【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0090話『瑞雲浴衣祭り』

 

 

 

 

 

先日は七夕で色々と楽しめたと思う。

特に曙とか満潮とか霞とかの普段本音を隠してきつく当たってくる子達が短冊に素直な言葉を書いていたのは印象に残っている。

まぁ内容もそこそこに今日も頑張らないとな。

私はそう思い本日日本全国の鎮守府と自治体が協力して行われる『瑞雲浴衣祭り』に関して色々と考えを練っていた。

浴衣に関しては去年から限定グラで着慣れている神通とかたくさんいるからそこら辺の着付けは彼女達に任せよう。

なにやら速吸や明石が特注で瑞雲浴衣祭りに備えて法被を作っていたようだけど今回は目をつぶろう。

 

《提督。本日は浴衣はどうされますか……?》

「そうだなぁ。私としては男性の時だった時も浴衣なんて着た経験がないからどうしようか悩んでいる」

《でしたら長良型の皆さん辺りに頼んでみませんか……? 彼女たちでしたら姉妹の子達にも着させていたのを覚えていますし》

 

そうなんだよなぁ。

特に長良とかは今日という日を楽しむ気満々で着付けを今しているとからしいし。

そんな時だった。

バンッ!という勢いよく扉が開かれた。

何事だ……?と思っているとそこには浦風と浜風が浴衣を着て執務室に入ってきていた。

 

「提督さん、うちが着付けの手伝いをしてあげようかの」

「提督。この浜風にお任せを。しっかりと着付けをエスコートします」

 

そんな事を言っていた。

いつから聞いていたんだという思いもあるけど、

 

「二人とももう楽しむ気満々だな」

「当り前じゃ。せっかく町ぐるみで祭りを開くというじゃけぇ。縁日も楽しまないと損じゃ」

 

浦風がその独特の広島弁で楽しそうに喋っていた。

そして浜風がその手にいつの間にか用意していたのだろう私の大きさの浴衣を持っていた。

そこから察するにもう逃げられないなという思いだった。

 

「わかった……。それじゃ私の私室に向かうとするか。浜風、着付けを頼む」

「お任せください提督。浜風、この日のために抜かりはありませんから」

「お手柔らかに頼む」

 

それで私達は私室へと移動する。

そこで初めて私の私室に入ったのか二人は少し楽しそうに笑みを浮かべて、

 

「ここが提督さんの部屋なんじゃね。なにか掘り出し物でもあるかのう?」

「浦風、いけません。提督のプライベートを勝手に詮索するものではありませんから」

 

浜風はそう言うけどすでに榛名に知られている時点でプライバシーのへったくれもないんだよな。

まぁいいだろう。

 

「それでどうする……?」

「はい。まずはパパッと着ている服を脱いでくださると助かります」

「わかった」

 

それで私は着ている提督服を脱ぎ出そうとするけどそこで浦風が「わわっ!」と声を上げた。

どうした……?

 

「提督さん。いきなり脱ぎ出すのはいかがなもんじゃ……?」

「そうは言っても脱がないと着付けができないだろう? それに今更じゃないか……?」

「そうですね。浦風は初心ですね。前に一度磯風を先頭にして提督がお風呂に入っている時に突入した時がありましたではないですか」

「そうじゃけど……あの時は磯風が乗り気で行っていたからついていっただけじゃし……」

 

それで急にもじもじしだす浦風の姿を見て思い出す。

そう言えばお風呂に突入してきた時も浦風一人は少し言葉数が少なかったなと……。

まぁそりゃそうか。

外見は榛名だとはいえ中身は男性なんだから少しは羞恥心があってしかるものだからな。

そこら辺は磯風、浜風、谷風の方が感覚が麻痺しているんだろうな。

それに磯風とかに限っての話じゃないし。

さすがに軽巡から上になってくるとあんまり一緒には入ってこないけど(金剛達は別として)うちの駆逐艦の半数以上は一度は私と一緒にお風呂をともにしている。

私の気持ちも無視しての暴挙であった。

男として見られていないのを悲しいとみるべきか悩みどころである。

 

 

―――閑話休題。

 

 

「わかった。それじゃ浦風は着付けが終わるまで後ろに向いていてくれ」

「わかったけん……」

 

それで浦風は顔を赤くさせながらも後ろを向いた。

それを見て浜風はため息を吐きながらも、

 

「それでは気を取り直して、提督。着付けをしますので……」

「わかった。頼む」

 

それで私は服を脱いでさらしとパンツだけの状態になった後に浜風に用意してもらった浴衣に袖を通して最後に帯をしめてもらう。

浜風が「少しきつく締めますね」と言った後にお腹が締められる感覚は中々味わえないものだった。

最後に浜風が私の髪形を少し弄っているようで簪などを取り出して髪を纏めた後に簪で固定していた。

 

「はい。提督出来ましたよ。鏡で確認してください」

「ああ」

 

それで私は私室にある鏡台で確認をする。

それで私と榛名は同時に感嘆の声を上げる。

 

《私が私じゃないみたいです……》

「ああ。普段見慣れている榛名とはまた違った印象だな」

「お気に召しましたか? 提督」

「ああ。ありがとう浜風」

 

そこでようやく終わったのを確認できたのか浦風がこちらを振り向いてくる。

そして、

 

「うわっ! 提督さん、もとから榛名さんで綺麗じゃったけど余計にきれいになったのう……浜風ナイスじゃ」

「はい。浦風にそう言っていただけるとやった甲斐がありますね。それでは提督。準備もそこそこに町の町内会に顔を出しに行きましょうか」

「そうだな」

 

それで私達は町に繰り出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……うん。予想していた事だけど下駄ってとても歩きづらいな。

そんな事を思いながらも町内会へと顔を出すとそこで町長さんが少し驚いた表情になりながらも、

 

「おう……提督のお嬢さん。綺麗になりましたな」

「はは……どうも」

 

褒められるのに慣れていないのをなんとか気にせずに本日の予定を話していく。

 

「それで町の活気はどのような感じになっていますか……?」

「ええ。盛況と言えるでしょうな。艦娘の皆さんにも深海棲艦が来ないか見張ってもらっていますので不安になる事はありませんしね」

 

そう、今は川内を中心に交代で近海の海を哨戒してもらっている。

この日のために頑張って着付けをしようとしていた者も数名いるのでその恨みを今頃深海棲艦に向けて発散している子もいるだろうしな。

 

「そうですか。それでは本日も盛り上げていきましょうね」

「はい。よろしくお願いしますね」

 

そんな話をしながら私と町長さんはそこそこ暗くなってきた夜の町を回りながらも今後の事に関して話していた。

 

「しかし……提督さんの艦娘達は素直な子たちが多くて助かっていますよ」

「そうですか?」

「ええ。聞く話によりますと他の鎮守府の提督と艦娘はこんな行事には参加しない人達も多いと聞きますので……」

 

それを聞いてやはりか……と思い至る。

私の方が異端だと思われるのも癪だけどこの世界の提督達は基本深海棲艦を倒すために日夜心身をすり減らしていて心に余裕がないのだろうな。

だからこんな大本営が企画したある意味提督達にとっても癒しのイベント事でも参加するくらいなら深海棲艦を倒している方が戦果にも繋がるからいいだろうという考えをする提督が多いと前に柳葉大将に電話で聞いた覚えがある。

 

「そうですか。まぁ、仕方がないですね。きっと私の方が他の提督の方々と比べて考えが甘いんだと思います」

「そんな事はありませんよ。提督さんが普段たまにこうして町に視察として顔を出してくれているおかげで私達町の者達は安心して暮らしていけてるのですから……。

特別な視線も向けることは無く提督さんも町の一員として見れるので私達役員もいちいち緊張せずに付き合いができるので助かっています」

「持ちつ持たれつな関係ですね」

「そうです。ですから提督さんも気にしないでください。世間の目なんて私達でなんとかしますから」

 

そう、町長さんは言ってくれた。

ここまで町の人達と信頼関係を結べていてとても嬉しいと思う。

いまだに庶民感覚が抜けない私としてはこんな関係がベストな状態だなと感じていた。

それから町長さんと町を回りながら艦娘達がわざわざこの日のために練習して出している屋台や踊りを見ながらもまた記憶の一ページにこんな楽しい思い出を刻んだのであった。

 

 

 




今回は瑞雲はあんまり出てきませんでしたね。
代わりに町の人達との関係を表現できたと思います。
提督はもう感覚が麻痺していますねー。積極的な駆逐艦が多いですから。
うちの浦風は初心です。



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