それと今回は前の話の付け足しのような感じなので短めです。
~奏side〜
どれくらい時間が経ったのか分からない、そのくらい背中をさすっていた。だが、そうしてる間にもこころは落ち着いてきたようだ。
「っ、……ごめんなさい……奏」
まだこころの瞳には涙が浮かんでいた。
いつの間にか俺の後ろに回していた手を解き、俺の腕から離れる。
「いや、こちらこそ……悪い」
「ふふっ……さっきも言ったじゃない、奏は謝らなくていいわよ。あたしはこれだけで満足なの」
こころは携帯を取り出して何やら操作をしている。手の動きからして文字を打っているようだが、画面は見ていないので正確には分からない。
そうして操作が終わったのか手が止まる。そしてこころは俺の目の前に携帯の画面を突き出してきた。
「あたしは奏達を応援するわ! あなたの幸せは……あたしの幸せでもあるから──!」
『あたしは花音と奏を応援するわ! 必ず、幸せになるのよ? そうしないとあたしが奏を横取りするわよ!』
突き出された携帯の画面にはそう書かれていた。
きっとこころなりの応援なんだろう。
だけど、俺はその携帯の画面よりもそれを握っている手に目がいった。
──プルプルとその腕は震えていたのだった。
「(はぁ……)」
頭を掻いて自分に似合わない言葉を言おうとする。二、三回咳払い。あー、と言ってから俺は話した。
「俺は……お前が笑顔じゃないと幸せになれないと思う。バカみたいな事を言ってるのは自分でも分かってるさ、だけどお前の泣き顔を見るのは辛いよ」
間をひとつ置いて続ける。
「俺を好きになった二人、花音とこころ。正直なところ俺はお前らの両方が好きなんだろうな。花音の笑顔、こころの笑顔。花音の匂いや仕草、こころの匂いや仕草。花音の声、こころの声……色々好きだと思う。俺は花音を
他人になんと言われようと構わない。
俺の幸せは二人の存在で成り立つと思う。この選択はもはや直感だ、だけど不思議と間違ってる気がしない。
俺が
「そもそも世界を笑顔にする本人が笑顔じゃなくてどうするんだよ。せめて目の前の人だけでも笑顔にしろ、それから広げていけ」
再び服の裾で顔を拭う。拭いながらもこころは何故か笑っているようだ。
「あはは、っ……。奏ってほんとずるいわよ……、振った相手に言う言葉じゃないわ、それ」
ちょこちょこと手招きをされ、既に近かった距離を更に詰める。
──ちゅ。
「!? お、おまっ──こころ!?」
突然の行動に戸惑う。
頬に残る生暖かい感触、顔が近くにあったからか視界に入ったこころの綺麗な髪。俺はキスをされたのだろう。
その暖かさ残る部分に手を添えて、俺はこころを見る。
「あら、そんな顔の奏は初めて見たわ。不意打ちに弱いのね?」
小悪魔的な微笑み。人の弱みを握った人物がするような表情だ。だけどこの少女がそんな表情をすると己の魅力を違った形で引き出しているかのように思えてしまう。
「だ、誰だってこういう反応になるだろ……。お前、そういうの誰にでもしそうで不安だ」
「あら、誰にだっては失礼ね。あたしは奏にしかしないわよ?」
さらりと言ってのけるから凄い。俺もいつかは堂々と言ってみたいものだ。
恥ずかしさを隠すかのように俺はドラムの席に座る。だが動揺はそう簡単に隠せないようだ。
「っ。ほ、ほら告白も終わったんだ! 切り替えて行くぞ!」
「ええそうね! それじゃあやるわよ!」
泣いた後だから目元はまだ少し赤い、だけどそれ以上の笑顔を振りまいてこころは歌い始める。
「(ちゃんとこの笑顔を支えないとな……。その想いは受け止めて、叶えてやらないと)」
花音への想いとこころの気持ちの受け止め。
大変だろうけど二人を幸せにするためにはやらないといけない事だ。
こころに告白された今日、俺は心に誓った。どんな形であれ二人を幸せにすると──。
その為には……今度の日曜日が勝負か。
~花音side〜
「──あ」
「どうしたの花音さん」
総士くんと別れた後に美咲ちゃんと二人で歩いていると私の携帯が振動した。
「メールが来たみたい。誰からだろう?」
携帯を取り出すと画面にはこころちゃんと表示されていた。
こころちゃんからメールなんて珍しいから何かあったのかな? と思いながらメールを開く。
「…………」
文章を読んで携帯を落としそうになる。
恐らくこころちゃんはあの宣言通りに告白をしたのだろう。そして結果は──。
「花音さん?」
美咲ちゃんが心配そうに顔を覗かせてくる。そしてたまたま携帯の文が目に入ったのか、目を丸くした。
「こころ……。そっか、あんたは……」
何かを噛み締めるように呟く。それはこころちゃんを思っているように……。
「花音さん、あたしも応援してますよ。草薙さんと花音さんを」
美咲ちゃんは私を見て真っ直ぐにその言葉を口にしてくれる。きっと美咲ちゃんは知っていたのだろう、こころちゃんの気持ちを。
「うん……私、頑張るよ……っ!」
今度は逃げない。
ちゃんと奏くんに、もう一度想いを伝える。色んな人に背中は押してもらってる、だからもう怖くはないんだ……!
「(日曜日、みんなでの練習の日……)」
その日が私が一歩、踏み出す日に──。
書いてて「別にこころヒロインでもよかったんじゃね?」と毎回思うのは秘密()
今回も読んでもらいありがとです!