【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0271話『小さい提督と山城』

 

 

 

 

 

提督がまた小さくなってしまってから翌日。

小さい提督とは前に会っているのでそれなりに覚えてもらっているようで安心したわ。

それにしても明石の提案した新薬の研究開発についての持論には驚かされたわね……。

もうすでに研究に入ったのか夕張や妖精さん達もグルになって絶賛工廠に引きこもっているしね。

だから今は私の部屋で遊んでいるところだ。

 

「山城……あなた、とても楽しそうね」

「そうですか姉さま?」

「ええ。これも小さい提督のおかげね」

 

そう言いながらも扶桑姉さまは膝の上で抱きしめられながら眠っている提督の頭を撫でてやっている。かなり二重の意味で羨ましい。

 

「それにしても榛名との分離薬を作ったと思ったら今度はこの子ともさらに分離させようなんてよく思いつくわよね」

《はい。こればかりは榛名達ではさすがに話についていけない内容ですからね》

 

榛名とそんな話をしながらも寝ている小さい提督の頬をつく。

身じろぎをする仕草すら可愛いわね。

 

「それならもし叶うのだったらこの子の名前も付けてやらないといけないわね。いつまでも小さい提督って呼ぶのは可哀想だから……」

「いい案だと思います姉さま!」

《榛名も賛成です!》

 

そんな話が扶桑姉さまから持ち上がってきたので私達も特に反対はなかったのでどうしようかと悩んでいたら、ふと扶桑姉さまは電話をどこかへとかけだす。どこに連絡を入れたのだろうか……?

しばらくして走ってきているのだろう足音が響いてきた。

扉が開かれてそこには青葉の姿があった。

 

「はーい! 呼ばれてきました青葉です!」

「ゲッ!……扶桑姉さま、なんでよりにもよって青葉を呼ぶんですか……?」

「うふふ。こういう時は青葉さんの力が必要だと思ってね」

 

おおらかに笑う扶桑姉さまにはなにか考えがあるんだろう。しばらくは見学でもしてようかしら。

 

「青葉さん、一つお願いを言っても構わないかしら?」

「なんでも大丈夫ですよ! 司令官の為だというのは分かりますから!」

「ふふふ、そうね。それじゃこの鎮守府に在籍している艦娘のみんなにとある募集をかけてもらってもいいかしら……?」

「募集ですか……?」

「ええ。あなたは青葉新聞で目安箱もやっているって聞いたから、それを利用させてもらうわね。みんなにはこう募集してちょうだい。『小さい提督の名前、あるいは呼び方をみんなの意見で統一して決めよう』……って」

「なるほどー……確かにいつまでも小さい提督じゃかわいそうですからねー。了解です! すぐに青葉新聞でみんなに募集をかけてみますね! それでは早速ですが失礼しました!ッと、その前にチェキ!」

 

最後に小さい提督の寝顔を撮影した青葉はさっそく部屋を出ていって急いで自室に向かったのだろう。

前に青葉の部屋を見させてもらった事があるが、資料の束で溢れていたから相当汚い部屋だったという認識である。

だから今回の扶桑姉さまの案も資料の山に埋もれないかと心配になってくる。

 

「ほんとうに大丈夫でしょうか……?」

「きっと、大丈夫よ。提督の為ならみんなは精力的に動いてくれるから……」

《扶桑さんはなぜかいつもよりどっしりと構えていますね……》

「そんなことは無いわ。ただ、私もこの子と遊べる時間もあったら嬉しいと思うから……」

 

扶桑姉さまはそれでまたしても慈しみの表情をしながらも小さい提督の頭を撫でている。

グッ……あの子のポジションもかなり羨ましいわね。

私も小さくなったら扶桑姉さまに頭を撫でてもらえるのだろうか……?

そんな夢も見ているうちに小さい提督が目を覚ましたのか寝ぼけ眼のままあくびをしていた。

 

「提督、おはようございます。よく眠れましたか……?」

「うん。扶桑お姉ちゃんの膝の上ってとっても気持ちいいね」

「うふふ、ありがとうございます」

 

少しの疎外感を感じた私は小さい提督に話しかけた。

 

「提督? この後はどうしますか? どこかにでも遊びに行きますか?」

「うーん……それじゃどこかにいこっか。山城お姉ちゃんも付いてきてくれるんでしょ?」

「はい。できれば扶桑姉さまと一緒にいたいですけど今回は提督にご同行します」

「やったー!」

 

そんな感じで小さい提督と外に出かけることになった。

 

「それではどこにいきますか。提督?」

「うーん……山城お姉ちゃんの希望とかある……? 私、まだ知らない事の方が多いから」

「そうだったわね。ところで提督はこれを聞くのは少し気が引けるんですけどいつまでこのままでいるつもりなんですか……?」

「そうだね。明石お姉ちゃんには薬を飲むのは私が満足するまでいいと言われちゃったけどいつまでもこのままじゃ元の私が可哀想だから今日遊んだから元に戻る薬を飲むね」

「いいんですね?」

「うん。本来私はなかった存在だから少しでもみんなと遊べるだけでも嬉しいんだ」

 

まだ幼くて小さいのに、そこまでもう達観しているのですか……?

遠慮しなくてもいいのに……。

この子は本当に提督とは違うのか疑問に感じましたけどそれ以上にこの子の存在が少しだけ尊く感じてきました。

出来るのならこのまま守ってやりたいけど、私が素直に言葉に出すのは恥ずかしいですが好きなのはやっぱり元の提督だから。

 

「わかったわ。それじゃその間は思う存分遊びましょうか」

「うん!」

 

それから私と小さい提督は西村艦隊のみんなを集めて遊んだり、間宮でホットなデザートなどを食べたりと小さい提督と思う存分遊んだ。

 

「提督。満足できましたか?」

「うん!」

 

小さい提督のそんな笑顔を見られるならできたものよね。

そんな事をしているとそれを見ていた時雨達が、

 

「ふふ。山城、なんかお姉ちゃんみたいだね」

「そうだね。僕も今の山城の表情は楽しそうに感じれたからね」

「そうね~。司令さんに向ける視線とはまた違うものだったわね~」

「え? 山城さんが司令に向ける視線……? 山雲、それってどんなの?」

「朝雲、あなた気づいていなかったの……?」

 

なんか外野で私にとってそんな恥ずかしい会話をしているけど今は無視しておこう。後で覚えていなさい。

とにかく、

 

「それじゃそろそろ戻りますか……?」

「うん。お姉ちゃん達とはまた会えるって分かってるから寂しくないよ。だから……」

 

小さい提督は懐から一つの薬を取り出した。

 

「山城お姉ちゃん、それに時雨お姉ちゃん達も今日はありがとう。また会えるといいね」

 

そんな、少しだけ儚い笑みを浮かべた小さい提督は薬を飲むと次の瞬間にはその場で倒れそうになって、私がとっさに支えてあげた。

 

《山城さん。服が破れてしまいますのですぐに戻る前に着替えさせてください》

「わかったわ」

 

それでなんとか元に戻る前に提督のいつもの服装を着させたんだけど、

 

「でも、よくこれでぴっしりとはまるものね。今はダブダブよ?」

「いいじゃないか山城。こういうご都合主義もたまには容認しないと」

「まぁ、そうね」

 

時雨とそんな会話をしていると小さい提督の身体が光りだして次の瞬間にはもとの提督へと戻っていた。

まだ眠りについている事から部屋で寝かせた方がいいだろう。

 

「それじゃみんな、先に帰っていて。提督は私が部屋に送っておくから」

「わかったよ」

 

それで他のみんなとは別れて部屋へと向かっている途中で、

 

《山城さん、ありがとうございます》

「いきなりなに……?」

《いえ、山城さんがいなかったらこんなにスムーズにはいかなかったと思うので》

「まぁ、そうね。私も提督に惚れてしまったツケみたいなものだから気にしなくてもいいわ。それより、またいつか会えるといいわね……」

《そうですね……》

 

榛名と小さい提督とは次はいつ会えるかという話でその日は終わっていくのであった。

 

 

 




山城さんがもうデレデレな感じですね。
不幸ではない山城もいいものです。




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