【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0169話『雲龍と時雨の秋日和』

 

 

「雲龍……秋っていいものだね」

「そうね、時雨」

 

私、雲龍と時雨は鎮守府の近くの森の中にある丘に登って景色を眺めていた。

自然に広がる森林は少しずつだけど赤く染まっていっていて秋の季節を感じられるというもの……。

この紅葉も冬になれば散ってしまう儚く短い命。

それでも一生懸命に染まってくれて、私達がこうして景色を覗けられることに感謝しないといけないわ。

 

「ふふ……。雲龍、どこか嬉しそうだね?」

「そう言う時雨こそ……」

 

それで二人して笑い出す。

私と時雨は過去にかなり悪い戦況でともに輸送作戦をした仲だけど、時雨には残念な思いを抱かせたと思う……。

艦載機ももうなかった当時、時雨は必死に私を守ろうとしてくれたけど敢え無く私は轟沈してしまった……。

それが今もきっと時雨の心の枷になっているんだと思う……。

 

「ねぇ、時雨?」

「うん? なんだい、雲龍……?」

 

時雨がこちらに振り向く前に私は時雨の事を抱きしめる。

それで一瞬時雨は目を見開いたけど、おそらく私の今の顔を見てしまったんだろう……。

 

「大丈夫……大丈夫だよ雲龍。今度は、今度こそは僕が雲龍を必ず守るから……」

「うん……」

 

慰めるつもりが逆に慰められてしまった……。

それで少しばかり自責の念に苛まれるけど、それでも私は言葉を紡ぐ。

 

「ねぇ時雨……。私はもう、守られるだけの存在じゃないわ」

「うん、知ってる」

「だから、今度は時雨の事も守らせてね……」

「わかった……」

 

それからしばらく私は時雨はくっついたままだった。

そして少し時間が経過して、

 

「……さて、それじゃいつまでも過去の事を悔やんでいないで紅葉でも楽しもうか、雲龍」

「そうね。良いと思うわ」

 

それで私と時雨は手を繋ぎながら赤く染まっている森の中を歩いていく。

提督にも感謝しないとね……。

時雨と私の休みが重なったのを鑑みて一緒に外出届を出してくれたんだから。

それで私と時雨はどこに行こうかという話になって、それでもあまり遠くに行くことも出来ないので鎮守府の周りを周る事にしたんだ……。

それで少し歩いていると偶然見つけた丘に登ってみようという事になっていざ上ってみればそこは素晴らしい景色が広がっているではないか……。

それでいい場所を見つけたなぁと時雨と話していたのよね。

今度、天城と葛城も連れてこようかしら……?

きっと喜ぶわ。

しかし、ふと……、空を見上げてみるとそこには一機の艦載機が私達を見下ろしていた。

誰だろう……? 無断で陸地内に艦載機を飛ばしているおバカさんは……?

そんな事を私は思っていると時雨がとある事に気づいた。

 

「あれって、龍鳳の艦載機の艦攻だね」

「どうして分かったの……?」

「うん。龍鳳がたまに見せてくれるんだ。私のお気に入りだとか言って」

「そう……」

 

それで私は少しムッとしてしまう。

せっかく時雨と散歩を楽しんでいたのにまさか除き見られていたなんて……。

あ、艦載機が急いでどこかに行ってしまった。

おそらく私達が気づいたのを焦った妖精さんが逃げていったのね。

別に少し気に入らないからといって撃ち落とすつもりはないんだけどな……。

 

「どこかに行っちゃったね」

「そうね。まぁいいじゃない? これで邪魔物は居なくなったわけだし」

 

それでまた散歩を再開した私たちはしばらくして沈み行く夕日を眺めながら、

 

「また、来たいわね……」

「大丈夫だよ。まだ秋は始まったばかりだからいつでも来れるさ」

「そうね。それにしてもいい夕日……」

「そうだね」

 

そんな話をしながら私と時雨は鎮守府へと帰って来た。

すると正門の場所にはどこかふて腐れている龍鳳とどうしたものかといった表情の木曾がいた。

たぶん、艦載機を勝手に持ち出したのがバレて叱られたのね。

龍鳳は私たちに気づくと、

 

「うわーん! 時雨さーん!」

 

一目散に時雨に抱きついていた。

 

「聞いてくださいよー!」

「ちょっと落ち着こうか龍鳳。何があったんだい……?」

「あー……時雨、真面目に取り合わない方がいいぞ?

龍鳳の自業自得なんだから」

「そうですけどー! そうなんですけどー!」

 

涙目の龍鳳はどこか癇癪でも起こしているのか情緒不安定だ。

 

「……木曾。なにがあったの?」

「まぁ、なんだ? お前たちも気づいたんだろうけど龍鳳のやつ、勝手に艦載機を持ち出してお前たちを監視してたんだろ?」

「そうだね」

「そうね……」

「うー……」

 

私と時雨が相づちを打って、龍鳳が唸り声をあげ出した。

 

「まぁ、それで提督にバレて少しばかり叱られるくらいならまだよかったんだ。だけど加賀さん達にバレたのが不味かったな。二人が帰ってくる少し前までこってり絞られたそうなんだ」

「「あー……」」

 

それはなんとも……確かに自業自得だけど、御愁傷様……?

 

「私だって時雨さんと一緒にピクニックに行きたかったんです! だけど私は待機だったから、だからぁ……」

 

とうとう龍鳳が涙を流し始めた。

そこまで時雨の事が好きなのは分かったけど、

 

「龍鳳? 少しは反省しないとね」

「うぅ~……時雨さん……」

 

時雨に頭を撫でられて龍鳳はもう色々とダメダメだった。

仕方がないな……。

 

「しょうがないわね。後で提督にシフトを掛け合ってみるわ。今度は一緒に行きましょう?」

「いいんですか!?」

「うん。僕も構わないよ」

「時雨さん!」

 

それで嬉しそうな龍鳳に私と木曾はやれやれと言った感じのやり取りをしていた。

その後に私達は提督に感謝の言葉を述べたんだけどその際に、

 

「雲龍、進水日おめでとう」

「提督……。覚えていてくれてたのね」

「まぁ、一応な。今日の進水日の子は何人もいるから一気に覚えていたのもあるしな」

 

それでたははと笑う提督。

やっぱり提督はいい人ね。

そんな提督だからこそ、私達も力を出せるのよ。

それで少し嬉しい気持ちで空母寮へと帰っていく。

きっと、明日もいい秋日和になるわね……。

 

 




雲龍の進水日という事でこの話を書きました。
今日は他に神風、青葉、鹿島の三人も進水日なんですけど雲龍をピックアップしました。
来年はこの三人から書こうかな……?



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