【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0206話『武蔵の過去』

 

 

 

 

 

……私は、あのレイテ沖海戦の事を忘れない。

なにもできずにただ沈んでしまった情けない私の姿も……。

そんな事を思いながらも私はまた新たな朝を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

今日は武蔵、谷風、江風の進水日の日だ。

それでまずはという感じで江風と谷風にお祝いの品を贈ったんだけど、

 

「きひひ! ありがとな提督!」

「提督! ありがとね!」

 

二人は快く受け取ってくれた。

それなので最後に武蔵に贈り物をしようと思い武蔵の部屋に向かっていったんだけどなにやら戦艦寮に到着すると大和が玄関先でおろおろとしていたので、

 

「大和……どうしたんだ? なにやらそわそわしているけど……?」

「あ、提督。……やはりそう見えましたか」

「なにかあったのか? よかったら相談に乗るぞ」

「ありがとうございます。実は―――……」

 

大和からとある相談を受ける。

それはなにやら武蔵の様子がおかしいとか……。

大和も武蔵に贈り物を贈ろうとしていたらしいんだけど武蔵の部屋の中に入ったらなにやら武蔵が重たい雰囲気になっていたので理由を聞いてみたらしいんだけど「特に問題はない」、と言われてしまったらしくそれでも武蔵の相談に乗りたい大和は先ほどの状況になっていたという。

 

「提督、どうしましょうか……? 武蔵の様子がおかしいのはあまり見ない事ですので……」

「そうだよな。いつも軽快に笑っている姿がよく見られるからな。でも、そうだな……思い当たる節がないわけじゃない……」

「提督、それは……?」

「まぁ、色々な艦娘も気にしているんだろうけどやっぱりレイテ沖海戦が関係しているんだと思う」

「あぁ……」

 

大和もそれで思い至ったのか少し暗い表情をする。

 

「武蔵は……栗田艦隊でいざ活躍しようとしたけど魚雷や艦爆による攻撃で一網打尽にされて壮絶な最後を遂げたからな。きっと武蔵自身も古傷が疼いているんだろうな」

「そうですね……提督、こういう時はどうした方がいいでしょうか? 私も無関係な話題ではありませんから武蔵の事を説得するのはきついと思います」

「そうだなぁ……まぁ一回当たってみるか。それからどうするか考えよう」

「はい」

 

私と大和は方針が決まったので武蔵の部屋へと向かっていった。

そして普段はよく外で畑仕事をやっていたり清霜ともよく遊んでいる武蔵だけど今日は部屋の中に閉じこもっているみたいでどうにも調子が狂う感じだな。

部屋の扉をノックする。

しばらくして、

 

『誰だ……?』

「私だ」

『なんだ提督か。どうした? この武蔵になにか用があるのか?』

「ああ。まぁ一回部屋に入ってもいいか……?」

『構わん』

「わかった。それじゃ入らせてもらうよ」

 

それで私は武蔵の部屋の中に入っていった。

そこで少し驚いた。

入った矢先で武蔵はまだ布団に寝間着のまま入っていていつも整えられている髪型が少しぼさぼさしていて部屋の中も少し荒れていた。

表情も少しやつれていて普段の元気がなさそうだ。

 

「武蔵! さっき以上にやつれているじゃない!?」

「……なんだ。大和もいたのか」

「ええ。それより武蔵、調子が悪いんだったらすぐに明石さんのところに行きましょう!」

「大丈夫だ……これくらいはすぐに治るだろうしな」

 

そういう武蔵だけど私から見てもやはり辛そうに見えるのはどうしようもない事実で、

 

「武蔵。やっぱりレイテ沖海戦の事を思い出しているのか……?」

 

私がそう聞くと少し表情が険しくなった武蔵は俯きながらも小さい声で「ああ……」と返事を返してくれた。

どうやら私の考えは合っていたらしいけどまさかここまで武蔵の事を消耗させるとは過去の思いは拭えないものなんだな。

 

「提督からみんなに伝えられた次の作戦名……それを聞いた後からよく悪夢を見るようになったんだ。なにもできずに沈んでいく私の光景がよく夢に現れる……まるで見せつけられているようなそんな光景を何度も見せられて私は、もしかしたらこの光景をまた繰り返すんじゃないかと思い恐怖した……」

「武蔵……」

 

思わずという感じで大和の声が漏れる。

これは思った以上に重傷だな。

私が解決できる相談の容量を軽く超えているしな。

 

「私らしくないよな……こんな弱気な姿まで晒してしまうなんてな……」

 

「ははは……」と武蔵は笑うがそれとは裏腹にギリッと拳を握りしめて歯を食いしばっている武蔵はやはり辛いんだろうな。

西村艦隊のみんなのように思いを共感できるものがいれば話は変わったのだろうけど、武蔵は一人で抱え込んでしまっているからな。

だけど武蔵のセリフを聞いて少しは入り込む余地があるのを感じた私は武蔵の頭を撫でてやりながら、

 

「武蔵……別に恥ずかしい事じゃないんだ。誰だって悔しい思いを抱えている。だから武蔵も誰かに甘えていいんだ。現にこうやって私と大和に話してくれているじゃないか」

「そうだが……やはり……」

「やはり、じゃないの! 大和は武蔵がこうやって頼って話してくれるのはとても嬉しいわよ。これからもなにかあったら相談に乗ってほしいとも思うわ」

「大和……」

「だからさ、武蔵も抱え込まないでもっとみんなに話していこう。なぁに、みんなで話し合えば自然と疲れや悩みも取れて来るさ。そしていつも通りの頼りがいのある武蔵の姿を見せてくれ」

「提督……ふっ、そうだな。確かに本当に私らしくなかったな……すまなかった」

 

そう謝ってきた武蔵はそこで一気に立ち上がった。

そして一気に服を脱いで着替え始めるんだけど、

 

「わわっ! 提督、見ちゃダメですよ!? 武蔵も少しは恥じらいを持ってちょうだい!」

 

大和が私の視界を塞ぎながらも武蔵を怒っている。

だけど武蔵はどこ吹く風という感じで制服を着終わったのだろう。

 

「提督になら見せても構わないぞ? はっはっは! それじゃ気を取り直して今日も一日張り切っていこうか!」

 

どうやら武蔵はもう元気が出たらしくそう叫んで腕組みをしていた。

 

「まったくもう……調子がいいんだから」

 

そう呆れる大和も元気が出た武蔵の姿に安心の色を覗かせていた。

そうだ。やっぱり武蔵はこうじゃないとな。

私もどこか勇気を貰えるような気持ちになりながらも、

 

「それじゃ本来の目的だった進水日の贈り物だ。受け取ってくれ」

「おー! ありがとな提督!」

 

武蔵の笑顔が眩しかったと思う私だった。

 

 

 




今回はレイテも近いという事で武蔵をメインにしてみました。



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