【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0069話『ホームシックと信じてあげる事』

 

 

 

 

 

今日は雨の中だけど村雨と春雨ともに町への視察に来ている。

そんな中で村雨がとある事を言い出す。

 

「ねぇ提督。提督っててるてる坊主って作った事はあるかしら…?」

「…てるてる坊主か。懐かしい響きだな。昔は姉妹の姉と一緒に作った事があるけど大きくなって結局は迷信だったというオチで作らなくなってしまったよ」

 

私が「ははっ」と笑いながらそんな事を言うが春雨は少し論点をずらして聞いてきた。

 

「司令官にはお姉さんがいたんですか…?」

「ん? ああ、上に二人くらいな。私の家系はいとこも含めて女が多かったから男の私は肩身が狭かったよ」

「ふーん…? だからかぁ。提督ってどこか私達の扱いに慣れているような感じだったけど女性と接する機会が多かったからなのね」

「それもあるけどな」

 

村雨にそう返事を返しておく。

それと少し論点がズレてしまっていたな。

村雨は先ほどはてるてる坊主の話題をしていたのに私の姉の話に置き換わってしまったからな。

だから軌道修正しないとな。あんまり過去は探られたくないし。

 

「それよりてるてる坊主の話題だったな」

「あ、そうだったわね。私からふったのに忘れそうだったわ」

「はい。司令官のお姉さんの話題で途切れそうでした」

 

二人も頭から抜けそうだったらしい。

危ない危ない…いまさらもう会えない家族の話題を出しても悲しくなるだけだしな。

これでいいんだこれで…。

少しホームシックな気持ちを抑えて気持ちの奥底へと追いやる。

今は艦娘達という家族がいるからそれでいいじゃないか。

そんな事を思っている時だった。

 

《提督…? 無茶をしたらダメですからね?》

「榛名…なんだ? やっぱり気づいちゃった口か?」

《はい。提督の心の痛みが少し伝わってきましたから》

「え? どういう事…榛名さん?」

「教えていただけませんか…?」

 

それで村雨に春雨も私の事を気遣ってか話を榛名に聞いていた。

いかんなぁ…今は探られたくないんだけど…。

 

「榛名。今はここだけでおさめてもらってもいいか? あまり他の子達に心配をかけたくはない」

《はい。提督がそうおっしゃるなら…村雨さんと春雨さんもいいですね?》

「ええ。ここだけの話題にしておくわ」

「だから教えてください」

 

榛名の真剣な言葉に二人も真剣な目で返して話を聞いてくれていた。

 

「まぁ、なんだ? ただのホームシックだからあんまり気にしないでくれ」

「ホームシック…提督、やっぱり家族の人達と会いたいの?」

「まぁ、本音を言えばまた会って話をしたいとは思っている。だけどいいんだ…」

「どうしてですか、司令官さん…?」

 

二人は分からないらしく私に心配の眼差しを向けてくれる。

だから二人にも分かりやすいように二人の頭に手を置いて、

 

「今は君達という家族が一緒にいてくれるから、だからいいんだ」

「提督…」

「司令官さん…」

 

私は安心してくれるように笑みを浮かべながらそう答える。

それに二人は少し潤んだ瞳をして顔を赤くしていた。

もしこんな時に曙か叢雲だったらと考えて、

 

『ふ、ふーん…そうなんだ。提督がそう言うんだったら私も嬉しいわ』

 

って、どこかツンデレ風味に答えるんだろうなと考えていた。

それに対して村雨と春雨は、

 

「そう…提督は私達の事を家族って認識してくれているのね。少し、嬉しいわ」

「村雨姉さんと一緒です。春雨は司令官さんのその気持ちがとても嬉しいです」

 

と素直に答えてくれた。

それが無性に嬉しくなって二人の頭を少し強く撫でてしまった。

それから二人の話題だったてるてる坊主を作るために紙を購入して二人にあげた。

 

「なんか、ありがとね提督。これでてるてる坊主が作ることが出来るわ」

「はい。うちの子達は意外にてるてる坊主を作るのが苦手な子が多いんです。だから春雨たちで教えてあげられたらなって思うんです」

「それはいい考えだな。よし、私も仕事が終わったら一緒に作らせてもらうよ」

「別にいいのよ? 提督は提督でやることがあるんでしょう?」

「つれない事を言うなよ村雨。家族なんだから手伝いたいっていう思いなんだ」

「ふ、ふーん…そうなんだ。それじゃ村雨が提督にちょっといいところ、見せてあげるわ」

 

それで村雨は私にてるてる坊主の作成の仕方を伝授してくれるという。

確かに子供以来は作っていないからこの際習いなおすのもいいかもしれないな。

そんな事をしながらも私は町内会へと顔を出す。

 

「ああ、提督さん。いらっしゃい」

「町長さん、こんにちは。今はとくに町からの不満とかは出ていませんか…?」

「はい。特には出ていませんよ。むしろ嬉しいと言ってくれていますね。よく頼めば提督さんは艦娘さん達を派遣してくれて漁業の手伝いで船団護衛をやってくれるから」

 

町長さんの言葉にこの思いは間違っていないという感じだった。

主に夕張とか水雷戦隊が護衛について漁船の船団護衛をしているのだ。

それで漁師さんからよく魚を見繕っていくつかもらってくるのを鳳翔さんが捌いてみんなに振る舞ってくれている。

深海棲艦に荒らされて海に出る機会が減ったからなのか魚の数は増えてきているんだよな。

取り過ぎることがないから魚が増えているのは確かに嬉しい事だけど、だけどそう考えるとそれだけ深海棲艦が出没する前は人類は魚を取り過ぎていたという考えをすると微妙な気分になる。

いったい、深海棲艦ってなんなんだ…?という思いが頭を過ぎるんだよな。

まぁ、考えていても仕方がない。

今のところ対話の道はないんだから結局は倒すしかないんだからな。

 

それで町長さん達と少し話をした後、私達は帰路についていた。

 

「司令官さん。やっぱり深海棲艦についてもっと知りたくなりました…?」

「春雨。そうだな…あちらにも喋れる個体はいるんだから少しは対話が出来てもいいんだけど肝心の深海棲艦が問答無用だからな。だから仕方がないよな」

「そうね。それでなきゃ私達が戦う意味がないからね」

 

村雨はそう言ってため息をつく。

人類に艦娘…そして深海棲艦。

この三つの枠組みはいつか平等になることはあるのだろうか…?

ただでさえ人類は艦娘を都合のいい兵器と捉える人も少なくない。

柳葉大将や他にも艦娘に理解ある人たちはいるにはいるけれどやっぱり少数の部類に入ってしまうのが現状だからな。

だからせめて私は私で彼女達艦娘の事を人と同じ扱いでやっていこう。

艦娘にだって人類と同じく心はあるし嫌な命令には不快感を出すのは当たり前だ。

だから私はそんな嫌だと思う命令をしないように心掛けていこう。

彼女達を守るのが私の仕事だ。

気負いせずに彼女達を信じてあげよう。

だって、彼女達は私の家族なんだから…。

 

 

 




村雨と春雨の回でした。
提督も多少はホームシックになっても仕方がないと思います。
漁業の皆さんには秋刀魚漁では活躍してもらいます。



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