【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0152話『旗風の鎮守府散歩』

 

 

八月の半ばごろにこの鎮守府に配属されましたわたくし旗風でございます。

同時期に一緒に配属された天霧さんとはなにかと話をする機会がありますので嬉しいです。

今日はそろそろ秋も近くなってきましたのでそんなに暑くもなく気候もいいですので一人で鎮守府を色々と巡ってみようかと考えています。

それで朝早くに起きて朝食を摂ろうと部屋を出て行こうと思いましたら外から朝姉さんの声で、

 

『朝ー! 朝だよー! みんなー、起床しなさい!』

 

という元気な声が響いてきました。

それで思わずわたくしはクスリと笑みを浮かべてしまいました。

朝姉さんはこの鎮守府では駆逐艦寮の朝起こし当番のようなのですね。

ここに来て少し経ちましたからそれは分かります。

ただ……、

 

『朝風、うるさい!!』

『これじゃ朝版川内さんじゃン!』

『これはこれでいいものだな……眠気が覚めたよ』

 

と、朝姉さんへの苦情があちこちで聞こえてくるのはどうなのでしょうか……?

まぁ朝姉さんも気にしていないのか、『起きたわね。さ、みんなで支度をしましょう!』と己の性分を曲げずに進む姿はさすがだと言えますね。

それでわたくしも朝姉さんに倣ってせっせと袴に着替えて食事に向かおうと扉を開けました。

そこで松姉さんが隣の部屋から出てきましたので、

 

「松姉さん、おはようございます」

「うん。おはよう旗風。良い朝だな」

「はい」

 

それで松姉さんはいつも通りにかっこいい爽やかな笑みを浮かべています。

松姉さんはわたくしの中ではあこがれもありますのでついうっとりしてしまいそうです。

 

「しかし……朝風の姉貴はいつも元気だな」

「そうですね。わたくしが来る前からあんな感じだったのですか……?」

「ああ。僕が来た頃にはすでにあんな感じだったよ」

「そうなのですか」

 

それで松姉さんはため息を吐いていました。

いつも朝姉さんの事をからかっているようにお見受けしますけど照れ隠しのようで実は素なのが松姉さんらしいですよね。

 

「それじゃ気を取り直して朝食でも摂りにでもいくとしようか」

「はい、松姉さん」

 

それでわたくしと松姉さんは一緒に食堂へと向かいました。

最近はそろそろ冷たいものはお腹を壊しそうですので温かいものが食べたいところですね。

それでわたくしはいつも通りお味噌汁と鯖定食を頼みました。

 

「ふふふっ。旗風ちゃんはいつもお行儀が良くて嬉しいわ」

「ありがとう存じます、間宮さん」

「いえいえ。それじゃゆっくり食べて行ってね。まだ慣れない事が多いと思うからお姉さん達に遠慮なく頼るのよ」

「はい、わかりました」

 

間宮さんはやっぱり優しいですね。嬉しく存じます。

それで食事を持って席に着席するとそこに遅れて神姉さんと春姉さんがわたくしの前に着席しました。

 

「あっ……! 春姉さんに神姉さん、おはようございます」

「おはよう、神風と春風の姉貴」

「おはよう、二人とも。それにしてもまた朝風に起こされてしまったわね」

「ふふ。そうですわね、神風お姉様」

 

神姉さんはどこか眠そうに、春姉さんはそんな神姉さんを微笑ましい表情で見ています。

そして最後に朝姉さんがさらに遅れてやってきました。

 

「あー……もう。なんでみんなこんなに朝に弱いのかしらねー?」

「朝風の姉貴……姉貴を基準に置かない方がいいと思うよ。姉貴は五時過ぎには起きているじゃないか」

「そうよ! だって早起きは三文の得よ!」

「もっと他の者にも配慮した方がいいと思うんだ」

「なによぉ……」

 

それでいつも通り朝姉さんと松姉さんが言い争いを始めました。

神姉さんと春姉さんは二人とも「仕方ないわね」と言った感じの表情を浮かべていますけど敢えて無視して朝食を食べ始めていますね。

それでわたくしもそれに倣って食事を食べ始めました。

うん、やっぱり美味しいです♪

 

 

 

 

 

 

それから姉さん達と楽しい食事を終わらせた後にわたくしは執務室へと向かいました。

一回扉をノックした後に、

 

「旗風、入ります」

『どうぞー』

 

中から大淀さんの声が聞こえましたので入らせてもらいました。

そこでは今日の任務を確認しているのか司令が資料とにらめっこをしていました。

 

「旗風、おはよう」

「おはようございます、旗風さん」

《おはようございます、旗風さん》

 

司令と大淀さんと榛名さんに挨拶をされたのでわたくしも「おはようございます」と返しておきました。

それにしてもまだまだ榛名さんの事は慣れない気分ですね。

ここの鎮守府ではこれが普通なのだそうですけど初めて見た時は思わず悲鳴を上げそうになりましたから。

 

「今日はどうしたんだい? 神風たちは一緒にいないみたいだけど……」

「はい。今日は兼ねてより考えていました鎮守府の中をお散歩してこようかと思いまして、司令に相談に来ました」

「そう言う事か。でもわざわざ私に確認しなくてもいつでも周ってきてもいいんだぞ?」

「はい。ですが他の寮や訓練場など色々な方がいますと思いましたので……」

「そうか」

 

それで司令も納得したのだろう、「それなら気兼ねなく周って来なさい」と承諾してくれました。

わたくしはそれで「ありがとう存じます」と言って執務室を後にしました。

そして散策を開始しました。

それで色々と周っているのですけど空母寮などは一番和風な作りが多く見られましたので日向日和にはちょうどいいかもしれないですねと思ったので鳳翔さんにたまに来てもいいですか?と話をしてみたら、

 

「いつでも来ても構いませんよ。ここには誰も拒否する人はいませんから」

「ありがとう存じます」

 

それで空母寮を後にしたわたくしは次は、戦艦寮や特殊艦寮、潜水艦寮などと色々と周っていきまして寮の見学は大体が済んだので次は施設などを見学しようと思いました。

そして特に目についたのがなにかの菜園でしょうか? お野菜を作っているようで何人かの艦娘の方々が畑を耕していました。

 

「お? 旗風か。どうしたんだ?」

「天龍さん。はい、見学に来ました」

「そうか。まぁここは提督の趣味で始められた菜園だからあまり面白味もないけどみんながみんな楽しんで作っているから旗風もその気があったら参加してみてくれよ」

「はい! その時はよろしくお願いしますね」

「おう!」

 

それで天龍さんは人好きの笑みを浮かべてわたくしを送り出してくれました。

ああ……確かに農作業は楽しそうですね。

自給自足もいいものです。

その後にわたくしは鎮守府の隅の方でひっそりと佇んでいるあるものを発見しました。

石碑……でしょうか?

そこには数名の名前が彫られていました。

これはもしかして……。

すると背後で誰かの気配を感じたので振り向いてみるとそこには司令の姿がありました。

 

「やっぱり最後はここに来たんだな、旗風……」

「司令。これは、もしかして……」

「ああ。旗風の思っている通り、この世界に来る前に私がやってしまった罪なんだけど轟沈してしまった子達のお墓なんだ」

「そう、なのですか……」

 

それでわたくしは今一度石碑をじっと見ます。

そんなわたくしの隣に司令が並んで、

 

「この石碑を見ると何度も思うんだ。もう二度と彼女達のような悲劇を起こしてはいけないってな……」

「司令は優しいですね。お墓まで作ってあげてるなんて……」

「そんな事ないさ。ただ、私の自己満足で作ったものだからな。でも、これでいつでもこの鎮守府に迷わずに彼女達が帰ってこれるからいいモノだと思っている」

「そうですね……はい、わたくしもそう思います」

 

その後に「少し辛気臭かったな。そろそろお昼だからなにか奢るよ」と司令に言われましたので快く受け取りました。

そして思いました。

こんなものまで作ってくださるのですから司令は優しい人なんだという実感を持てました。

朝姉さん達も楽しそうに過ごしていますのでわたくしも早くこの鎮守府の空気に溶け込めるように努力したいと存じます。

 

 

 




旗風の朝風景と鎮守府巡りでした。
次回は誰にしようか……? 狭霧と天霧は一回歓迎会を書きましたから、でももう一回書くのも私の自由ですしね。



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