【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0253話『平和的な薬の副作用(終幕)』

 

 

 

 

明石さん達から逃げ出してしまった提督はその後に色々な子達とも遭遇するも何度も掻い潜って最終的には人があまり来ない工廠の倉庫の端の方へと隠れてしまいました。

時間はもう深夜になっているために寒空もあって提督は体を震わせていました。

遠くからはたくさんの提督を探す声が聞こえてきます。

それで私は気持ちおろおろとしながらも提督に問いかけました。

 

《……提督。どうされたのですか?》

「榛名お姉ちゃん……私は、元に戻らなくちゃいけないの……?」

《そ、それは……》

 

私はもちろん皆さんも元の提督に戻ってもらいたいと願っています、でも、今の提督の表情を見たらこれ以上の事を言えなくなってしまいました。

提督はもうそれは目元を涙で腫らしてまるで駄々っ子のようになお涙を流しています。

 

「この二日でもうみんなの気持ちは分かっているの……元に戻る事が私にとっていい事なんだって……でも、そしたら今の私はどうなっちゃうのかなって……? そう考えちゃったらもう怖くなっちゃったの……」

 

そこまで、今の提督の気持ちは深刻化していたのですね……。

もしかしたら元に戻ったらこの二日間のみなさんとの楽しい記憶は消えてなくなってしまうんじゃないかって、

 

《提督……》

 

私はそこまで考えていなかったために少しだけ絶句してしまいました。

私はそれでかける言葉も見つからずに黙り込むしかできずに時間が刻一刻と過ぎていきます。

このままでは提督は凍え死んでしまいます。

だから早く温かい所に戻らないといけません。

ですから、

 

《提督……? 皆さんのところに戻りましょう……?》

「やだ………戻ったらあの薬を飲む事になるから嫌だぁ……」

《それでも! 提督がこのままでしたらきっと皆さんも悲しみます! ですから薬は飲まなくてもいいですから戻りましょう!》

 

私は強い口調でいいました。

嫌われてもいい、提督には安心してもらいたいから……。

 

「榛名お姉ちゃんは、何で私のことをそこまで励ましてくれるの……?」

《それは……提督は、あなたは……私のもっとも大切な方だからです》

「大切……?」

《提督は覚えていないでしょうが私とあなたはとても愛し合っていました。提督が私の事を名前で呼んでくれることが至福の喜びでした……》

「そっかー……榛名お姉ちゃんの事が大事にしていたんだね。元の私は……」

 

なにかを思ったのか提督はその場を立ちあがって、

 

「それじゃ、邪魔者は退散しないといけないよね……?」

 

そう言う提督の顔は泣き笑いのように無理やり自分を納得させているようにも感じられました。

違います、そうではありません!

 

《そうではありません! おそらく提督は自分がいなくなればすべて解決すると思ったのでしょうがあなたも大事な提督に変わりはないのです!》

「でも、それじゃどうすればいいの!? 私はもう消えるしかないんだよ! いつまでもこのままだったらきっと私の事を気遣ってくれていたみんなも困っちゃう……迷惑をかけちゃう……それは嫌なの! とっても嫌なのぉ……」

 

提督は癇癪を起したかのように胸の内を暴露しました。

あぁ……こういう時に限って泣いている提督の事を抱きしめてあげられない自身が本当に憎く感じてしまいます。

そんな時でした。

 

「―――それではこの鎮守府であなたがいたって事の証を残しませんか……?」

「誰……?」

《青葉さん……?》

 

物陰の方から青葉さんが歩いてきました。

まさか……。

 

《青葉さん、まさか先程までの私達のやり取りを……》

「はい。榛名さん、すみません。聞かせてもらっていました」

 

青葉さんはどう言いながらも提督の目線に合わせてしゃがんで数枚の写真を見せてきました。

 

「これは……?」

「これはあなたがこの数日間で鎮守府で過ごしたメモリーの数々です。私達はあなたの事を決して忘れません。アルバムにしてしっかりと残しておきます」

 

敢えて盗撮写真とは言わない辺り、青葉さんも悪い人ですね。

でも、今は少しだけ感謝しないといけません。

 

「だからとは言いませんが……明石さんのところに戻りましょう? 皆さんも心配しています。そして最後には盛大にお別れをしましょう」

「やっぱり、別れなくちゃいけないよね……」

「はい。冷たいようですが今のままでは提督はおろか私達の存在も上層部の方々に気づかれたら処分対象にされてしまいかねません。ですから覚悟を決めてお薬を飲みましょうね?」

「……わかった」

 

青葉さんの言い分に納得したのか提督は青葉さんの手を取りながらいまだに聞こえてくる皆さんの方へと歩いていきました。

そして、

 

 

 

 

 

 

 

「提督ー! とっても心配したかもー!」

 

秋津洲さんが泣きながら提督の事を抱きしめていました。

他のみなさんも提督が見つかって安堵したのか涙を流しています。

そして提督は明石さんのところへと向かい、

 

「明石お姉ちゃん、お薬飲むね?」

「……いいのですか? 青葉さんから聞きましたが自分という存在が消えてしまうかもしれないんですよ?」

「うん。でも大丈夫……みんなの中に少しでも私が残ってくれるんならそれだけで嬉しいから」

「提督……」

 

それで一緒に聞いていた鳳翔さん達も涙を流していました。

 

「提督……この二日間はとてもかけがいのないものになりました。だから、またいつか一緒に遊びましょうね」

「うん。鳳翔さん!」

 

もう叶わない事だと分かっていても提督は笑みを浮かべながらそう返答していました。

それでもう鳳翔さんは限界だったのでしょう、赤城さん達の方へと向かって涙を流していました。

 

「それでは、これがお薬です」

「うん……」

 

提督はお薬を受け取って少しだけ間を置いて、

 

「みんな! 私はみんなのこと、大好きだよ! またね!」

 

全員に聞こえるようにそう叫んだ提督は薬を飲みました。

すると途端に提督の身体が光りだしました。

みなさんが静かに見守る中、その場にはもとの提督の姿がありました。

まだ目を覚まさない事から提督の寝室に運ばれました。

 

 

 

 

 

 

それから少し時間が経って午後になった時でした。

 

「……ん、あれ?」

《提督……!?》

「榛名か。どうしたんだ? そんなに真剣な表情になって……?」

《私の事が、わかるのですか……?》

「分かるって……なにがあったんだ?」

 

どうやらもとの提督に戻ってくれたようです。

でも、やっぱり記憶を失っている間の事は何も覚えていない感じでした。それだけが少し悲しく感じました。

 

「しかし、なんだろうな……結構時間が経っているような感じだけど自然と安心できるんだよな」

《そ、そうですか……》

「なにか知っている感じだな。あとで聞かせてもらっても構わないか……?」

《はい。わかりました》

 

きっと伝えます。

この三日間で起きた幼い提督のお話を。

資料室に閉まってある幼い提督が撮られている写真が収められているアルバムとともに……。

 

 

 




これで子供提督の話はおしまいです。
ですがまた出てくるかもしれませんからその時まで我慢ですね。



それとなんか年末に夕雲型の改二が来るとか言うので早くだれかを特定して高速レベリングしないといけませんから大変です。



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