それでは、どうぞです!
~奏side〜
黒服の人と別れて練習場所へ歩く、こころは既にそこで俺を待っているだろう。でも微妙に足取りが重く感じる。それはきっと黒服の人との会話の内容のせい……この後に起きる事に対しての戸惑いにだろう。
花音に告白されて、次はこころか……。ほんっと人生は何が起きるか分からないんだな。
二階にある部屋に着いて扉に手を掛ける。
「来たぞ、こころ居るか?」
「あら、来たわね! こんにちは奏!」
いつも……以上だな。いつも以上に元気に挨拶をしてくる、まるで私はいつものように元気と言わんばかりに。
俺はドラムの準備をしながら、いつも通り適当な話をし始めた。
「それにしても、わざわざ車なんて出さなくてもよかったのに。急ぎの用事でもあったのかよ」
「いいえ、特に無いわよ? 強いて言うならあたしが奏に会いたかったからかしらね!」
「そーですか」
椅子に座り足をパタパタとさせて言う。躊躇いなくそう言ってくるこころについ気恥ずかしくなる。
こんなやり取りはいつもしている。だけど心の内側を知ったら見る目というか、言葉の受け取り方が変わってしまう。
「よし、っと」
軽く叩いて音を出す。
感覚は最近で戻ってきた。だけどそれでステージに立てと言われると無理だろう、勿論ライブを正面から見る事もだ。
「準備出来たぞ。やるか?」
ぴょんと椅子から降りて俺の近くに来る。そしてくるりと何故か一回転してからその日の練習が始まったのだった。
「ええ! 始めましょうか!」
~総士side~
「あ、総士くん?」
「ん……花音か、久しぶり」
学校が終わりバイトも休みだし久々に沙綾のとこのパンを買いに行こうと歩いてると、懐かしい人物と出会った。制服姿を見ると向こうも学校帰りという事が分かる。
「何やってんだ、こんな所で」
「美咲ちゃんと沙綾ちゃんの家のパンを買って帰ろうかな〜、って」
成程な、同じ考えって訳か。
美咲と呼ばれた少女は俺を見て軽く頭を下げてくる。この子と会うのは恐らく初めてだろう。うん、見た記憶はない。俺は一応自己紹介をする事にした。
「初めましてか? 俺は白羽総士、奏の友達だ」
「あ、すいませんそちらからだなんて。あたしは奥沢美咲です。ハロハピではDJやってます」
ペコリと再び頭を下げる。
互いに挨拶を終えた俺達は並んですぐそこにあるやまぶきベーカリーへと向かう。
中に入ればパンのいい匂いがすぐに鼻に届く、焼きたてのパンもあるのだろう。俺はクロワッサンとチョココロネを取って先にレジへ向かった。
「いらっしゃいませ〜。って白羽さんじゃないですか久しぶりですね」
「おう、そっちも元気そうで何よりだ」
そこには、この店の子供である山吹沙綾がレジに立っていた。慣れた手つきで袋に詰めて、支払いをする。
「はいどうぞ」
それを受け取りまだパンを選んでる花音達を待つ。すると沙綾が意外な事を聞いてきた。
「別に他意は無いですけど、最近の龍斗ってどんな感じですか?」
「龍斗? 別に変わった事はないぞ、最近周りに“花”があるとしか」
聞かなかったけど花って何だろうな。まぁ、あいつの性格からして女だろうが。
「ふふっ、そうですか」
それを面白そうに笑う。何が何だか分からない、沙綾に関係するのか? そんな考えてるうちに花音と美咲もパンを持ってきて会計を済ませた。
別にそこまで探るつもりは無いから聞きたくなったら聞く事にするか。昔の奴が今の関係に入り込むのはアレだしな。
そして、それぞれパンを買った俺達は店の前で別れる事になった。
「また今度ね総士くん」
「失礼します」
「おう」
軽く挨拶をして別れようとした時に俺はある事を花音に伝えた。
「ああ、そうだ花音」
「? どうしたの」
くるっと振り返り、呼び止めた事に疑問を持っているようだ。
「奏と色々あったらしいがあいつ、そろそろ答えを出すぞ」
「──え?」
言いたい事を言った俺は「じゃーなー」と言って手を振りながら帰る。その俺の言葉に花音は聞き返してきた。
「そ、それってどういう──」
更に混乱する花音、これ以上は推測では言えないから無理に話を切りやめる。
「もう時期分かるって、奏を信じとけよ」
「う、うん……」
オドオドしながらも強く信じてるのが分かった。
あぁ、俺もつぐにこんなに信じられたら……。奏よりも俺は恋愛については弱いのかもな、などと思う。
ずっと支えてくれた花音と支えられた奏。
いつの話かは覚えてないが奏自身「今度は俺があいつを支えたい」なんて言ってた記憶がある。それがもう少しで叶おうとしている……。
「(ほんと羨ましいぜ……。先にその場で待っててくれよな、奏)」
~こころside~
あたしは何曲か終わって一息をつく。
「──ふぅ~。休憩しましょうか奏!」
「あ、あぁ」
丁度そのタイミングで黒服の人が飲み物を持ってきてくれる。奏は注がれているオレンジジュースを一気に飲み干してしまった。
「何かお前、いつも以上に気合い入ってるな」
「そうかしら? 自分ではいつも通りのつもりよ?」
……なんてのは嘘に決まってる。本当はずっと、奏がここに来た時からドキドキとしているのだ。あたしはそれを隠すために練習中は張り切っていた。
いいや、ドキドキを隠すためじゃないのかもしれない。
本当は逃げないようにするため。あたしの言葉に対する奏の返答は既に決まっている……、それはあたしの望むものではない──。
「いつも通り、ね。──なぁこころ、変な話をするけどいいか?」
奏が唐突に言うから戸惑ってしまう。
へ、変な話って何かしら……? ないと思うけど──。
「え、えっちな話は嫌よ……?」
もじもじとしながら言うと頭を抱えてため息をつかれる。
「お前は俺をどんな目で見てんだよ……。どう混乱しても女子にそんな事は話さない、いや話せねぇ」
「そっ、そうよね! ごめんなさい奏……。それで話って?」
すると奏は少し間を置いて話し始めた。だけど、それは奏を呼んだ事に繋がっていて……。
「まぁ、いや……。お前、好きな人はいるのか?」
まさか奏からこんな話をされるとは思ってもいなかった。
あたしは覚悟を決めて告白をする。
「──ええ、いるわよ」
「男女関係、の意味だぞ」
「ええ」
奏を見つめる。
二人しか居ない空間には先程のような賑やかな音は流れていない。
奏は別に驚くわけでもなく、いや知っていたかのように冷静にいる。
「あたしの好きな人……。ねぇ、奏……あなたに言いたい事があるのだけれど、いいかしら?」
「おう」
ゆっくりと奏の前に立つ。
鼓動が早くなっているのが分かった。
あの宣戦布告の後に花音から告白の事を聞いたけど、こういう感じだったのだろうか。
「あたしね、初めて男の人と仲良くなれたの。そしていつの間にかその人を意識していて、よく分からない感情が芽生えたわ」
後ろで手を組みながら気恥しいけど笑顔で言った。
「最初に会った時には喧嘩のようなのをしたけど、その人と話したり会ったりすると心がドキドキとしていたの。それは今も……なってるわ」
「最近、この気持ちの名前に気付いたわ。恋心──あたしはその人に恋愛感情を抱いていたの」
奏を見据えて話す。
思いを伝えるように…いや、伝える為に。
「傍で支えてくれると言ってくれた時、とても嬉しかった。優しくしてくれて、笑顔で話してくれて……、その人を考えるだけで毎日が楽しかったわ」
ギュッ、と両手を胸の前で強く握る。
そして想いを伝える……決して叶うことの無い願いを。
「あたしは、奏──あなたの事が好き──大好きよ!!」
〜奏side〜
「あたしは、奏──あなたの事が好き──大好きよ!!」
ほら来た、というのは失礼だろう。
こうなる事は黒服の人から話を聞いた時から確信していた。
外を見ると既に夕方になっていて窓からは夕日が差し込んでいる。その光はこころの魅力を倍増させているように思えた。
「……そっか」
俺はボソリと言う。
分かっていたけどキツイ。
花音とこころの二人から告白をされる、片方を受け入れれば片方とは付き合えない、そんなのは当たり前だ。
俺は花音に昔から秘めていた思いを今度伝える。それはこのこころの告白を拒否するという事で……こころを振るという事だ。振った後でもハロハピとして顔を合わせるのはとても辛い。
「ねぇ奏……奏は、あたしの事どう思ってるの?」
返事をしない俺にこころは問を投げかける。
「俺は──」
迷わないと決めた。
自分の気持ちに、想いに……。
「こころ。俺はお前の事は好きだ」
その言葉に驚くように目を見開く。
「だけど、俺は花音が好きだ。だからお前の告白は受けられない」
「──っ」
沈黙。
お互いの気持ちを打ち明けて時間が止まったような静かさが訪れる。
「あはは、っ……。そうよね、分かってたわ……」
力無く笑いながら弱い声で言うこころ。
「あー、やっぱり無理だったわね。花音には完敗だわ!」
こころはくるっと後ろを向いてしまう。その時に何か、煌めく何かが落ちるのが見えた。
「何で……告白をしたんだ。結果は分かってたんだろ?」
自分でも酷な質問だと思う、だけど理由を聞きたかった。
どうして分かっていたのに告白なんてしたのか、無駄な行動をしたのか、を。
「理由、ね……」
こころは制服の裾で顔を拭って、再びこちらを向いてくれた。
その顔は涙で顔が赤くなっているのが分かった。
「どんな結果でも逃げたくなかったから、かしらね。ここで逃げたら一生後悔すると思ったから……」
強いな、こころは……。
「ごめん」
どの言葉よりもその一言が出てしまう。
「どうして奏が謝るの? あたしはあなたが幸せになるならそれでいいわよ!」
無理に笑顔を作ってるのがバレバレだ。少しでも、少しでもいいからこいつを癒してあげたい。
俺はドラムの椅子から立ち上がりこころに近付いた。振った奴がするような事じゃないのは分かっている。だけどこんな事しか俺には思い浮かばなかった。
「ごめん、こころ。お前の想いを受け止められなくて……」
強くこころを抱きしめる。
そしていつかの言葉を繰り返した。
告白とは別の願い、その願いは叶えてやりたいから。……いや、叶えてほしいから。
「でもお前の傍で支えてやる。お前の“世界を笑顔に”という夢を、これからも支える」
真正面から抱きしめているから、こころは俺の胸に顔を埋める形になっている。
「……ぅ、あ」
こころから声が漏れた。
「う……うぁ……あぁぁ……っ。かなで、かなでぇ……!」
俺の名前を呼びながら、後から後から大粒の涙がこぼれ落ちている。
強いと先程思った少女、きっと思い詰めてたんだろうと思う。そんな少女の傍に居て支えてやれれば負担は減るし、辛くならない。
それに……心の支えにもなれるだろう。
俺はこころが泣き止むまでその背中をさすっていたのだった。
えーっと、更新ペースは学校始まったので遅くなるという事を先に伝えておきます(学校、バイト、他作品などなど)
グダグダでしたけど読んでくださりありがとうです! 完結までゆっくりですけど頑張りますので、これからもよろしくお願いします!
〜勝手な宣伝〜
それと僕の作品の登場人物である草薙奏と白羽総士が椿姫さんというお方の作品である「夕焼けに誓う幼馴染達」に登場しています! よろしければそちらも読んでみてください! とても甘々で面白い作品です!(勝手な宣伝、失礼しました!)