「いっひひ! 提督、ちょっといいかい?」
「失礼します、提督。少しよろしいでしょうか……?」
朝の執務をしていた私のところに江風と海風が執務室に入ってきた。
この二人が一緒にいるのはよく見る光景だから別段不思議には思わないな。
なんせ同時期に実装された二人だからな。
仲がいいのは当然だろう。
そんな二人が私に何か用があるらしい。
この二人が関わってくる用と言えば大体姉妹関係に絞られてくる。
お調子者の江風にしっかりものの海風。
その二人をして用と言えばだいたい分かってきた。
それで私は言葉を出す。
「……どうした? 山風関係でなにかトラブルでもあるのか?」
それで江風と海風の二人は目を見開いた。
そして、
「……提督さ。なンか察しがよくね……?」
「はい。海風も驚きました……提督は読心術でもお持ちなのでしょうか……?」
二人して不思議がっている。
だってな。
「いや、大体わかるだろう。二人が一緒に来るときはいつも山風の事しか話さないじゃないか……?」
「……ン? そう、かな……?」
「そうだったでしょうか……?」
「そうだ。自覚はした方がいい」
そう。どちらか一人の時だったら別の話になるんだけどこの二人が揃うとどうしても山風の話に流れてしまう。
まぁ、その気持ちは分かる。
私も山風が実装されると聞いてそのビジュアルを見た時には生みの親であるイ○ソさんには感謝したものだ。
そのあふれ出る可愛さからくる言葉とは裏腹に実はかまってちゃんな山風は私の心を射抜いた。
そしてイベントが始まってさぁ掘りをするぞ!と息巻いていた一週目のボス撃破でなんと一発で来て度肝を抜かされたのは記憶に鮮明に焼き付いている。
それでイベントが終わったら速攻戦力レベルには練度を上げたものだ。
………っと、私の内事情はいいとして。
私は気持ちを切り替えて二人に今回は山風が何かをしたのかという感じにやんわりと聞いてみた。
すると、
「……いや、実際山風がなにかをしたって訳じゃないンだけどさ……なぁ海風の姉貴?」
「はい。提督のお力を貸していただきたいんです」
「それは一体……?」
「はい。山風がちょっと部屋に閉じこもってしまいまして……」
それを聞いて私は思わず天を仰ぐ。
人見知りの山風が部屋に閉じこもってしまったというのは例えで言うと神話でアマテラスが岩戸隠れしたようなものだ。
それほどに厄介な案件だな。
「しかし、またどうしてそんな事になってしまったんだ……?」
「いやー……それがさー」
「じー……」
どこか目が泳いでいる江風。
そしてどこか厳しめの視線を江風に送る海風。
まぁそれで理由はともかく江風が原因だというのはわかった。
「江風……? なにがあったか言ってみなさい。なに、怒ったりしないから」
「ホントか……?」
「うん。内容によるけどね」
うん。よほどのことがない限りは怒らないよ?
ただ山風をいじめたとかだったら叱るつもりだけどね。
「うー……榛名さんの顔でそんなニッコリ笑顔を浮かべられるとなにか後が怖いんだよなぁ……」
「江風。正直に話したらどう……? どうせそのうち白状しなくちゃいけないんだから」
「そうなンだけどさぁ……」
それで頭をポリポリと掻く江風。
だけど少ししてとうとう白状する気になったのか溜息を吐いた後に、
「ちょっと山風とな、時雨姉についての論争が巻き起こっちまって……」
ここで時雨と来たか。
江風と山風は、いやだいたいの白露型は時雨の事を慕っている。
だてに佐世保の時雨とは言われていないから時雨に関しては信者が多いイメージなんだよな。
「それでどんな論争が巻き起こったんだ……?」
先が読めるだけに少し疲れた感じの私の声の覇気のなさに江風は不満そうに表情をムスッとさせるけどそれを我慢したのか語りだす。
「そのな……江風と山風のどっちがどれだけ時雨姉の事が好きかで勝負していたンだ」
「ああ。……やっぱりか」
「提督も予想されていたんですね。はぁー……」
それで海風とともに溜息を吐く私がそこにはいた。
「なンだよー! 別にいいじゃンか! 実際白露型のみんなだって時雨姉の事が好きだろう!?」
「まぁ、そこは否定しませんけどね」
海風も少し頬を赤くさせながらそこには肯定していた。
やっぱり姉妹同士だと似ている感情があるのだろうな。
「それでなンだけど……話がヒートアップしちまっていつの間にか山風が涙目になっちまってて『もう! 江風なんて知らないんだから!』……って言って部屋に閉じこもっちまったんだよな」
あー、容易く想像ができる私の想像力が逞しいのか?
しかしそれだと私の手にも余る案件だと思うけどな。
まぁ、頼られたんだから役には立ちたいよな。
「わかった。まぁ結局は喧嘩だけど喧嘩両成敗で二人にはあとで反省してもらうとしてとにかく山風を部屋から出すことを考えないとな」
それで江風と海風と一緒に山風の部屋へと向かいながら、
「しっかしどうする提督……? あの山風は強情だかンな。なかなか出てこないと思うンだけど」
「そこはなんとかするさ」
「提督。頼りにしていますよ」
それで山風の部屋の前に到着する。
そしてノックをすること数秒して、
『…………誰?』
「提督だ。山風、少し話をしないか……?」
『やだ……今はそんな気分じゃない……』
うん。分かっていたけど今の山風の精神状態はまるで頭を隠す亀だな。
「そう言わずに。今ならもれなく間宮に誘ってやるぞ」
「うっわ。間宮で釣るか。提督もなかなかずる賢い……」
「黙っていなさい江風」
『江風がそこにいるの……?』
「ああ。江風は山風と仲直りしたいって言うから許してやったらどうだ……?」
『それもやだ……あたしの方が時雨姉の事が好きだもん……』
「うん。それに関しては否定はしないよ。だけどさ、私は思うんだ」
『なにを……?』
「ああ。人好きの度合いなんて人それぞれだから比べるまでもないと思うんだ。好きなら好きでその気持ちをしっかりと通せばいいじゃないか? その山風の気持ちは嘘じゃないんだろう……?」
『……うん。時雨姉の事が好きなのは誰にも負けないつもり……』
「それならこうして部屋に閉じこもっていないで堂々と時雨の事が好きだと江風に言ってやればいいじゃないか」
『でも、絶対江風はバカにしてくる……』
「いやいや! そこはバカにはしないって!」
そこで話を聞いていた江風が思わずツッコミを入れる。
「江風だって山風に負けないくらい時雨姉の事が好きなつもりなンだ。だからさ……山風にも提督が言ったように正直に気持ちをぶつけてきてほしい」
『江風……』
「だからさ。出て来いよ?」
『うん……わかった』
それで山風は扉を開けて外に出てきた。
それで海風も嬉しかったのか山風に抱きついていた。
「よかったわ。山風、もう江風と喧嘩しちゃだめだからね?」
「……うん。海風姉、わかった」
「うんうん。よかった。これで私のお役は御免かな?」
「ン。ありがとな提督。少しは役に立ってくれてあンがとな」
「はは。それならよかった。それじゃ私はちょっと野暮用があるんで先に行かせてもらうよ。もう喧嘩するなよ」
「わかってるって!」
「うん……我慢する。提督も、ありがとう……」
それで和気あいあいな空気の三人を見ながらもその場を後にして少しして曲がり角を真っすぐ通る際に、
「……愛されているな、時雨」
私はそう独り言のように呟いた。
そのまま通り過ぎる背後で小さい声で、
「気づいていたのかい……? 恥ずかしいな……。でもありがとう。提督……」
という時雨の言葉が聞こえてきたが気づかないふりをしてやってあげた。
これも優しさだよな。
最後にこっそり聞いていた時雨を出しました。
時雨は白露型の中ではみんなに愛され系だと思うんですよね。
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