【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0068話『祥鳳の追想と今』

 

 

…朝になって目を覚ます。

私の隣の布団では同室の瑞鳳がまだ眠りの中なのだろう。

小さい声で「むにゃ…たまご、やき…」と言う寝言を呟いている。

どれだけ卵焼きが好きなのだろうか。

その光景を見て私は思わずクスッと笑みをこぼす。

私の癒しの時間の一つである。

それで時間を見るとまだ五時過ぎで早く起きすぎたかという感想を抱く。

だから目も冴えてしまったので鎮守府を散歩でもしていようかなと言う気分にさせられた。

そして外に出てみると空はあいにくの曇り模様…下手したら雨でも降ってくるのではないかと思い、私は傘を持参して中道を歩いていく。

この梅雨の季節は少し思うところがある季節だ。

私の進水日が近いこともあるが同時にもう先月で過ぎてしまったけど私が沈没した日も近いこともあって少し憂鬱な気分にさせられる。

ダメね…。

こんな気分じゃ誰かにあったらうまく対応できるか分からないかもしれない。

思えばこの鎮守府がこの世界に転移して来てからたくさんの事があったわね。

提督は榛名さんと物理的に一緒になってしまったり、環境の変化からか一時期体調を崩す子も数名であったがいた。

今では順応しているけどこの世界のシビアな部分を垣間見る機会が増えて主に提督は心を痛めているのは知っている。

以前に熊野さんたちから他の鎮守府の艦娘からもし助けを求められたらすぐに助けになろうという提案を受けました。

その件では私は中立の立場にいますけど、提督の心労を増やすのはあまりよくないという意見が多い慎重派もいます。

だからというわけではありませんがそのもしもがあった時にはすぐに提督の指示を仰ごうという話でまとまりましたね。

 

「(ふぅ…演習でよく聞く他の鎮守府の提督はどうして艦娘たちを無益に扱うのでしょうか?

艦娘とはいえ人間と同じく心があってたいして変わりはないのに…)」

 

私はそんな事を歩きながら考えていました。

すると畑の方でなにやら音が聞こえてきます。

それで少し興味が沸きましたので見に行くことにしました。

 

「提督ー? こっちはどうする?」

「どこだ天龍?」

「ここなんだけどよ…」

「そうだな、ここは―――…」

 

提督と天龍さんが耕し方について話し合っていて別の場所では、

 

「うむ。やはり畑仕事は楽しいな」

「そうですね、武蔵さん」

「はい。神威も楽しいです」

 

武蔵さん、瑞穂さん、神威さんが楽しそうに畑仕事をしていました。

全員つなぎ姿で似合っていますね。

そこに天龍さんと話が終わったのか提督が私が見ているのを気付いたらしく、

 

「どうした祥鳳? こんな朝早くにめずらしいな」

「はい。少し早く起きてしまいましたので散歩がてら散策しているんです」

「そうか。なにかいいモノは見つかったか?」

「はい! 提督達が朝早くに畑仕事をやっているのが見られてよかったと思っています」

 

私は笑みを浮かべながら提督にそう言う。

そして提督も笑顔を浮かべて、

 

「そうか。それじゃまだ野菜とかは実っていないからまだ食べられないけどできたら楽しみにしていてくれ」

「はい。楽しみにしていますね」

「任せろ。美味しい野菜を食べさせてやるからな」

 

そう提督は言いながらもまた畑仕事に戻っていった。

そんな提督の後姿を見ながらも私は思う。

こんな私達艦娘達の事を大事に思ってくれている提督の気持ちには応えないといけないなと…。

提督はこの世界に来る前からも私達の事を大事に育ててくれて、この世界に来てから余計親身になって成長の手助けをしてくれる。

そんな提督の人柄ゆえか特に不満を持つ子達はいないんですよね。

だから少しでも提督に恩を返せるように頑張っていかないといけませんね。

そんな事を思っている時でした。

ポツリポツリと雨が降り出してきたのは…。

なので、

 

「提督ー。雨が降ってきましたからそろそろ上がりましょう!」

「わかったー! それじゃみんな、後は雨に任せて撤収!」

『はーい』

 

それで提督達も片づけを始めているみたいである。

その作業は手慣れたものがあり様になっていますね。

提督は特にこの世界に来る前はこれといった趣味は他にはなかったそうですから畑仕事がお気に入りだそうです。

それで私も傘を差してゆっくりと食堂へと向かっていきました。

向かう道中で瑞鳳が少し急いでやってきて、

 

「祥鳳! どうして起こしてくれなかったの!? なんとか間に合ったけどもう少しで朝ご飯を寝過ごしちゃうところだったんだよ!」

「瑞鳳がお寝坊さんなのが悪いんですよ」

「そんなー…」

 

それで残念がっている瑞鳳の姿が可愛らしく思いながらも、

 

「瑞鳳。髪がまだぼさぼさですよ。今治してあげますね」

 

私は持っていた櫛で瑞鳳の髪を研いであげました。

それで瑞鳳は少し気持ちよさそうな表情を浮かべていました。

どうやら嬉しいみたいですね…。

しばらく研いであげながらも瑞鳳は少し名残惜しそうに「もういいよ」と言って梳かした髪をいつもの布で縛っていました。

ああ、たまにはそのままの瑞鳳のままでいても罰は当たらないのだから縛らなくてもいいのに…。

そんな事を思いながらも強制しちゃいけないんだろうなと自制してなんとか言葉には出さないですみました。

 

「うん、よし。ありがとね祥鳳」

「いえ、瑞鳳がよかったなら私も嬉しいわ」

「うんうん。祥鳳の髪梳きは気持ちいいんだよ。私だけの特権だね」

「もう…。あまり恥ずかしいから言いふらさないでね?」

「わかってるよー。それじゃ祥鳳、食堂にいこっか」

「はい」

 

それで私と瑞鳳は食堂へと行って間宮さんのメニューを受け取って席についていると先ほど別れた提督達がつなぎ姿のまま食事を摂りに来ました。

金剛さんがそれを見て、

 

「ノー! テートクゥ! もっとハルナの身体を大事にするデース!」

 

と叫んでいました。

提督も提督で「すまん、配慮がなかったな」と言って素直に反省していて他の皆さんもそれで己の恰好に気づいたのか顔を赤くしていました。

武蔵さんは何のことか分かっておらずはてな顔でしたが…。

そんな朝のささやかなハプニングの光景でした。

 

「ねぇ祥鳳」

「どうしたの、瑞鳳?」

「毎日が楽しいね」

「そうね」

 

瑞鳳の言葉に私は素直に返していました。

どうかこの日常風景がこれからも続きますように…。

私はそう願いました。

 

 

 




今回は梅雨グラがある祥鳳にスポットを当ててみました。


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