【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0022話『心に傷を負った少女』

 

今日の買い物途中に町で起こった話を鎮守府へと帰ってきてから久保提督へと電話で話していた。

それで久保提督も覚えがあったらしく、

 

『あー…榛名提督も遭遇してしまったんですね』

「はい。場所が久保提督の鎮守府よりも近い分、期待をさらにされてしまいまして…」

『良い事だと思いますよ。町の人々の信頼を得るのも提督の仕事だと思っていますから。

…ですが、柳葉大将には聞いていましたが、その鎮守府はブラックな場所だったんですね』

「そうですね。それで少しばかり久保提督に相談があるんですが…」

『なんですか?』

「はい、それは―――…」

 

それで久保提督にある事を話すと少し驚かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日になって私と久保提督はそれぞれ艦娘を一人護衛に付けて町へと視察も込めてまた来ていた。

私の護衛は朝潮、久保提督の護衛は雷がついていた。

 

「…ですが、いいのですか? そろそろ定期的に深海棲艦が活発になるこの時期に町に呑気に視察なんて来ていても…」

「それも含めての視察ですよ。おそらくですが町の人々はこの時期になると深海棲艦が攻めてきて怯えるようになっていると思うんです。

だから少しでも不安を取り除く、そして安心させるためにもこういった公共事業じみた事もしていった方がいいと思うんです」

「なるほど…勉強になりますね」

「まぁ、私の勝手な考えですから久保提督の役に立てるか分かりませんが…もとは海軍軍人ではなく一般人だった私だからこその視点での意見ですから」

 

そんな事を話すと、

 

「司令官、多分ですがその考えはとてもいいモノだと朝潮は思います。

緊張してしまい視野を狭めてしまうよりもこうして市民と触れ合って適度にガス抜きをしていても罰は当たりません」

「ありがとうな、朝潮」

 

それで私は朝潮の頭を撫でてあげる。

 

「あ…司令官、子ども扱いはしないでください。これでも朝潮は改二丁になっていますからもう大人です」

「うんうん、そうだな。でも私にとっては愛娘のようなものだからな」

「愛娘…」

 

それで朝潮は顔を赤らめて黙り込んでしまった。

はて? どうしたのだろうか…?

 

「榛名提督って実は天然ですか…?」

「天然…? またどうして…」

「いえ、気づいていないのでしたらいいんです。特に悪影響はないようですから」

「そうね司令官。朝潮の顔を見ていれば分かるものね」

 

そう言って久保提督と雷は笑みを浮かべていた。

朝潮は黙り込んだままだしどうしたものかと思っていると、魚屋のおじさんが話しかけてきた。

 

「おう! 提督の姉ちゃん達、昨日ぶりだな。昨日は若いもんが色々と言っちまったが、俺達もあんたの事は期待しているから頑張りな!」

「はい。気にしていないので大丈夫ですよ」

「そうかい。それと漁に出る時は声をかけるがいいかい?」

「はい。護衛はお任せください」

「任せたぜ」

 

それで魚屋のおじさんが一匹袋に魚を入れて私と久保提督にお裾分けしてくれた。

 

「わっ! 大丈夫ですか?」

「なーに、気にすんな。あんた達のおかげでこれから漁は安心してできるんだから前払いと思っておきな」

 

それで久保提督とともに感謝の言葉を述べた後、私達は集会の場所へと向かっていた。

 

「…ですが、よかったのでしょうか?

榛名提督の鎮守府ならまだしも私の鎮守府にはまだそんなに艦娘が集まっていませんから船団護衛はまだできるほど練度もありませんし…」

「いいじゃないですか。これもこれから頑張っていけばどうにでもなります。

私の鎮守府だって最初は弱小だったんですから。ですから気にしても損だけですよ」

「そう、ですね…」

 

それで話が着いたところで、ふと前の道に一人の女の子が歩いてきた。

歳は十歳くらいでどうにも寂びれているような表情でどこか暗い雰囲気を連想させる。

その深い眼差しが私達を映したのを感じたのを次の瞬間にはその女の子は私に向かってきた。

 

「…ねぇ、お姉ちゃん達って提督の人…?」

「そうだけど、お嬢ちゃん。あなたのお名前は…?」

「…七海(ななみ)。七つの海って書いて七海」

「七海ちゃんか。それで、どうしたんだい…?」

 

七海ちゃんは私がそう聞くと少し目つきが険しくなった。

これはなにかあるなと予感めいたものを感じた。

 

「…深海棲艦を倒してほしいの」

「どうして…?」

「私のお母さんは二年前まで鎮守府で酒保で働いていたの…」

 

二年前…。それで思いつくのは昨日の話。

鎮守府で働いていたという過去形のセリフ…。

そこから導き出される答えは…。

 

「もしかして、君のお母さんは…」

「うん。深海棲艦の鎮守府への襲撃で死んじゃった…」

 

それで私と久保提督、朝潮と雷は少し苦虫を噛み潰した様な表情になる。

この子はその当時の無能だった提督のせいで亡くなったんだ。

 

「私のお母さんは死んじゃったのに…どうしてあいつは生き残っているの…?」

 

あいつというのは提督の事だろう。

 

「だから、私は将来提督になって深海棲艦を倒す仕事に就きたいと思っているの」

「それは…」

 

久保提督も分かったのだろう。

この子の心には憎しみの炎が滾っているのを。

でもこのままではいけない。

所詮他人事だから出せる手には限度がある。

だけどこの子の事を放っておけるほど私は薄情じゃない。

だから、

 

「七海ちゃん、一ついいかな…?」

「…なに?」

 

私は七海ちゃんの頭に手を乗せながらも、

 

「きっと、七海ちゃんはこのまま成長して海軍に入ったとしても、根拠はないけどその提督と同じようになってしまうと思う」

「なんでっ!?」

 

七海ちゃんは怒りを顕わにしながらも私に問いかけてくる。

だから教えてあげる。

 

「七海ちゃんの深海棲艦を倒したいという気持ちはわかる。

だけどね、それだけじゃきっと七海ちゃんは憎しみに身を任せて艦娘のみんなを深海棲艦を倒すための兵器として運用しちゃうかもしれない。

それはきっとその提督と同じことになってしまう」

「………」

 

七海ちゃんはそれで思い当たる節があるのだろう、唇を噛みしめながらも私の話を聞いてくれていた。

 

「深海棲艦への憎しみを消せって言っているわけじゃない。

だけど、それ以上に憎しみで行動しないでこの町のみんな、残された家族、友達…なんでもいい。

守れるものを一つでも見つけてほしい」

「守れるもの…」

「そう。守れるもの。七海ちゃんにも家族はまだいるんでしょう?

まずはその大事な人達を守れるように、そして七海ちゃんのようにこれ以上憎しみを抱く子を産みださないように頑張っていこう」

 

それで七海ちゃんの表情はどこか先ほどより険は消えていた。

代わりにある事を聞いてきた。

 

「…お姉ちゃんは大事な物ってあるの?」

「もちろんあるよ」

 

そう言って私は朝潮の頭に手を乗せる。

 

「この子達艦娘も私の大事な仲間で、そして家族だ」

「司令官…」

「だから私はこの子達と一緒に頑張っていける限りは道を踏み外さない。

そして同時に市民の人達も守れるような人物になりたいと思っている。

…こんな甘っちょろい志しは生ぬるいのかもしれない。

でも、それが今の私のやれる全力だから」

 

そこまで言って七海ちゃんはそこで初めて笑顔を浮かべて、

 

「お姉ちゃん、立派なんだね…。

私、そこまで全然考えれていなかった。深海棲艦への復讐の事しか考えてなかった。

でも、そうだよね! こんな事をしてもお母さんは喜ばないよね!」

「そうだよ」

 

それで七海ちゃんの頭をもう一度撫でながらも、

 

「だから、七海ちゃんも道を踏み外さないように頑張ろうか」

「うん!」

 

それで七海ちゃんはすっきりとした顔になりながらも腕を振って「また会おうね、提督のお姉ちゃん!」と言って家へと帰っていった。

それを見送りながらも、そこでやっと言葉を発せたのだろう、久保提督が口を開き、

 

「…感服しました。榛名提督の想いもしっかりと聞けて良かったです」

「うん。雷、感動したわ!」

「司令官…。朝潮、そこまで想われていてとても嬉しく感じました」

「そうか…。よかった」

 

それで久保提督と話し合って定期的に町へと顔出しをしようという事で話がついた。

とても有意義な一日だと感じれたのはよかったな。

 

 




昨日の話の続きです。
七海というオリキャラを出しました。これから町に来る際は絡めていこうかと。



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