【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0150話『松輪の心配事』

 

私は松輪……。

択捉型海防艦二番艦の松輪。

択捉ちゃんの妹としてこうして艦娘の姿で顕現しました……。

私がこの鎮守府に着任してから結構な時間が経過しました。

択捉ちゃんは優しいし、司令もとても私の事を気遣ってくれるし……。

他の海防艦の先輩である占守ちゃんと国後ちゃんも後輩の私の面倒を見てくれて、まだまだ練度は低いけれどここでの生活は充実しています……。

だけど、少し不安に思う事があります。

それは……。

 

「択捉ちゃん……」

「ん? どうしたの松輪?」

「うん。私って、見た通りちょっと弱気な性格でしょ?」

「そんなことは無いと思うんだけど……」

「ううん。多分そうなんだと思う。それで司令と話す時もつい遠慮しちゃうことがあるから」

「うーん……そうなのかな? でも、そこも含めて松輪は可愛いからいいと思うけど」

「それじゃダメなんだと思うの……。まだまだ練度も低いし鎮守府近海の対潜掃討には出させてもらえないから」

「あー……」

 

それで択捉ちゃんは苦笑いを浮かべている。

きっと私の事を心配しての苦笑だと思うんだけど、やっぱりそれだけでも私はまだまだ役立たずなんだと実感してしまう。

だから、

 

「だからね……私、もっと練度を上げて弱気な性格も直して、それで司令の役に立てるように頑張りたいの……」

 

私がそう言うとなにかを感じたのか択捉ちゃんが私の頭を撫でてくれた。

ふぇ……?

いきなりどうしたのかな……?

 

「大丈夫……松輪はきっとまだ不安なのかもしれないけど、ここのみんなは松輪の事を役立たずなんて思っていないよきっと」

「でも……」

「でもその気持ちも分かるかな?」

「え……?」

 

択捉ちゃんはそう言って少しなにかを思い出すような表情をして、

 

「私もね。今回の作戦の前の作戦でこの鎮守府に配属されたんだけどね、この鎮守府では海防艦って私と国後ちゃん、占守ちゃんの三人が初めてだったらしくて扱いに困っていたらしいの」

「そうなんだ……」

「でも、司令はすぐに私達の能力を理解してくれて練度を上げてくれて対潜掃討の任務を任せてくれるようになったの」

 

それでどこか嬉しそうな表情を浮かべる択捉ちゃん。

きっと嬉しいんだろうな。

対潜しか取り柄がないだろうと思われていても、それでも司令はこんな私達を使ってくれるんだから。

 

「だからね。松輪も心配することは無いよ。司令は誰も役立たずなだなんて思っていないから。この三か月だけのこの鎮守府の暮らしでそれだけは理解できたの」

「うん。司令はとても優しいから……」

「うん!」

 

それで択捉ちゃんと一緒に笑いあう。

択捉ちゃんもだけど前回の作戦でこの鎮守府に配属された艦娘の人達は前からいた艦娘の人達に司令についての人柄を聞いたんだって。

それで思ったのは私達艦娘以上に不思議な体験をした人だって分かって、それでどこか安心している自分がいた。

司令はもとはただの一般人で軍隊然としていなくて、そして人死にに慣れていないから私達の事を誰も無茶な事をして無くしたくないっていうのがみんなの意見の同意だという。

司令はこの世界に来る前に何人か轟沈させちゃったらしいんだけど、司令はその理由と轟沈した艦娘の人達の事を今も忘れないで想っているみたいなの……。

だから、私も不安はあるけど司令の命令なら従いたいと思っているの……。

でも、だからこそ最初に戻っちゃう感じだけど司令に迷惑をかけちゃいけないと思うから、

 

「やっぱり私……もっと頑張るね。司令に迷惑をかけたくないから」

「あはは……。松輪は少し頑固なんだね。司令はそんな事を思わないって……。そうだ。だったら今から司令のとこに向かおうか」

「え? でも……迷惑じゃないかな?」

「そんな事を思うほど司令は心は狭くないよ。いいから行こう!」

 

そう言って択捉ちゃんは私の手を握って指定の場所へと向かって歩き出した。

うー……少し緊張するなぁ。

 

「ほらほら。手に力が入っているよ。リラックスしなきゃ」

「う、うん……」

 

択捉ちゃんは私の手を握っただけで状態を把握しちゃうんだからやっぱりすごいなぁ……。

さすが私のお姉ちゃん。

そんな、少し択捉ちゃんの事を誇らしく思っている間に私達は執務室へと到着していた。

幼児体型の私達からしたら少し重厚で大きい扉。

択捉ちゃんは一回扉をノックする。

すると中から大淀さんの声で『どなたですか?』という言葉が聞こえてくる。

 

「択捉です。司令は今中にいますか?」

『はい、いますよ』

『どうしたんだ択捉? 私に用かい?』

 

それで大淀さんとは違う声で司令の言葉が聞こえてきた。

 

「はい。ちょっと松輪が不安に思っていることがあるそうですので司令に相談をしに来ました」

『そうか。それじゃ入ってくれ』

「わかりました! それでは失礼します」

 

それで択捉ちゃんは扉のノブを少し背伸びして開けていた。

そんな姿に少し癒されながらも、私達は執務室の中へと入っていく。

中では大淀さんと司令が事務仕事をしているのか少し資料が机の上に溜まっていた。

 

「択捉、まいりました」

「その、松輪、まいりました……」

「ようこそ二人とも。それで松輪、択捉が言う心配事ってなんだい?」

 

そう言って司令は笑みを浮かべました。

戦艦の榛名さんと同化していると言いますけどこの司令の笑顔はとてもいい顔だと思いました。

それで私は意を決して話しました。

 

「その、司令……松輪はこの鎮守府でうまくやっていけるでしょうか……? それとうまくやっていけてるでしょうか? 役立たずではないでしょうか?」

 

私は今思っている事を口に出しました。

すると司令は少し驚いたような表情になった後に、優しい微笑みを浮かべて、

 

「なんだ。そんな事だったのか……。うん、松輪は不安に思うのは分かるよ。でもな、誰も役立たずだなんて私は思わないよ。みんながみんないい個性を持っている。だから頑張っている姿を見れるのならここでもやっていけるさ。

それに……そんな事を言ったらむしろ私の方がみんなに迷惑をかけているかもしれないからな。もう知っていると思うけどこの世界に来るまではこんな戦いとは無縁の生活を私は送っていた。だからこそ分かるんだ。

必死に深海棲艦と戦ってくれているみんなには感謝の念しか浮かばないよ。

だからな……松輪」

「は、はい!」

 

そこで司令は真剣になってでもどこか優しさも含まれている感じの表情を浮かべて、

 

「松輪がここでやっていこうと強く思っているなら私は歓迎するよ。誰だって練度が低ければ不安に思う事はある。それでも私はみんなを手放さないよ。もう私達は家族なんだからな」

「家族……」

 

その言葉を聞いた瞬間、私は胸の中が熱くなるような錯覚を覚えました。

そして気づけば私は涙を流していました。

 

「ど、どうした松輪!? なにか気に障る事でも言ってしまったか?」

「い、いえ大丈夫です。ただ、嬉しかっただけですから……」

 

そう、嬉しかったんだ。

こんな戦うしか能がない私を家族と言ってくれて、その司令の気持ちに触れられて……。

だから私は涙を拭いながらも、

 

「だったら……松輪、これからも頑張らせていただきます。ですから……手放さないでくださいね、司令……」

 

私がそう言うと司令が、大淀さんが、択捉ちゃんが、そして司令と一緒に聞いていたのだろう透明な姿の榛名さんが、全員が笑顔を浮かべていました。

 

「ああ。これからもよろしくな松輪」

《よろしくお願いしますね、松輪ちゃん》

「はい!」

 

もう、不安に感じることは無いんだ。

これからは択捉ちゃんと一緒に頑張っていこう。

私はそう決意しました……。

 

 

 




今回は松輪の回でした。
択捉は松輪の前では口調が砕けている設定です。
イベントが終わるまでに新規艦娘の掘り下げをしていきたいですね。
次回はルイですかね?


それと活動報告の方に150話達成のコメントを書きましたので見てくださると嬉しいです。


それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。

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