俺と君を繋ぐ音   作:小鴉丸

14 / 27
後編です。

今回から物語が大きく動いていきます。


第十四話 水族館へ【後編】

~奏side~

 

 

「奏くん! 早く早く!」

 

水族館の前に着いた途端、花音がいつになく元気に走って中に入る。

 

俺はその後を歩いて着いていき目的地に着いた。

 

入口に置いてあるパンフレットを手に取り目を通した。それで最初にどこへ行くかを考える。

 

すると横から花音が顔を覗かせてくる。

 

「どうする? クラゲ見に行く?」

 

「昼までの二時間か?」

 

「私はそれでも――」

 

「ごめん、俺がもたない……」

 

二時間もクラゲって……どんな罰ゲームだよ。クラゲ研究者じゃあるまいし。そもそも立っとくの疲れないのか?

 

「普通に見て回ろう、昼からはイルカショーがあるみたいだし」

 

「うん、分かった♪」

 

笑顔で返事を返してくる花音はとても楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

「わぁ〜! 凄いね!」

 

目を輝かせながら水族館を見て回る花音。

 

バンドを始めて少し変わったな、と思う所もあったけどこういうのは変わらないんだな。

 

横目で花音をちょこちょこ見ながら、俺も魚を見ていた。

 

「(おお、やっぱり面白いな……)」

 

歩いていくと鮫やエイといった普段見ないものを見れる。

 

俺は花音みたくこれといって好きな生物はいない。あまり興味が無いというのもあるが……。

 

「クリオネ……これは特に面白いよな」

 

何となく目に止まった。

ふよふよしてる点ではクラゲと似ている。

 

「うん。クリオネも見てて楽しいよね」

 

「たの――お、おう楽しいな」

 

楽しい、という感覚なのかこれは。俺の中では楽しいと面白いは全くの別物なのだが。

 

そして一つ一つ話しながら見ていくとある水槽の目の前に着いた。

 

「わぁ、クラゲ♪」

 

クラゲが少し見えただけでその場に駆け足に駆け寄る。その姿を見てると高校二年生なのだがそれよりも幼い様に見えた。

 

「見て見て、綺麗だね……!」

 

くるっ、と両手を後ろで組み俺の方を向いて笑顔で言ってくる。

 

その時の花音は水色のワンピースと水の色が重なり、水の中に花音がいてクラゲと遊んでる様に見えた。

 

「あぁ――綺麗だな」

 

それはどちらに言ったのか。

クラゲか花音か……、ま後者だろうけど。

 

それから花音はぼーっとクラゲを眺める。

 

「神秘的だよね」

 

「神秘……かどうかは知らんが」

 

本当、どうしてクラゲにそこまで魅力を感じてるのかは知らない。クラゲに軽く嫉妬だ。

花音には失礼だがふわふわとしてるのに共感を得たのだろうか……。

 

「何にも縛られずに彷徨う姿がいいよね」

 

「(盛り上がってきてる……)あ、ああ……」

 

頷く事しか出来ない。

いつもはふわふわして包み込んでくれる花音だが、今回は有無は言わせない、そんな威圧みたいなのがあった。

 

 

 

 

 

 

それからクラゲの話は三十分以上続いた。

 

「ご、ごめんね……つい盛り上がっちゃって……」

 

しゅん、となる花音。

 

「いや謝らなくていい、お前が楽しそうでよかったよ」

 

時計を見るとそろそろ昼になりそうだ。

 

俺は水族館の中にあるレストランへ向かうように花音に言う。

 

「ま、ご飯にするか。確かレストランがあっただろ」

 

パンフレットに載ってる地図を見てその方向に指を指す。

 

「うん、そうだね。……ありがと奏くん」

 

その笑顔に胸がドキッとしてしまう。

 

「何がだよ……、行くぞ」

 

照れ隠しをするように早歩きでレストランに向かった。

 

 

 

 

~花音side~

 

 

レストランでご飯を食べた後、私達はイルカショーが開催される場所へ向かった。

 

ちょっと早めに行けたからなるべく前の三列目に席を取ることが出来た。

 

「あっ、始まったよ!」

 

イルカショーが始まる。

五頭のイルカがトレーナーさんの合図とともにパフォーマンスをし始める。

飛んだり、泳いだりと色々なパフォーマンスが見れて他の観客から拍手が起きる。

 

「……イルカってこんな飛ぶんだな」

 

呆然として呟く奏くん。

 

「凄いよね。あんなに息ぴったり」

 

「共に過ごした時間がなせる技、なんだろうな」

 

どこか引っかかるように言う。

 

「ねぇ奏くん?」

 

「ん、どうした?」

 

「……いや、やっぱり何でもないよ」

 

笑って誤魔化す。

ここで更に余計な事を考えて欲しくない。

 

「? 変なやつだな」

 

『はい! 観客の皆さんー! 音楽に合わせて手拍子をお願いします!』

 

そこでトレーナーの一人がマイクに向かってそう言った。それと同時に音楽が流れて手拍子が起こる。

私達もそれに合わせ手拍子を始めた。

 

リズムよくイルカがジャンプをしたりして観客を楽しませている。

 

「――まるでライブだよな」

 

ふとそんな事を言う奏くん。

 

「うん、みんな笑顔で楽しんでるね」

 

「……こころも」

 

どうしてこころちゃんが出てきたのか?

 

私は疑問に思う。

 

「ハロハピもこういう笑顔のために存在するんだな。こころの夢、世界を笑顔に――って」

 

グッと手を握る。その横顔は奏くんがエタハピとして活動していた時の顔にどこか似ていた。

 

「みんなを笑顔に。同じものを持ってるんだ、それなら支えないとな……こころを。ハロハピを。」

 

こんな思ってもらえるなんて、こころちゃんに嫉妬してしまいそうになる。

 

でも奏くんはそのために私達と共にいる。だからそう思うのは当然だろう。

 

「応援するよ? みんなの夢だもんね」

 

それは嫌っていたものとの向き合いを示していた。

 

奏くんは向き合うと決めたんだ、自分の過去に。過去を克服し、次へ繋げるために。

 

「(私はみんなを支える奏くんを見てるだけなんて嫌だよ。何も出来ない、何の力も無い私だけど……出来る事があるかもしれない)」

 

奏くんが好きだから……、隣で寄り添って支えたい。自分勝手なわがままでもそれが私の気持ちだから。

 

そのためには――。

 

 

 

私も奏くんのように手を握り、ある覚悟を決めた。

 

 

 

 

~奏side~

 

 

「今日は楽しかったね」

 

満足そうに言う花音。

 

今は水族館から出て家に歩いて帰ってる途中だ。電車に乗った時点で既に日は降りていて、こっちに着いた頃には暗くなっていた。

 

周りには仕事や学校帰りの人達が多くいる。

 

「ああ。久々に二人で出掛けれて俺も楽しかったよ」

 

こういう面では千聖には感謝しないとな。

二人で居ることはあっても俺の家だから未来がいる、それなら実質三人という事になる。

 

「そういえば他のみんなと会った?」

 

「莉緒とかか?」

 

「うん」

 

話す話題を探していた所に花音が聞いてくる。

 

「ちょっと前に話をしたな。最近は楽しい、だってよ」

 

確か家に外国人が来たとかなんとか……。

それと、よく一緒に行動している九郎は外で会う機会は滅多にないだろう。なんせ家にこもってゲームだし……これについては花音も知ってるから聞かない。

 

「総士くんは? 同じクラスだよね」

 

「あいつは相変わらずだな。うん、うるさいの一言」

 

「あはは……。そ、そうだ龍斗くんはどう? 音楽、再開したんだよね?」

 

「らしいな。どこでやってるのかは聞いてないけど」

 

そう、再開したのは知っている。けどどこで練習をしてるのかは知らない。

知ってそうなのは総士か九郎だろう。

 

「私は誕生日の時から会ってないから、みんな元気そうでよかったよ」

 

そうか。全員で集まったのはあれが最後か。

 

総士と龍斗は高校が同じだからよく会うが、違う高校の莉緒と九郎はあまり会わない。

そう考えると俺もあまり会ってない事になるのか。

 

それぞれの道を歩いてるもんな。――もう高校なんだし。

 

 

 

 

 

 

それからはハロハピの事を話しながら歩いた。

 

花音がこころに誘われた事、ハロハピのメンバー集めの事、豪華客船に乗った事……聞いててそんな出来事があったなら花音も変わるだろ、というのもあった。

 

そもそも人前に出る事が苦手だった花音がライブしてるのすら冗談だろ、と思える。それはエタハピの全員も思うだろう。

 

「話を聞いてるだけで疲れる……美咲は凄い、あいつらをまとめれるんだから」

 

「みんなミッシェルが美咲ちゃんだって気付かないんだもん、それについては美咲ちゃん自身も諦めちゃったみたい……」

 

苦笑いから察する。

 

「見てるだけで大変そうだもんなぁ」

 

重ねて見るなら。

こころ、はぐみが総士と莉緒、薫は龍斗、花音が九郎で美咲は俺といった感じか。

 

そんな事を考えてる間に俺の家の前に着いていた。そこで俺は花音と別れの挨拶をして家に入った――

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

「それじゃ花音、今日はありがとな。また今度――」

 

「か……奏くん!」

 

別れの挨拶をしようとしたら急に大声で俺の名前が呼ばれる。そして何かを言いたげに口ごもる。「どうした? なんかあったか?」と、俺は聞く。

 

「えと……あのぉ……」

 

下を向きながら先ほどの声とは反対に弱々しい声で言う。だけど数秒後、頭を横に振り俺を見据える。

 

「い、今から奏くんに伝える事は一方的な事なのでただ聞いていてください!」

 

強く言われる。だけど俺は何を言うのかを聞いていない。

 

大きく二回深呼吸をして、その言葉は紡がれる。

 

「まず私には好きな人がいます。その人はとても優しくていつも私を助けてくれます」

 

は? 急に何を言い出すのかと思えば……。

 

「その人はとても強くて、同時にとても弱いです。私が言うのも変な話だけど……。だけど弱い私はその人をずっと見てきました」

 

間を取りながらも完成されていく言葉。俺はただ言われた通りに聞くだけ。

 

「いつの間にか私にとってその人はとても……とても大きな人となり、一つの感情が生まれました。その感情は今までに体験した事のない感情で……その感情が“それ”と気付くのは時間がかかります」

 

少しの月明かりに照らされる中、花音を見続ける。

 

分からない。何でそれを俺に言うのかも、だってただの幼馴染み――

 

「時間がかかったのはきっとその人とずっと近くにいたから。その幼馴染みとはずっと一緒だったから」

 

――俺が幼馴染み(花音)に抱く感情を知らないこいつ(花音)が――

 

「ねぇ――奏くん」

 

一歩、二歩……と俺に近付いてくる。不意に鼓動が早くなる。

 

そして彼女(花音)は俺を見て。

 

 

 

 

「私ね──

 

 

 

 

 

何でそんな、俺と

 

 

 

 

──奏くんの事が好きです。幼馴染みなんかじゃなくて、異性として」

 

 

 

 

 

 

感情と同じ事を言ったんだ?

 

 




前書きでも言った通りに話は動きます。
こういう話は初めてなので至らない点が多いと思いますが頑張りますのでよろしくお願いします。

今回も読んでもらいありがとです!


追記:感想や評価をしてくださった方、ありがとうございます! 頑張りますのでこれからも俺君をよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。