの分、二個持ってきていて交換してもお互いに一個残ってしまうのだ。それでどうしようと悩んでいると未来ちゃんがアイデアを出してくれた。

 

「それならそれなら! 私にいい案があるんだけど──」

 

 

 

 

「──って事があって」

 

と、今朝の事を話し終えた私に目を輝かせながら彩ちゃんが身を乗り出してくる。

 

「いいなぁ~、あの草薙奏くんにお弁当作ってもらえるなんて……。羨ましいよ花音ちゃん!」

 

奏くんと付き合い始めた時に知り合いに報告した時、一番驚いていたのは彩ちゃんだった。これは最近知った事だが、彩ちゃんはエタハピのファンだったらしく、だからそのうちの一人と私が付き合うかというのにびっくりしていた。

 

「奏の料理は悔しいけどそこらの女子じゃ太刀打ち出来ないくらい美味しいものね。料理、家事は出来る、見た目はイケメン、改めて考えるとスペック高いわよね……」

 

「うん。それにね奏くんは優しいんだよ。私が家に行く時はお菓子作っててくれるし、ギュッてしてくれる時はね少し擽ったいけど、私を想ってくれてるのが伝わってきて──」

 

千聖ちゃんの言葉を受け取り奏くんについていつの間にか話していた。

奏くんの事を考えると胸がぽかぽかする……、それにいろんな良さをもっと知ってもらいたい。私は嬉しかった事を思い出し笑いながら二人に説明を続ける。

 

「面白いわ……まさか花音の口から惚気話を聞く日が来るとはね。何があるか分からないわね」

 

「──え? の、惚気……?」

 

突然千聖ちゃんの口から出た単語にピタッと止まってしまう。

 

「あら、自覚がなかったかしら。それどこからどう聞いても惚気話にしか聞こえないわよ?」

 

ギギギ……と音がしそうな感じでゆっくりと彩ちゃんを見ると、その通りと千聖ちゃんの言葉を肯定するように頷かれる。

 

「ふぁ……わわっ、忘れてっ……! 今のは冗談、冗談だからぁっ!」

 

自分で顔が赤くなっていくのが分かる。私は両手で顔を隠して必死に今の話を無かった事にしようとする、だが二人は意地悪にその話を掘り返してくる。

 

「奏に抱きしめられたのね? それで感想は?」

 

「おやすみの電話っていいよねぇ~。少女漫画のワンシーンみたい! さすが花音ちゃん、青春してるね!」

 

「もう~! だからやめてってばぁ~!!」

 

 

 

 

~未来side~

 

 

「嬉しいけど……ボクが食べていいの? みーちゃんが貰ったんでしょ?」

 

昼食時間に今朝の出来事を軽く説明して、私はくーちゃんに弁当箱を渡した。受け取りはしてくれたがくーちゃんは申し訳なさそうに確認を取ってくる。

 

「でもお兄ちゃん達に説明もしてるから大丈夫だよ。んっ……この卵焼き美味しい~!」

 

「う、うーん……。奏さんと花音さんの了承があるなら食べるけど、申し訳ない気持ちになるよ……」

 

今朝、お兄ちゃん達が悩んでいた時に私が出したアイデア、それは親友であるくーちゃんに二つとも食べてもらうことだった。

 

 

『くーちゃんに食べてもらうのは? いつもお腹すいてるし、二個くらいならすぐに食べてくれるよ!』

 

 

「うわぁ……眩しい……。これが、愛……」

 

弁当箱を開けて変な事を呟くみーちゃん。

 

「全部は食えない、かな?」

 

「いや食べれるよ。……うん、美味しい、流石奏さん達だ。お兄の料理とは全然違う」

 

くーちゃんはゆっくりと箸をつけて口に運ぶ。

 

美味そうに食べる姿を見てこれを話したらお兄ちゃん喜ぶのかなぁ、なんて考える。

 

「私も少しもらうねっ」

 

「言わなくても、これはみーちゃんのなんだから」

 

「えへへー、そかなー?」

 

いつもと違う弁当を二人で囲んで会話を弾ませながら、その日の昼は過ぎていった。

 




中学は学校給食だろ、とかいう概念は忘れてください(適当)

久々すぎてグダグダになりましたが、読んでくださった方には感謝です。(次の話は奏達の会話の続きになります)

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