感謝感激雨霰!
黒ウサギの話を聞いた後、箱庭を目指し後ろをついて行っていると、
「なぁチビ、ちょっと世界の果てでも見に行かねえか?」
十六夜が話しかけてきた。
確かに世界の果ては気になるな、しかも少し不思議な気配がするし、よし世界の果てに行こう。
でも、
「行きますけど、チビはやめて下さい。私はもうすぐ中学生です。気軽に死音と呼んで下さい、金髪のお兄さん」
「ああ、悪い悪いヤハハハハ。お前も十六夜でいいぜ死音」
「分かりました、十六夜さん。少し飛鳥さんたちに言ってきます」
「おお、早くしろよ」
そういい、飛鳥さんたちに話しかける。
「耀さん、飛鳥さん。」
「……。何?」
「何かしら、死音君?」
「少し十六夜さんと世界の果てまで行ってきますので、後で黒ウサギさんに言ってもらえますか?」
コクッ
「ええ、分かったわ」
そういい、承諾してくれた。
「ありがとうございます。じゃあ、十六夜さん行きましょう!」
「ああ」
こうして十六夜さんと私で世界の果てまで目指し行くのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよ〜!」
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」
「はいな、こちらの御四人様がーー」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。
カチン、と固まる黒ウサギ。
「………え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から俺問題児ってオーラを放っている殿方と、かなり不思議なオーラを放ち、ジン坊っちゃんと同じくらいの背丈の殿方が」
「ああ、二人のこと?それなら死音君が後で黒ウサギに言っておいてといい、駆け出して行ったわ。あっちの方に」
あっちの方とは上空4000mから見えた断崖絶壁。
黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「すぐ行ってしまったもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか⁉︎」
「後で黒ウサギに教えてと死音に頼まれたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっだだけでしょう御二人さん!」
「「嘘じゃない、でもそれもある」」
ガクリ、と前のめりに倒れる黒ウサギ。
ジンは蒼白になって叫んだ。
「た、大変です!世界の果てにはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、世界の果ての周りには強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!」
「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンが必死に事の重大さを訴えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。
黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。
「はあ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児たちを捕まえに参ります。事のついでにーーー箱庭の貴族と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
悲しみから立ち直った黒ウサギは髪を緋色に染めていく。
「一刻程で戻ります。皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」
全力の黒ウサギは地面に亀裂を入れ、弾丸のように飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去った。
「………。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが…………」
そう、と飛鳥は空返事をし、ジンに向き直り、
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーのジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。二人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
「それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取り、笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さっきぶりです、皆様。
今こちらは、滝まで来ております。
どうも、偉そうな蛇が、試練を選べ、と上から物を言ってきた。
どうやらそれが気に入らない十六夜が、俺を試せるのか試させてもらう、といい殴り今に至る。
「たくよー、見掛け倒しにも程がある。」
「確かに、見た目よりは弱かったですね」
軽く談笑をしていると、
「もう、一体何処まで来てるんですか⁉︎」
どうやら黒ウサギが追いついたようだ。
それにしても、よく此処まで半刻でこれたなー、結構速く走ったのに。
「しかし良い脚だな。死音に合わせて走ったとはいえこんな短時間で追いつけるとは思わなかった。」
合わせてくれてたんだ、十六夜。
まあ、別に夢幻召喚すればもっと早く走れるけど。
「むっ、当然です。黒ウサギは箱庭の貴族と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが………」
うん?どうしたんだろう、急に黙って、
「どうしたの黒ウサギ?急に黙って」
「あっ、いえ、なんでもありません。まあ、ともかく!御二人が無事で何よりデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしました」
「「水神?ーーーああ、アレのこと?」か?」
え?と黒ウサギは硬直する。
二人が指したのは川面に浮かぶ白くて長いものだ。
突然、その巨体が鎌首を起こし、
「まだ…………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ‼︎」
「蛇神…………!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか⁉︎」
「なんか偉そうに、試練を選べ、とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるのか試させてもらったのさ。結果は、残念な奴だったが」
「瞬殺だったもんね十六夜さ……面倒くさいや呼び捨てでいい?」
「好きにしな」
「付け上がるな人間共!我がこの程度で倒れるか‼︎」
蛇神の甲高い咆哮が響き、巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。
「十六夜さん、死音さん、下がって!」
黒ウサギが庇おうとするが、
「何を言ってやがる。下がるのはテメェだ黒ウサギ。手を出せばお前から潰すぞ」
「そうだね。十六夜の言う通りだ。黒ウサギは下がってて」
そうだ、やっとなんだ。
神様からもらったものを試せる、生まれて12年この機会を待っていたんだ。
誰であろうと邪魔立ては許さない!
「その心意気はかってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様らの勝利を認めてやる」
「寝言は寝ていえ。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」
「そうだね。早くしてよ蛇さん」
そうだ、早く来い!
「フンーーーその戯言が貴様らの最後だ!」
「十六夜さん!死音さん!」
竜巻く水柱が十六夜と私にそれぞれ襲いかかる。
しかし、死音は慌てず一枚のカードを手に持つ。
「山の翁、限定展開」
すると、手には背丈に合わない大剣が現れ、死のプレッシャーが場を支配する。
常に山の翁のオーラを浴びていた大剣はオーラがこびりつき居るだけで周りにプレッシャーをかける。
これが夢幻召喚をするとさらに濃密になり精神の弱い者は気絶してしまうため、あまり夢幻召喚が出来ない理由の一つになる。
そして、静かなだだその場に少年の声が響く、
「何処だ」
瞬間、地面から蒼の炎柱が立ちのぼり、水柱を消滅させる。
「嘘⁉︎」
「馬鹿な⁉︎」
驚愕する二つの声。
どうやら十六夜も同時に防いだらしい。
蛇神は人間に防がれ放心するが、十六夜がその隙を見逃さない。
「ま、なかなかだったぜオマエ」
といい、十六夜が胸元を蹴り蛇神は地面に打ち付けられる。
って、うわー!めちゃくちゃ水がかかったー!
「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだろうな黒ウサギ」
そうだ、そうだ。
と、心の中で同意し、限定展開を解除して二人のやり取りが終わるまで座る。
しばらくたち、
「すいません、死音さん。このおバカ様のせいで待たせて」
「ヤハハハハ、悪りー悪りー」
「別に良いですよ、見てて楽しかったですし」
「ありがとうございます。ところで先程のは?急にオーラが変わりましたが?」
「そうだぜ、なんだあの面白そうなのは?」
あー、確かに急にアレは驚くよな〜けどアレが面白いって十六夜すげーな
「アレ?まあ今度話すよ。それよりも十六夜、気づいているよね?」
「もちろんだ、黒ウサギ。今は死音じゃなくてオマエが話す番だ。」
「……………なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームのことも」
「違うよ、黒ウサギ。聞きたいのはそういうことじゃなくて、どうして私たちを呼び出す必要があったのかということだよ」
黒ウサギは動揺を隠すが山の翁の魂を宿している私には通じない。
どうやら、十六夜も確信があるようだ。
「それは………」
「これは俺の勘だが、黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退したチームかなんかじゃねえのか?だから俺達を召喚し、組織を強化しようとした。そう考えるとお前の必死さや、今の行動も合点がいくーーーーーどうよ?百点満点だろ?」
「っ………………!」
「おー、十六夜すごいね。探偵みたい」
ほんと凄い、私はキングハサンさんの勘で何かを隠しているのは分かったがそこまでしっかりとは分からなかった。
「おい、黒ウサギ。なんか言えよ。黙っても状況は悪化するだけだぞ。それとも他に行って良いのか?」
「や、駄目です!いえ、待って下さい!」
「だから待っているんだろ」
「そうだよ、黒ウサギ。いいから隠していることを教えて」
しかし、黒ウサギは下を向いたままだ、
「ま、話さないなら俺は他に行くだけだ」
「……話したら、協力していだけますか?」
「ああ。面白ければな」
「出来ることなら協力するよ」
決心がついたのか、ゆっくりと話し出す。
まず、黒ウサギのコミュニティは旗と名を奪われたノーネームであること。
次に、中核を担う仲間達は居なくなり、黒ウサギとジン以外は子供たちだけであること。
そして、それらは全て魔王と呼ばれる存在にやられたこと。
新しく作っては?という意見も仲間達の帰るところを守りたい為ダメだという。
「茨の道ではあります。けど私たちは仲間が帰る場所を守るため、コミュニティを再建し……………いつの日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さん、死音さん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか……………⁉︎」
黒ウサギの偽りのない気持ちが分かった。
もとより、そうだったが
「私は協力するよ」
「死音さん」
「もし嘘をついても力は貸すつもりだったんだ。私は救われたからね」
「救われた?」
「うん。この世界の招待された、その時私は黒ウサギ達に救われたんだ」
そう、私は一人だった。
一人、異常な力を持ち誰からも避けられた。
世界を旅して闘ったが誰一人私傷つけることさえかなわなかった。
過剰、オーバーキルだったあの世界では孤独になるはかなく、一人剣を振っていた。
そんな時、黒ウサギは私を呼び招いてくれた、久しぶりの人とのふれあいだった。
だから、
「何があっても私は黒ウサギ達のコミュニティに入るよ」
「死音さん………ありがとうございます」
こうして私は黒ウサギのコミュニティには入り、十六夜もコミュニティに参加した。