【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0270話『小さい提督と明石の決意』

深夜の事、まだ副作用が現れていない提督は少し不安に思いながらも、

 

「それじゃ、榛名……後のことは任せたぞ?」

《はい、提督……》

 

そしてすぐに提督は深い眠りに入った。

それから別室のモニターでは明石と山城が寝ている提督の姿をモニターで観察していた。ちなみに事前に提督には許可は貰っているから大丈夫である。

 

「でも、子供になるタイミングが提督が眠りについた後なんておかしな話よね……」

「そうでもないですよ? 一番油断するタイミングが眠りにつくところなんですから。普通ならすぐに副作用が現れてもいいものですからね」

「ふーん、そう言うものなのね……」

 

山城は明石の説明に感心しながらもモニターを凝視していた。

心配ないとは言ってもやはりまた記憶が失われてしまうのはショックだしなにより、

 

「また、あの子の教育を一からしないといけないところが不安ね……」

「そうですねー。あの子も可愛かったんですけどまたあの時の子のような性格になるとは限りませんから」

「北上じゃないけど、こういう時は子供って厄介よね」

「あはは。最近は北上さんも表立ってはそんな事は言わなくなってきましたけどこれからもどうなるかは分かりませんからね」

 

と、二人が話し合っている時だった。

モニターの向こうで提督の身体がまた光りだしてきていたのだ。

 

「……始まりましたね。科学的にも神秘的にもとても興味深い光景が映し出されますよ」

「明石、あなたね……提督のことなのに結構楽観視しているわね」

「まぁまぁ。これも薬の開発で研究材料としてはとっても必要なんですよ。これからやみくもに副作用の効果を消す方法を探すより直接見ていた方がなにかわかるかもしれませんから」

「ふーん……」

 

山城は明石の少し言い訳じみたそんな話に興味半分そこそこでもう提督の方へと興味を映していた。

見ればどんどん提督の身体は縮んでいくという摩訶不思議現象が現在進行形で見れるのだ。

明石ではないけど山城もその光景にある意味で目を奪われていた。

そして、

 

「小さくなっちゃいましたね……」

「それじゃこれからどうするの?」

「そうですね。まずは提督が寝ている間に検査でもしておきましょうか。前回はあんな騒ぎだったんで碌な検査が出来ませんでしたから」

「わかったわ」

 

二人はそれでモニター室から出て行き、提督の部屋へと入っていく。

そこには少し悲しそうな榛名の姿が透けて見えていたので、

 

「榛名。それじゃこれから提督を検査室に運ぶからね」

《わかりました。お願いします……》

 

分かっていたとはいえやはりショックは隠しきれないのだろう榛名は落ち込んでいた。

 

「ほら。そんな顔しないの……。いざって時には明石の薬があるんだからすぐに戻れるでしょうに」

《そうなんですけど、やっぱり私のせいだと思うと……》

「榛名さん、それは違いますよ。提督は榛名さんのそんな泣き顔が見たいがためにこんな事をわざわざお願いしてきたわけではないんですから。いつか榛名さんが自由になれる事を祈って私に薬の開発を依頼してきたんですから榛名さんがそんな顔をしたら提督もどうしたらいいか悩んでしまいます。ですからもっと前向きに行きましょう」

《そうですね……わかりました》

「はい。それでは手早く提督を運んでしまいましょうね」

「了解よ。運ぶのは私に任せなさい」

 

提督の小さい体をこの中で一番力がある山城が持って運ぶ。

でもその際に山城はある事を思った。

提督はこんなに軽いのね……と。子供なのだから当然だけど、もとは一般人だった提督にはこの世界の過酷な状況で提督という重い地位を与えられて無理をしていないかと山城は今まで不安に思っていたのだ。

いつもみんなの前では気丈に振る舞う提督だけど心の中では辛いと感じているのではないか?と提督の立場になって考える事もある山城だから今は子供になってしまった提督は一時的に重圧から解放されているのでは……とも思う。

だから、

 

「いつも守ってもらっているんだから今この間だけは私達が守るからね。提督……」

 

そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

そして時間は朝八時過ぎくらいになって、

 

「うゆ……?」

 

小さい提督は目を覚ましたのか目をパチクリとしている。

榛名はそれで安心してもらえるように笑顔を浮かべようとしたんだけど、

 

「榛名。今回はまた提督が記憶がない場合があるわ。だから最初は私にやらせて……。どうせ前の時は『どうして透けてるの……?』とか言われたんでしょ?」

《うう……その通りですから何とも言えないのが悔しいです。わかりました》

 

二人はそれで話が終わったのか提督に話しかけようとするんだけど、

 

「あれ? 山城お姉ちゃんに榛名お姉ちゃん……? 私、また小さくなったの?」

「えっ……? もしかして、あなた……前回の記憶を持っているの……?」

「えっと……うん。最後に薬を飲んだところまでは薄っすらとだけど覚えているかな……」

 

そう話す提督に遠くでそれを聞いていた明石が近寄ってきて、

 

「これは驚きですね……」

「あ! 明石お姉ちゃんだ!」

「はい。提督、ごきげんよう。ですがこれはある意味で一つの問題が解決してきましたが、新たな問題が浮上してきましたね」

「どういう事……?」

「わかりませんか? 小さい提督はこうして前回に小さくなった時の記憶をそのまま維持しています。でも、もとの提督に戻った時にその間の記憶はどこに保管されていたのか……? これはもうもう一つの人格の覚醒とも言うべき問題ですね」

「私……やっぱり問題なの……?」

 

提督は聞いていて理解してしまったのか涙目を浮かべている。

そんな小さい提督に明石は「そんなことはありません!」と前置きを入れた後に、

 

「提督。あなたの記憶が残っているのはある意味で嬉しい誤算です。提督とはまったく違う意識の覚醒なんてこれほど研究意欲をくすぶられるものはありませんから」

「明石、やっぱりあなた……」

「誤解なきように、山城さん。私はさっきも言ったように今回の件は嬉しい誤算です。

と同時に、これからは新たな研究と新薬の開発もしないといけなくなりましたね」

「新しい薬の開発……?」

《あの、明石さん。それって……》

 

そんな二人の反応に明石はニヤリと笑みを浮かべながらも宣言する。

 

「榛名さんとの分離薬を完璧なものとして開発し副作用を無くすと同時に、提督と小さい提督とも分離させて三人に増やす薬ですよ!」

《そんな事が可能なのですか!?》

「そんなことが出来るの!?」

「私、消えなくていいの!」

 

三人のそんな反応を見て明石は満足そうな顔を浮かべながらも、

 

「出来るか出来ないかではありません。やらないといけないんです!

このまま小さい提督の意識を無視して副作用を無くすほど私は外道ではありません。小さい提督もちゃんとした命と記憶を持っているんですからきっと提督も私の考えには賛成してくれると思います。いつになるか分かりませんけど必ず完成させますので……ですから小さい提督も安心して待っていてください」

「うん!」

 

最後に明石は小さい提督に安心してもらえるように笑顔をうかべた。

その後に榛名と笑顔を浮かべながら子供らしく話している提督をそのままにして山城と明石は別室の方で話し合っていた。

 

「でも、本当にやる気なの? 明石……」

「はい。もし今回で提督がまた前回と同様に記憶がまっさらな状態だったらこんな案は思いつきませんでしたよ。でも、しっかりと小さい提督は前回の記憶が引き継がれている。つまりそれは新たな生命が誕生したに等しいんです」

「新たな生命……あの子が……?」

「はい。私が開発した分離薬の副産物なのかは分かりませんが、このまま副作用として処理するにはあんまりですから」

「まぁ、そうよね……だったら明石。言い切ったからには最後までやってちょうだいね?」

「お任せください! 必ず開発を成功して見せますから!」

 

ここに明石の新たなプロジェクトが始まった瞬間だった。

 

 

 




これはこの小説の題である提督と艦娘の毎日の日常を描くという以外に明石の挑戦というストーリー性が出てきたとも言うべきでしょうか?
今後、いつか三人が分離できるように話が書けたら楽しいだろうな。





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