【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0188話『狭霧と磯風の関係』

 

 

 

 

磯風と松輪の二人が七輪を囲んで楽しそうに秋刀魚を焼いていた。

 

「わくわく……」

「もう少し待つんだな松輪よ。この磯風が最高の秋刀魚焼きというものを食わせてやるぞ」

「はい。……待ちます!」

 

二人の会話は一見成立しているようであまりしていない。

なぜかというと松輪は秋刀魚が焼けるのを楽しみにはしているんだけど、どこまでの範囲で焼いていいのかまったく分かっておらず、磯風に関しては言わずもがな……。

時折誰かが二人の前を通りかかるのだけど磯風が秋刀魚を焼いているというだけであまり関わらない方がいいだろうという感じで見ぬ振りをするのが大半だという結果である。

だから誰も磯風の秋刀魚焼きを矯正してくれる人がいないのでどこまでも秋刀魚は焦げていき食べられないものへと姿を変えて行ってしまう。

松輪もそれが美味しいとは言っていても、それが本当に正常な秋刀魚の味なのかすら判別がついていない現状だったので不幸としか言えない。

だけど捨てる神もいれば拾う神もいるということわざ通りにある子が二人の前を通りかかった時にその光景を見て見過ごせないという感じで二人へと近寄っていく。

 

「あの、磯風さん……?」

「ん? あぁ、なんだ。狭霧か。どうしたんだ?」

「その、その秋刀魚って……」

「うむ。今いい感じに焼けてきているところなんだ。できたら松輪に食べさせてやろうと思ってな」

「楽しみ、です!」

 

磯風と松輪は二人して笑顔を浮かべあう。

そんな二人に対して狭霧は少し悪いという気持ちになりながらもここは心を鬼にして挑まないと二人とも不幸な目に合うと予想したので、

 

「磯風さん! その秋刀魚ですけど……もう焦げちゃっていますよ!」

「なに……?」

 

それで鋭くなる磯風の視線。

狭霧の「怒っています」という感じの視線と、磯風の「聞き捨て置けないな」という感じの視線と視線が交差してバチバチと鳴っているようだ。

それを中間で見ている松輪は思わずあわあわしてしまいおろおろと狼狽えることしかできないでいた。

 

「……よかろう。狭霧よ。それなら私に本当の秋刀魚焼きというものを見せてもらえないだろうか……?」

「い、いいですよ! 狭霧、頑張ります!」

 

狭霧はそれで今現在の恰好である私服でバスケットには秋刀魚が二尾入っていたのでそれを出して磯風の焼いていた真っ黒焦げな秋刀魚を申し訳なくお皿にどかして新たな秋刀魚を用意し始める。

 

「いいですか? まずは最初から秋刀魚を七輪に乗せないで炭を温める事から始めます」

「なに!? 秋刀魚は最初から乗せてはダメだったのか!?」

「やっぱり乗せていたんですね……」

 

予想通りの反応に狭霧は思わず内心でため息をつく。

一方で松輪はというとなぜか持っていたメモ帳でメモをし始めだす。

 

「炭を焚いていってよく火が通って来ましたらそこで初めて秋刀魚を乗せるんですよ」

「なるほど……」

「あと、風よけとかもあったら用意した方がいいですね。風でせっかく焚いた火が散ってしまうと秋刀魚が生焼けしてしまいますから」

 

そう言って狭霧はどこから取り出したのか小さい風よけの囲いを用意して七輪の周りに置く。

これによって七輪の火の弱まりを防げるのである。

 

「ふむふむ……参考になるな」

「はい……」

「そして次に注意しないといけないところは火加減の難しさです。生焼けでもダメですし焼き過ぎても炭の味になってしまいますから。磯風さんの焼いていた秋刀魚がその炭の味というものになっているんですよ?」

「そうか……私のは焼き過ぎだったのか」

 

磯風は初めて指摘された事に対して反省点などを考えている。

磯風も料理音痴とはいえ馬鹿ではないので反省する点は反省できるのだ。

だから狭霧の話を真剣に聞いていた。

松輪は松輪で「(狭霧さん、教え上手です……)」と思っていた。

 

「それでは後は焼けるのを待ちましょうね。ほんのり焦げ具合が出てきましたら裏返してそちらも同じ感じに焦がしていきます」

 

狭霧の焼いていた秋刀魚の焦げ具合といえばいい感じにきつね色になってきていた。

 

「あと、ここでも注意する点と言えば秋刀魚の脂が七輪に零れると火柱が上がってしまってやっぱり焼け過ぎのもととなりますので注意深く見て行ってください。

もしそれでも火柱が上がったら秋刀魚の位置をずらしてその火柱に当たらないようにしてくださいね」

「了解した」

「とても美味しそうです……」

「最後にちょっと焼け過ぎって具合の感じが出てきたら七輪からどかしてお皿に乗せると完成です」

 

狭霧はそう言ってお皿に出来上がった焼け秋刀魚を乗せた。

そのあまりの出来具合に思わず磯風は「おおー」と感嘆の声を上げて、松輪は「ゴクリッ……」と唾を飲み込む。

 

「どうでした? 私も秋刀魚焼きは初心者な方ですからあまりうまくは出来ていないかもしれませんけど……」

「いや、狭霧よ。いい勉強になった。私の焼いた秋刀魚と見比べてみれば一目瞭然だな。なぜか私が秋刀魚を焼くと七輪も壊れていたのはそれが原因だったんだな……」

「へー、そうなんですか……って、いえいえ!? 七輪が壊れるっていうのはどういった状況でしょうか!?」

 

思わず流しそうになってその異常性に気づいて狭霧はツッコミを入れる。

それに対して「なにか変か?」と言わんばかりの表情をする磯風に狭霧はこれは重症かもしれない……と悟って、

 

「磯風さん、今度から私が料理の指導をしましょうか……? 未熟者ですけど未熟なりに教えられることもあると思うんです」

「いいのか?」

「磯風さんさえ良ければですけど……」

「うむ。それならありがたいな。司令にもあまり出す前に萩風とかに邪魔されるからな。見返してやりたいしな」

「いい心構えです。一緒に頑張りましょう」

「うむ、心得た」

 

それから二人はよく料理を一緒にする仲になっていって磯風の料理の腕は多少は改善されていったという。

ちなみに焼けた秋刀魚は松輪が美味しく頂いていたという。

 

「秋刀魚、美味しい……」

 

松輪の一人勝ちな結果とも言えなくもない状況だったけど誰もツッコミはいなかった。

 

 

 




まだまだ秋刀魚の季節は終わらない……。
次はだれを書こうかな……。



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