俺と君を繋ぐ音   作:小鴉丸

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サブタイからから分かるように、今回は……

それでは21話どうぞです。


第二十一話 「花音。俺は、お前の事が──」

〜奏side〜

 

 

「おはよう花音」

 

「お、おはよう……奏くん」

 

そして日曜日、俺はライブハウスCiRCLEという場所に来ていた。

今日は久々の全員揃っての練習との事でこころ達は張り切っている。……が。

 

「じゃ、じゃあ私も準備するね……っ」

 

やはりというか花音だけは、俺によそよそしかった。原因は……当然知っている。先週の事で悩んでるんだろう。

俺は何も起きてないような感じで接しているが、相当無理してるのが自分でも分かっていた。

 

「(ふぅ……。でも、ここで折れてたらラストの準備をしてくれたこころ達に申し訳ないしな。頑張らないと……)」

 

話はこの練習の前日──昨日の夜に遡る。

 

 

 

 

 

前もって俺はこころに電話をしていた。

 

「──という事なんだが、頼めるか?」

 

『あたしは良いわよ! 最後に花音を残せばいいのね!』

 

「お、おう。言い方は変だけど、それで頼む」

 

『任せなさい! はぐみ達にはあたしから連絡するわ!』

 

それは、明日の為の準備。それは練習が終わった後、俺と花音を二人きりにするというものだ。

あの時のように一体一で、花音のように真正面から想いを伝える。

 

『応援してるわよ! 奏! また明日!』

 

「……おう。ありがとな、こころ」

 

 

 

 

 

 

結果、練習が終わった後に練習場から俺と花音以外の奴は適当な理由を作って出ていくという事になった。花音も気まずくて逃げるだろうから、その時は俺が手を打つというわけだ。

 

とまぁ、後のことは不安は残るが大まかな事は分かってるから多分いい。問題は……。

 

「いえーい! 張り切っていくわよー!」

 

「「おー!!」」

 

こいつらの練習だ。

 

俺は手を叩いて一旦ストップをかける。

 

「待て待て、自由すぎるだろ」

 

「? いつもこんな感じよ?」

 

「いやいや嘘だろ。こんな練習あるわけ──」

 

「…………」

 

「(うっそだろ……)」

 

俺を見ていた美咲が目……というか顔を逸らす。それだけで俺は分かった。

 

こころが言っている事は本当だろう。美咲でも説得しきれずに諦めた、といった感じだ。花音は苦笑い、美咲はどんな表情をしているか分からないけど開始数分で疲れきっていると思う。

 

運動神経抜群のこころはバク転をしていて、はぐみはミッシェルに抱きついて、薫は演技か何かをしている。

 

こんなカオスな練習風景、俺は初めて──いや、俺らもあったな。

 

「あー、取り敢えず何曲か通してくれ。見てからアドバイスをしていくからさ」

 

「歌えばいいのね? 分かったわ! それじゃみんな、いくわよ!」

 

その言葉と共にその日の練習は開始した。

 

 

 

 

〜総士side〜

 

 

「今日でしたっけ、奏先輩」

 

「あぁ。今頃練習でもしてるんだろうな」

 

俺はつぐの家で毎度の手伝いをしている。今日は龍斗が勉強をしに来ていて、人も少ないので教えてるといった感じだ。

 

「……奏、何かするの?」

 

たまたま居合わせた蘭が興味を持ったのか聞いてくる。

 

「奏が花音に告白するんだよ」

 

「そうなの?」

 

「そうらしいよ」

 

そこに注文を持ってきたつぐが話に加わった。妙にニコニコとして楽しそうにしている。

 

「言い方は変だけど、ようやく付き合うんだね」

 

「長かったよな〜……三年か?」

 

俺達が練習を教えていただけあって、アフグロのメンバーも二人の関係は知っている。

 

「三年ですね。ま、これで周りに関係がハッキリできますね。紛らわしい部分もありましたし」

 

龍斗がシャーペンを置いて答える。

 

確かにそうだと思う。

知ってる奴はいいが、モカなんか知らない奴は最初二人のやり取りを見て「付き合ってるんですか〜?」と聞いたくらいだったからな。

 

「うぅ……、ここでイチャイチャされるのかなぁ……」

 

「いつもの事だろ。付き合ってようがなかろうが、友達以上の接し方をしてるんだし」

 

つぐが心配そうに呟くがあまり心配しなくていいと思う。花音の天然さが暴走しなければ、その点は大丈夫だろう。

 

行き過ぎても奏が止めてくれる……だろうし。……少し不安だけど。

 

「ふーん、それなら今度会ったら祝福しないとね」

 

「俺は明日の昼飯の時にかな。何か買っていこうっと」

 

蘭と龍斗がどういう風に祝うか考えている。

 

「私はサービスしよっかな〜。前に面白いストロー見つけたから、それを使いたかったし」

 

……変な事にならないといいけどな。

 

妙な事を言うつぐに少々呆れながら考える。調子に乗ると自分に返ってくるとか聞くし。

 

「俺は今夜電話するって言われてるからな、一足先に言わせてもらうぜ」

 

『お前には先に言っておきたい』

 

金曜日、奏に言われた言葉だ。

何で俺なのか、それは単純に親友だからとなかなか嬉しい事を言われたものだ。

 

「(それにしてもなぁ)」

 

今は楽しそうに笑って蘭達と話しているつぐを眺める。

 

「(先、越されちゃったか……)」

 

 

 

 

〜こころside〜

 

 

「〜〜♪ 〜〜♪ ──どうかしら?」

 

歌い終えて奏を見ると、驚いた感じて口を開いた。

 

「や、やれば出来るじゃねぇか。何で最初からそうしないんだよ」

 

「最初からやってたわよ? それで、アドバイスはあるかしら?」

 

「ある、まぁ言っても意味無いが……。取り敢えずこころ、落ち着け。見てて楽しいけど落ち着け」

 

落ち着けというのはあまりバク転をするな、という事らしい。それから一人一人にアドバイスをしていった。

 

「はぐみは少し覚えてない所があるか? 微妙にずれてたぞ」

 

「うーん。やっぱり?」

 

「薫は……何ていうんだろうな、何か違うんだよ。こう……雰囲気?」

 

「ふむ、つまり私に魅せられた。という事かな?」

 

「あぁうん。それでいいや」

 

そしてミッシェルと花音の方を向く。

 

「みさ──ミッシェルは大変だろうけど頑張ってくれ。DJはあまり分からないんだ」

 

ミッシェルは大きな頭を縦に動かして頷いた。

 

「それと花音だけど……うん、しっかりしてると思う。上手くなったな」

 

「! う、うん……練習、したから」

 

開始時はあまり顔を合わせてなかったけど、少し楽になったからかぎこちないがちゃんと話している。

 

いつも仲のいい二人がぎくしゃくしてるのと、もう一つの事でついあたしは笑ってしまった。

 

「ふふっ、良かったわ奏。あなたがちゃんと見てくれて」

 

「あ? 当然だろ。見るって言ったんだから」

 

やはり、自分では分かっていないようだった。

 

練習とはいえライブの練習、前に美咲から奏はライブを見るのが嫌いと聞いた事があったから心配していたが、どうやら大丈夫なようだった。

 

安心をしていると薫が話を切り出した。

 

「それはそうと、最後の曲をする前に一旦休憩をしないか?」

 

その話は花音以外でのある事を実行する合図だった。

 

「じゃあはぐみお水飲んで来るね〜!」

 

「私も付き添うとしよう。プリンセスはぐみ」

 

言うや否や二人は練習場を出て行った。それに続いてミッシェルも花音にひと声掛けた。

 

「すいません花音さん……。暑くて、外の空気吸ってきますね」

 

「う、うん。私はこころちゃん達とここで待ってるね」

 

花音がそう言うのを見て、あたしは奏に近づいた。そして小さな声で言った。

 

「頑張りなさいよ、奏」

 

「おう。感謝する」

 

すれ違うように扉へ向かって、みんなを追うように出ようとする。

 

すると、後ろから花音が声を上げたのが分かった。

 

「こっ、こころちゃん!?」

 

「悪いわね花音! やる事を思い出したの、しばらく二人で待っててくれるかしら?」

 

「ええっ!? ま、待って……っ!」

 

花音の声を聞かぬまま、あたしは外へ出た。

 

──願うのは、二人が幸せになりますように。と願って。

 

 

 

 

〜奏side〜

 

 

「え、あ……。わ、私も行くね……っ」

 

やはり二人きりになると避けようとする。花音は扉に向かおうとするが、そんな事はさせない。

 

「──花音」

 

「ひゃっ!?」

 

逃げようとする花音の手首を握り捕まえた。当然それを振りほどこうとするが男の力には抗えず、徐々に大人しくなっていった。

 

「な、何でこんな事するの? 手……離してよ……、奏くん……」

 

顔を伏せて小さな声で言う。その声は震えていて、どこか脅えているように思える。

 

俺は抵抗をしなくなった花音の腕を見つめる。

 

「嫌だな。俺はやる事があるからこうしてるんだ」

 

その言葉にビクッと体が震えた。

 

「やる事、って……何をするの……?」

 

まだ下を向いたままの花音は震える声でゆっくりと聞いてきた。自分でも俺が何をするか分かってるから震えてるんだろう。

 

「告白の返事だ、分かってんだろ花音も」

 

俺はそれを実感させる為にはっきり言う。

 

それは自分を奮い立たせる意味もあっただろう。

覚悟は決めても不安は残る、“もしも”を考えてしまうのだ。そんな弱い自分を殺す為に、今自分は何をするのかを再度確認する為に。

 

「もう一度、花音の想いを聞かせてくれ。今度はちゃんと返すから……」

 

「わた……し、は──」

 

戸惑ったような様子を見せたが、空いた手を胸の前で強く握る。それを見た俺は掴んでいた腕を離した。

 

花音は顔を上げて、あの時のように俺を見てから名前を呼んだ。

 

「──奏くん……っ!」

 

 

 

 

〜花音side〜

 

 

また繰り返す所だった。みんなに押してもらえたのに、その期待に裏切るかのように……。

 

でも──。

 

「私、私はね……っ!」

 

こころちゃんや美咲ちゃん、千聖ちゃんに彩ちゃん……色んな人に押してもらった。

 

そして今の奏くんの言葉……。

 

「好きっ、奏くんが……好きだよっ!」

 

私の二回目の告白、ストレートに好きと伝えた。

そして奏くんの返事を待つ、前は怖くて聞けてなかった、けど今回は逃げない。

 

震えてた私はいつの間にか収まっていた。むしろ、しっかりと立って、奏くんを見ている。

 

……この感覚はライブの時に似ている。

始まる前は怖くてビクビクしてるのに、始まるとしっかりとドラムを叩いている。それと似ていた。

 

「こ、今度は……奏くんの想いを聞かせてっ」

 

「ああ」

 

短くそう答える。

 

うぅ、何だかドキドキしてきたなぁ……。っ、ううん! 弱気になっちゃダメだよ! ちゃんと返事を聞かないとっ!

 

「……俺はなずっとお前に感謝してたんだ。あの時に俺を支えてくれて、ずっと恩を返そうと思ってた」

 

それは高校に上がる前の話だろう。エタハピが解散した時の辛い思い出……。

 

「少しづつだけど仕方ないと思い始めて、心も落ち着いてきた。そうなれたのはお前が隣に居てくれたから安心出来ていたんだ」

 

それは昔聞いた事があった。

その時に何回も感謝されたのを覚えているけど、私は逆にそうする事しか出来なかったから、と笑って言ったのだ。

 

「きっと……その時から心のどこかで、お前に惹かれていたんだろうと思うよ」

 

「──え?」

 

その“惹かれていた”という言葉に声が漏れた。

 

それはいつか、千聖ちゃんが言ってた事を思い出して──。

 

「自分で知らない間に俺の幼馴染みは可愛い、綺麗だと思い始めていた。そしてある日、俺は確信したさ。俺は……幼馴染みを一人の女として見ている事に、な」

 

照れくさそうに頭を掻く奏くん。そんな彼の姿を見ていると、こっちまで恥ずかしくなってしまう。

 

「前にさ二人で水族館に行っただろ? ずっと花音を目で追っていた、見飽きた行動だけど全てが新しく新鮮に見えんだ。それは、意識が変わったから……。おかげでこっちはドキドキしぱなっしだったよ。──そして帰る時のさ」

 

「う、うぅ……」

 

水族館へのお出かけの帰り。

忘れもしない、私が勇気を出して告白した日……そして自分から逃げた日。

 

「俺は何も出来なかったけど、今なら言える。ちゃんと……お前を──花音を見て、言える」

 

奏くんは私を見据える。

まるで、あの時とは反対のように。

 

「花音。俺は、お前の事が──好きだ。花音と先の関係に進みたいと思ってる」

 

「え……。ほ、本当に?」

 

聞き間違いかと思い聞き返してしまった。

 

「本当だよ、嘘を言うタイミングじゃねぇだろ……」

 

言い終えると照れたように顔を逸らす。

横から見える顔は赤くなっていて、失礼かもだけど可愛く見えた。

 

「っ、良かった……。奏くん……かなでくんっ!」

 

嬉しさのあまり私は奏くんに抱きついた。

急な行動なのに冷静に優しく抱きしめてくれて、それがまた嬉しくなって奏くんの胸に顔を埋めた。

 

「花音……」

 

ギュッと更に強くしてくれる。

それにどんな意味が含まれているのかは分からないけど、離さないという意味だったら良いな……。

 

私達はみんなが帰ってくるまでの間、二人で抱き合っていた。

 

 

 

 

〜奏side〜

 

 

「……花音、そろそろ」

 

「あ、うん……ごめんねっ」

 

嬉しさのあまり泣いていたらしい花音は目元が赤くなっていた。

 

俺としてももう少しこうしていたいが、そろそろ種明かしというか、みんなを呼ばないといけないと思った。

 

「じゃ、みんなを呼んでくる」

 

花音から体を離して扉へ向かう。そして扉の前に着いた俺は、コンコンコンと三回扉をノックした。

 

そんな俺を花音は不思議そうな表情で眺めていた。

 

「奏くん? 何して──」

 

……ごめんな花音。

 

心の中で謝って扉を開ける。

それとほぼ同時に練習場内に人が押し掛けてきた、その人は一目散に花音へと駆けてゆく。

 

「おめでとう! 花音っ!」

 

「かのちゃん先輩、おめでとう〜!」

 

「わぁっ!? こ、こころちゃん、はぐみちゃん!?」

 

飛び込んできたのはこころ。そしてその後からはぐみも抱きついた。

美咲と薫はゆっくりと入ってきて俺の横に並び、三人がじゃれ合ってるのを見ていた。

 

「上手くいったようだね王子様?」

 

「ああ。みんなのおかげだよ」

 

「あたしは草薙さんの頑張りだと思いますけどね。……それと、おめでとうございます」

 

そこで美咲に祝福の言葉を貰った。それに続くように薫も言ってくれた。

 

「姫と幸せに、王子様」

 

「ははっ、ありがとな」

 

その言葉がとても嬉しく感じる。

 

それは花音も言われているらしく、少し声が聞こえてきた。が、どうやら様子は違うようで……。

 

「え、え……? ど、どうして?」

 

花音は混乱していた。

恐らくどうして自分達が付き合い始めた事を知ってるのか、という事だろう。

 

混乱してる花音に、俺はこの事を説明をする。

 

「さっきみんなが出ていっただろ? あれは俺らを二人きりにさせる為だったんだ。ごめんな、罠にはめる形になっちまって」

 

まぁ、こころから聞いてたのと内容は違ったけど……。

 

「それで、最初から俺が告白するのは言ってあったんだ。成功したら三回ノック、失敗したは二回ノックって感じで扉近くで待っててもらってた」

 

後は言わなくても分かるだろ?

 

といった感じで俺は話を止めた。

それを聞いた花音は、力が抜けたように地面に座る。

 

「え、えへへ……。びっくり、しちゃった……な」

 

それは周りの人達の思いやりに気付いたのか、花音は再び涙を流してしまう。

 

「でも、ありがと……っ。わ、私……奏くんに言えたから……奏くんに受け入れてもらえたから……」

 

それでも笑顔でこの場に居る人達へ感謝をする。

 

「っ、こころちゃん、はぐみちゃん、薫さん、美咲ちゃん──背中、押してくれてありがとね? そして……」

 

花音は俺を見る。

 

今までずっと一緒にいた花音の表情、色んな表情を見てきた。だから全部見た、と思っていたがそれは違ったようだ。

 

「奏くん──ありがとうっ! 大好きだよっ!」

 

今までに見たこともないほどの笑顔で、花音は俺への感謝の言葉と想いを伝えたのだった。

 




……というわけで、奏と花音が結ばれました〜(パチパチ)

色んな作品を書いてるけど実際にくっつくのは初めてなので自分でも興奮しております。

こんな作品ですが、読んでくださる方々への感謝です。
お気に入りや評価を貰えたり、感想を書いてくださったりと感謝の気持ちがいっぱいです! ありがとうございます!

2人が付き合っても俺君ではある事が残っているので次の話からは、それに向かって奏達が行動していくという形になります。(軽い宣伝)

それでは今回も読んでもらいありがとです! これからも、よろしくお願いします!

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