【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0293話『夕張の疲れ』

 

 

 

……あぁ、もう。

最近あんまり寝ていないからお肌が荒れてきちゃったかな?

五月雨ちゃんとも会ってないしどうしたものかと思う始末。

まぁ、もう少しで今作っているこの薬も完成するからそれが終わったら精一杯五月雨ちゃんに甘えよっかな。

そう、明石が立ち上げた提督と榛名さん、シンちゃんの分離薬の精製がもう少しで完了しそうなのだ。

それで明石は張り切っちゃって今も寝ずに研究室に籠もっているし。

あたしにも手伝えることがあるのならって思ったけど次元が違い過ぎたわね。

所詮はあたしも研究者としては二流だって思い知ったくらいだから。

だけど、それでも明石に着いていきたいって思っちゃうんだからしょうがないわよね。

 

「明石ー、だからさー……もう少しゆっくりしたらー? 提督は別に逃げないわよー……?」

 

あたしがそう言うんだけど、

 

「ダメです。何事も完璧を追い求めるんですから早急に完成させて提督達の喜ぶ顔を見たいんですよ」

「真面目よねー」

 

あたしに一応返事は返してくれるんだけど同時に手の動きは止めないでいる。

見ていて惚れ惚れするくらいの腕だわね。

だから今のあたしが明石の邪魔をしない方法と言えば明石が倒れないように料理を振る舞うくらいなのよね。

 

「はい。明石、少しはなにか食べたら? 倒れちゃうと元も子もないわよ?」

「わ、わかってますよ!……少しだけ休憩します」

 

それでやっと作業する手を止めて食事を摂る明石。

見ていて目の下にくまがあるし少しやつれも感じるくらいだから相当ね。

まぁあたし達艦娘は戦闘で轟沈しない限りは死にはしないんだけどそれでも疲労は溜まっていくんだから適度に休まないと疲労状態が続いたんじゃ地上でも倒れかねないからね。

 

「それで? いつも思っていたんだけど、明石ってなんでそんなに提督のために頑張ろうとしているわけ……? さっきも言ったけど提督は逃げないしいつでも薬は完成できる段階まで来ているじゃない?」

「そうなんだけどね……なんか最近胸騒ぎがするのよ」

「胸騒ぎ……? またどうして?」

「うん。私も不思議に思うんだけどたまに提督を見る時に思うんだけどふっとそのままどこかに行っちゃうんじゃないかなって錯覚をする時があって……」

「それはまた……考えすぎじゃないの?」

「それだったらまだよかったんだけどね」

 

そう言って明石は悩まし気に苦笑いを浮かべながらドリンクを一飲みして、

 

「ふぅ……なんかうまく言えないんだけど早くしないとなにか提督に良くない事が起こるんじゃないかなって思うようになって最近は開発の時間を急いでいるんだよね」

「ふーん……。良くない事ね。もしかして提督が元の世界に帰っちゃうとか……?」

 

あたしがそう何気なく言ってみたんだけどそしたら明石の顔が真顔になっていた。

え? まさか図星だったのかしら?

 

「そう……そうなのかもね。提督の存在は私達と違ってひどく曖昧なのよ」

「曖昧って……」

「夕張も感じない? 提督は榛名さんの身体に魂だけが入っているようなものなのよ? もしなにかのはずみで提督の魂が榛名さんから出て行ってしまってもおかしくないのよ……」

 

それで明石は少しだけ悲壮感を漂わせながら顔を手で覆っている。

これはかなり重症かもしれない……。

明石がここまで思いつめていたなんてあたしも想像していなかった。

それが今日までの開発の力となっていたのね。

 

「やっぱり考え過ぎよ! 明石らしくないわよ?」

「そうなんだけど一度そんな考えを持っちゃうとどうしてもその考えを拭いきれなくて……そうなったらと思うともう胸がとても痛くて……」

 

それで明石はとうとう涙を流し始めてしまったではないか。

まったく考えすぎったら!

 

「あーあー……もう、そんなもしものことで泣かないの。大丈夫よ。提督はあたし達の前からはいなくなったりしないから」

 

ハンカチで涙を拭いてあげるんだけどそれでもとめどなく泣いている明石をどうしたものかと思っていると、そこにタイミングがいいのかしら? いや、かなり悪いわね。

なんと提督が顔を出してきた。

 

「明石、いるか……?」

「て、提督!? ちょっと待ってください!」

「夕張もいたか。どうした? なにやら声が裏返っているようだけど……?」

「なんでもないですよ! そうなんでも……(明石! 早く泣き止んじゃいなよ! 提督はあたしが相手してるから)」

「(うん。ごめん、夕張……)」

 

明石は奥の方へと入っていくのを確認して、

 

「もう……提督もタイミングが悪いですよ?」

「やっぱり明石に何かあったのか……?」

「あったと言えばあったんですけど、まぁ考えすぎな事ですよ。だから少しすれば平気になっていると思います。ところで提督。少しいいですか……?」

「ん? どうした?」

「はい。提督ってもし、もしもですよ? 元の世界に戻れるって言われたらどうします……?」

 

明石に感化されたわけじゃないんだけどあたしも少し不安に感じてしまったのでそんな事をつい聞いてしまっていた。

これでもし提督が元の世界に帰りたいとか言ったらどうしよー……?

 

「そうだな……この世界に来てから最初の頃は元の世界に戻りたいって思った事があるのは何回かあるけど、そうだな……今はもうそんな思いはあんまりないかな?」

「またどうして? 元の世界に帰ればこんな殺伐とした世界で苦労もする事もなく家族や知人の人達とまた一緒に暮らせるんですよ?」

「そうだけど……もう私には君達という家族が出来てしまったからな。だからもし帰れるとか言われても今更みんなを見捨てて一人で帰るなんてできないし、したくない……」

 

……そうよね。あたしったらなんでこんな事を聞いていたんだろう?

提督はこんな人だって前から知っていたんだからこんな質問も無粋以外の何物でないかったわよね。

 

「そうですよね……提督はそんな人でしたよね」

「どうした? またそんな嬉しそうにして」

「なんでもありませんよ。それじゃ約束してください。いつかそんな事態になってもあたし達の事を絶対に見捨てないでくださいね? もうあたし達も提督がいない人生なんて考えられませんから」

「わかった。約束するよ」

 

そう言って提督はあたしの頭を撫でてくれた。

うん。今考えると明石の気持ちも分かるかもしれない。

やっぱりあたし達には提督という存在が必要不可欠なんだって……。

その後に明石も戻ってきていつも通りに提督の相談事に乗っている感じだったし大丈夫よね、きっと……。

 

 

 




終盤に向けて話を詰めていきます。
こんな話が当分続くかもですね。




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