~美咲side~
「……えっ? それじゃあ付き合ってないんですか?」
「う、うん……」
「えー!?」
昼休みに前みたいに四人で集まり昼食をとっている中、あたしと彩さんは驚く。彩さんは花音さんに「何で何で!?」と質問をしている。
その間にあたしは千聖さんにあの話を持ち掛けた。
「あの、千聖さん」
「どうしたの?」
二人が盛り上がってる中小声で話す。
「その……花音さんの邪魔をしたい訳じゃないですけど、草薙さんの事が好きな人がもう一人いてですね……」
「それは……誰なの?」
「うちのバンドのこころ、何ですけど」
それを聞いた千聖さんはとてもビックリしている様子だ。まあそうだろう、好奇心の塊と言ってもいいこころが恋心を持っているなんて、全校生徒が驚くと思う。
「……それを私に言ってどうしたいの?」
「あ」
確かにそうだ。千聖さんに言ってあたしはどうして欲しいのだろうか? 助っ人と思っていたが何をすればいいのかも分からない。
「…………」
つい黙り込んでしまう。
すると千聖さんはくすっ、と笑い優しく話し掛けてくる。
「美咲ちゃん。あなたは友人を助けたいんでしょう?」
「は、はい」
「私は親友の気持ちを実らせるために手を貸したの、今美咲ちゃんがやろうとしているのと一緒。別に美咲ちゃんがする行動が私は邪魔だとは思わないわ。友人の為なんでしょ?」
「千聖さん……」
「お互いサポートする者として頑張りましょうね」
握手をする為か手を差し伸べる。白くて綺麗な肌だな、なんて思いながらあたしはその手を握る。
「でも、花音の為だから手は抜かないわよ?」
そんな笑顔で言わないで下さい、怖いです。
なんて事は言わずにあたしは苦笑いをしていた。
〜総士side~
「あの、総士先輩」
「ああ~何も言うな。分かってるから」
購買で適当に買ったパンを食べならが龍斗に言う。こいつが話そうとした事は既に分かっている。
「おーい奏ー。大丈夫かー」
「……あぁ」
気のこもってない返事に俺はため息をつく。
奏が今日こんな感じなのは花音との一件があったかららしい、それを聞いた俺は思わず「何だそれ」と言ってしまった。
「だーめだこりゃ」
俺は奏にやろうとしてた缶コーヒーを龍斗に投げる、龍斗は「ありがとうございます」と言って缶を開けて一口飲んだ。
「それで何であんな感じなんですか?」
何も知らない龍斗はさっきからあの状態(朝からだが)の奏に疑問を持っていた。はたしてこいつに花音の事を言っていいのかと一瞬躊躇ったが、別にいいだろと思い話す事にした。
「昨日花音から告られたらしくてさ、それで悩んでる」
「…………」
何を言われたのか分からないような顔で俺を見てくる。
「あぁ――俺の恋は終わったのか……」
「ま、いいじゃないか。選択肢が絞れて」
ガックリとしている龍斗の肩を叩いて声を掛ける。
「絞れたって。確かに未来の事は好きですけど恋愛感情ではないですよ」
「え? そうなのか?」
「そうですよ」
さらっと言われて驚く。
てっきり花音と未来、どっちかで悩んでるんだろうと思ってたんだが……。
「花音さんの事は残念だけど、最近は周りに花がありますしね」
ニヤニヤとしながら言う龍斗はどこか楽しそうだ。花というのは詳しく知らないが龍斗が楽しそうならまあいいとしよう。
「というか何で告白されたのにこれなんですか?」
「さぁな。花音の勢いに負けたんじゃないか」
「ふーん……何か変な話ですね。幼馴染みなのに」
その言葉を聞いて俺も思う事があった。
もしもつぐに告白されたら俺は素直に答えれるのだろうか、と。
「……俺も似たような境遇だからほんの少しは分かるが幼馴染みだからでもあるな。それまでの関係が一転するんだ、好きという気持ちもだがそっちも大きいさ」
「んー、やっぱ俺にはよく分かりませんね」
龍斗がコーヒーを飲みほすと同時に俺はパンを食べ終えた。奏を見ると三つあったうちのパンが一つに減っていてそれを持ってその場に立った。
「やるよこれ、お腹いっぱいだし……」
「(ジャムパンかよ)何だよもう帰るのか?」
「教室で寝とく」
そう言って先に帰ってしまった。
その背中を見ながら貰ったジャムパンの袋を開けて食べる。そんな俺を見て龍斗はパンに指を指して言う。
「あれ、先輩そのパン……」
「んん?」
指されてる場所を見ると賞味期限が書いてあり日付を見る。そこに記されていたのは。
「……切れてるじゃねぇか」
今日よりも三日前の日付だった。
「何だよ、あいつそんなに悩んでねぇんじゃねぇか」
「そうなんですか?」
案外区切りは付いてるのかもな。こんな遊びをしてくるくらいなら。
「(お前が踏み出せばいいんだ。それで結ばれるさ……)」
応援と想い人と結ばれるという羨ましさそれを持って心の中で思った。
〜花音side~
「花音」
帰りの挨拶が終わってから千聖ちゃんが私の席に来た。何やら教室の入口をちらちら見ている。
「どうしたの千聖ちゃん?」
「外でこころちゃんが待ってるの。花音に用事じゃないかしら」
こころちゃん? どうしたんだろう?
今日は学校で会ってないから話してないけど急な用事なのだろうか。携帯を確認したけど誰からも連絡は入ってない。
私は鞄に荷物を入れて千聖ちゃんやクラスメイトに挨拶をして教室を出る。
「こんにちはこころちゃん、どうしたの?」
綺麗な髪を揺らしてこちらを振り向く。
「花音にと~〜っても大事な話があるの! 今日この後時間はあるかしら?」
今日は部活もバイトも休みだから予定は特に無い。誰かと会う約束もないし――。
「(って、自分から逃げたのに何を言ってるんだろう……私……)」
考えを表情に出さずに答える。
「今日は何も無いよ」
「そう! それならよかったわ!」
パシッと私の手を取りどこかへ走り出す。向かってる先は……屋上だろうか?
「わ、わわっ……」
いつもとは違うスピードで階段を上ってるから慌ててしまう。
「はぁはぁ……っ、それで……話って?」
息を整えながらこころちゃんを見る。
こころちゃんはいつもの様に明るく笑顔で話してくれる。
「話は奏についてよ!」
「奏くん……?」
どうして奏くんの話を私にするのだろうか。幼馴染みでよく知ってるから? それともほかの理由が?
その考えはこころちゃんの一言で消え去った。
「単刀直入に言うわね。花音は奏の事が好きなのかしら?」
「……え?」
何でそんな話を私にするの?
「ど、どうして私に言うの……?」
戸惑いを隠せずに上ずった声になってしまった。そもそもこころちゃんがそういった話をしてくるの自体珍しい。
つ
「あたしね、花音。奏に告白しようと思うの!」
「ぇ――」
いつも以上に小さな声が出る。いや、もはや声が出たのかも分からなかった。
こころちゃんは一度決めた事は必ず曲げない、それは一緒にバンドをやってよく分かってる。だからこそそんな事を言われると不安になる。真っ直ぐ私の目を見て返事を待っている。
「それで花音はどうなのかしら? 奏の事好きなの? それとも――」
「す、好き……だよっ! 私っ、奏くんの事が好き!!」
その先の言葉を聞きたくなくて感情を露わにする。そんな私を見てこころちゃんは少し目を丸くすると同時ににやっと笑う。
「ふふっ、知ってたわ。だから聞いたもの!」
「ど、どういう事なの?」
こころちゃんの意図が分からなくてつい聞いてしまう。
「隠れていくなんて私の性に合わないわ。だから花音に恋の宣戦布告をしたの! 奏を私に振り向かしてみせるわ!」
私に指を指して宣言をしてくる。
昔の私なら逃げて黙っていただろう。だけど今は違う。奏くんは誰にも取られたくない、私の中でいないといけないくらいに大きな存在になっていた。
だから私は言い返す。いつもはおどおどしてる私だけど今回ばかりは――奏くんだけは譲れない。
「う、受けて立つよ! 奏くんは誰にも渡さないんだから……!」
あの時は逃げちゃったけど面と向かってそんな事を言われたらもう前に進むしかない。少しでも変わるために、こころちゃんに取られないために。
独占欲が強いと思われてもいい。だってそれくらい奏くんが好きだから。
「ふふっ……」
「えへへっ……」
お互いに何故か笑いがこぼれてしまう。
自分の気持ちを素直にぶつけるとスッキリとする。その影響なのだろうか? そう言えば中学の頃に奏くんにこう言われた事があった気がする。
『お前は何かと抱え込みすぎるからな。少しは自分の意思を言った方がいいんじゃねぇか? 少しは気が楽になるぞ』
確かにその通りだ。打ち明けると気が楽になる。
「珍しい花音が見れたわ! もうあたし達はライバルね!」
「ライバル……まっ、負けないからね? こころちゃんが相手でも……っ!」
奏くんを思う気持ちなら誰にも負けない自身はある。
「私もよ! 絶対に負けないわ!」
お互いの奏くんへの思いをぶつけた私達はライバルになった、けど今まで通りの関係でもありその後は話しながら一緒に帰った。
きっといつも通りなのはこころちゃんだからなのだろう。私はそれが嬉しくも思う。
「花音に負けないわよー!」
「ふええっ!? こ、こころちゃん道端で叫ばないで~!」
周りの人に見られるけどこころちゃんは気にしていない。私は気にしていたけどこころちゃんの笑顔を見てそんな気は無くなっていった。
今回も読んでもらいありがとです!