【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0055話『怒ってないよ…』

 

 

 

…事の発端はこうだ。

弥生が自分の部屋にウサギのぬいぐるみを飾っておいた。

だけど一度用があるために部屋を出ていき、用が終わったので帰ってきたらウサギのぬいぐるみの腕が千切れていたのだという。

その衝撃たるや弥生の限界を上回ったらしく一回気絶してしまったという。

それを後々に卯月が気絶している弥生とウサギのぬいぐるみの状況を発見して現在に至る。

今はもう弥生は目を覚ましており、しかしショックは大きいらしくいつも以上にしかめっ面がすごい…。

 

「弥生…大丈夫か?」

「は、い…弥生は、大丈夫、です」

 

全然大丈夫のようには見えないな。

 

「まったく誰がこんな事をしたぴょん! せっかく司令官が弥生のために買ってくれたものなのに…」

 

卯月はプンプンと怒っていてその表情は怒りに満ちていた。

そんな卯月の頭を「まぁまぁ」と言ってポンポンとしてやり落ち着かせた後、

 

「でも本当に誰がこんな事をしたんだろうな…?」

「うん…」

「ぴょん…」

 

それが気がかりでしょうがない。

最悪他の艦娘達を疑いたくはないが不和は生じてしまいかねない。

だから早くこの問題を解決しないとな。

 

「とにかくまずはこのウサギのぬいぐるみの処置だな。ここはやはり鳳翔さんが妥当か。悪い二人とも。私はこのぬいぐるみを鳳翔さんのところで直してもらえるように頼んでみるから待っていてくれ」

「はい…」

「わかったぴょん」

 

二人を部屋に残して私は鳳翔さんの所へと向かう。

だけどその道中でとある二人の艦娘と出会う。

その子達は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…せっかく、司令官に買ってもらった、うさぎのぬいぐるみ…。

それなのにどうしてこうなってしまったのだろうか…。

弥生はどんよりとした気持ちを隠すことが出来ずに意気消沈をしていた。

そこに卯月が、

 

「弥生ー! 元気を出すぴょん。司令官がきっと直して戻ってくるぴょん」

「うん…だけど、怖い。また、壊されてしまうかもしれないと思うと…胸がひどく、痛い…」

「弥生…」

 

きっと、今の弥生の表情は泣きたい表情になっているのだろうか…。

卯月の励ましの言葉にも弥生はやる気が起きなくて生返事しか返せない。

どうして…こうなって、しまったのだろう…?

ここの鎮守府のみんなはみんな仲間だと思っていた。

だのに弥生は今は疑心暗鬼になってしまっている。

だから誰がこんな酷い事をしたのか疑ってかかって見てしまうかもしれない…。

そう思うと弥生自身が怖くなってくる…。

嫌だ…。こんな嫌な気持ちを抱くのは嫌だ…。

みんなの事を、仲間の事を疑いたくない。

弥生はきっとこんな事をした誰かはなにかの訳があってこうしてしまったのだと信じたい。

そうじゃないと、もう弥生は笑顔を浮かべる練習も出来なくなってしまう…。

みんなに少しでも柔らかい笑顔と言えないけど笑みを浮かべられることが弥生の目標…。

その目標が遠ざかってしまう。

それだけは駄目だと心が訴えている。

だけど今の気持ちがそれを覆い隠してしまっている。

 

「卯月…弥生は、どうしたら、いいかな?」

「どうしたら…? 簡単な事ぴょん」

 

卯月は弥生の悩みを簡単な事と言った。

そんな反応をされるとは思っていなかったためについ卯月にきつい視線を浴びせてしまった。

 

「…これは久々の弥生の睨み、怒ってるぴょん…?」

「怒って、ないよ…」

「いや、今はうーちゃんの言葉が悪かったぴょん。弥生が怒っても仕方がない事だよ…。

でもね、聞いて弥生。弥生の悩みを晴らすことはとても簡単な事だぴょん」

「どういう事…?」

 

それで自然と睨みはなくなって疑問だけが浮かんで卯月に問いかけていた。

そして卯月はこう言った。

 

「その誰かが謝ってくるまで待つぴょん。

そしてもし謝ってきたら素直に許してやるぴょん。それはとても簡単な事なんだよ?」

「許せる、かな…?」

「それは弥生の気持ち次第だぴょん。でもいつも通りの弥生なら大丈夫だぴょん。

いつもしかめっ面で怒っていると誤解されやすい弥生だけど、その気持ちの底ではもっとみんなと仲良くなりたい。怒っていないって言いたいって思ってるぴょん」

「………」

 

卯月の言っている事は本当だ。

弥生は、もし謝られたのなら素直に許すと思う。

そしていつも通りの言葉を言うんだ…。

『怒ってないよ…』って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで? 二人はどうしたんだい? 文月に水無月…?」

「弥生ちゃんに謝りたいの…」

「…うん。水無月はふみちゃんと一緒にやよちゃんのぬいぐるみを見つけてつい羨ましいと思って色々とやよちゃんに内緒で二人でいじっていたの」

「うんうん。それで…?」

 

私は二人に優しい声で語りかける。

ただでさえ文月の方は涙目なのだ。

だから強く叱れないじゃないか。

 

「そしてついふみちゃんとぬいぐるみの取り合いになって、カッとなって引っ張り合っちゃったんだ…。そしたら…」

「ぬいぐるみの腕が破れちゃったの…それで文月と水無月ちゃんはつい怖くなって、逃げちゃったの…」

 

二人は素直にそう白状してくれた。

そして二人は謝りたい気持ちがあるのも確認できた。

なら後はやる事は一つだ。

 

「それなら素直に弥生に謝ろうか。なぁに、弥生もいつも通りに『怒ってないよ…』って言ってくれるさ」

「そう、かな…?」

「姉妹の事を分かってやれないでどうするんだ? 勝手知ったる仲だろう?」

「そうだよね…うん、ふみちゃん、やよちゃんにすぐに謝ろう!」

「うん!」

「そうと決まったらすぐにこのぬいぐるみを直さないとな」

「「うん!」」

 

それで三人ですぐに鳳翔さんに事情を説明して、

 

「あらあら。でしたら素直に謝りなさいね。弥生さんもきっと許してくれますよ」

 

と、おおらかに笑いながらもぬいぐるみを縫い直してくれた。

そして文月と水無月はそのぬいぐるみを持って弥生の部屋へと謝りに行った。

私ももしもの時に着いていったが。

二人は弥生の部屋へと入って素直に謝って事情を説明した。

それに対して弥生は微かに笑みを浮かべながらも涙を流して、

 

「怒ってないよ…そして素直に話してくれて、ありがとう。文月に水無月…」

「弥生ちゃん! ごめんね!」

「ごめん、やよちゃん!」

 

それで感化されたのか二人も涙を流しながらも弥生に抱きついていた。

その光景を見て、

 

「よかったな…」

「しれいかーん…これを気にほかのみんなにも平等にプレゼントをあげたらどうぴょん…?」

「それはまた、痛い出費になるかもしれないな…」

 

うちの艦娘全員に平等にプレゼントか…。

人数が多いから大変そうだけど、遣り甲斐はあるな。

私はそれでそんなに大きいものは買えないだろうけどそれぞれにお似合いのプレゼントをあげようと思い、せっかくだから提案者の卯月に手伝ってもらった。

もちろん、後日に全員から感謝の言葉を頂いた。

 

 

 




雨降って地固まるという表現を書いてみました。
弥生の気持ちの表現はこんな感じかなぁという気持ちで書いてみましたがどうでしょうか…?


それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。

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