【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0013話『遅いお花見』

深海棲艦がこの世に蔓延っている世の中だ。

それこそゆったりとしていてはダメだと思う。

だけど、もう四月の後半…桜の葉も散って少しずつ緑に変わってきた今日この頃、鎮守府の敷地内にある桜の木の下でお花見が開催されていた。

なぜお花見なのかというと陽炎型駆逐艦十番艦の時津風が言い出したことである。

 

「しれー、お花見しよう?」

「お花見…?」

「うんお花見」

「しかし、もう桜も散ってしまっているだろう?」

「だけど桜だけがお花見じゃないでしょー? やろう…?」

 

私の肩に乗りながら時津風が猫撫で声でそんな事を言い出していたのだ。

それで一緒にいた雪風が、

 

「しれぇ! いいと思います! この世界に来てからというものしれぇはこの世界に慣れるために勉強三昧ですから息抜きも必要だと思いますっ!」

 

前歯をきらりと光らせながら愛嬌のある笑顔で雪風にそう言われてしまっては断りづらいものがあるな。

 

「…わかった。でもこの間に宴会をしたばっかりだから規模は少な目だぞ? まだ食糧の供給だって万全ではないんだから」

「わーい!」

「はいっ! わかりました!」

 

そんな二人の駄々もあって私達はこうして桜の下で鳳翔さんや間宮さん、伊良湖さん達の手作りの重箱をつついているという流れである。

そしてお花見と聞いて黙っていられるほどうちの艦娘達はおとなしくなかった。

みんながみんなしてお花見を楽しんでいた。

そんな中で赤城が加賀と一緒に私のもとへとやってきて、

 

「提督。お花見楽しんでいますか?」

「ああ、赤城。そういう二人も楽しんでいるか?」

「ええ、提督…。赤城さん、せっかくですから提督のそばに一緒にいませんか?」

「ふふ、加賀さんがそう言うのでしたら」

 

赤城は楽しそうに、加賀は少し頬を赤らめながらも私と一緒の席に着いた。

 

「…しかし、不思議なものです」

「なにがだ、赤城…?」

「はい。私達は今までゲームの中だけの所謂データの存在でした。提督も同様に艦これというゲームをしている一般人だったはずでした。ですが…」

「はい、赤城さん。どんな数奇な巡り合わせなのか私達はこの世界に来たと同時に実体をもって提督ともこうして自由にお話ができる………これにはさすがに気分が高揚します」

 

そう言って加賀は少なくない笑みを浮かべる。

驚いた。

赤城はともかく加賀ってこんなによく喋って感情豊かに笑う子だったんだな。

もっと物静かなイメージだったけどいい意味で見直さないといけないな。他の艦娘達も含めて。

 

「あ! 加賀さんに赤城さんを発見! ついでに提督さんも発見したよ、翔鶴姉!」

「そうね瑞鶴。提督の周りには今は加賀さん達だけみたいだから一緒に席に着きましょうか」

 

瑞鶴が指をさしながら翔鶴とともにこちらにやってきた。

 

「瑞鶴。秋月や朧、秋雲はいいのか…?」

「うん。あの三人もそれぞれ同じ隊のみんなと楽しんでいるみたいだから。

秋月なんて『瑞鶴さん、本当の食事って…美味しいんですね』って涙目になっていたし…」

 

…ああ、想像はなんなく出来る。

秋月は…いや、照月に初月もだけど、戦争末期の時代に生まれた艦船だから艦これの設定どおりに食に関しては並々ならぬ思いがあるのだろう。

 

「それより、加賀さん達がいいんですから私達も一緒の席でもいいよね? 提督さん」

「ああ、酒を多く絡めなければ歓迎するよ」

「ふふっ…最初の宴会の時に提督ってば酔ってずっと笑いっぱなしでしたからね」

「言わないでくれ翔鶴…。笑い上戸だってことは自覚していた事だし、それにみんなと楽しむことができたんだからあの時の醜態は忘れてくれ」

「はい。わかりました」

 

翔鶴は笑みを零しながら赤城の隣の席に着いた。

瑞鶴も加賀の隣に座る際、

 

「加賀さん? もっと詰めてくださいよ。座れないじゃない?」

「あら? 座る場所ならもっとあるじゃない…?」

「私に地面に直に座れっていうんですか…?」

「そこまで言ったつもりはないのだけれど…そう思わせてしまったのならごめんなさいね」

「むきー!!」

 

瑞鶴が口で速攻で負けて唸りを上げている。

うん。やっぱりこの二人はこんな関係か。

まぁ、それでも素直になれないのだろう加賀が、

 

「でも、早く座りなさい。いつまでも立っていたんじゃ足が痛くなるでしょう…」

「う、うん…」

 

と言って瑞鶴の手を引っ張っていた辺り、

 

「加賀も素直じゃないなぁ…」

「そうですね、提督」

 

鳳翔さんの作ってくれた料理を美味しそうに頬張りながらも楽しそうに赤城がそう小声で呟く。

それで散ってしまっていた桜を見上げながらも、

 

「榛名…」

《はい、なんでしょうか提督…?》

 

私の呼びかけにすぐに榛名が透明の姿で現れる。

 

「赤城もだけど…来年はもっとちゃんとしたお花見をみんなでしたいものだね」

《はい! 榛名もそう思います》

「提督。ですからこれからこの世界で頑張っていきましょうね」

「ああ」

 

そう榛名と赤城と話しながらも賑やかに行われているお花見の光景を楽しんでいる時だった。

駆逐艦達の集まりの方で『これからかくし芸大会を始めます! 一番はこの私白露がやりまーす!』というマイクを持った白露の姿が見えた。

でも、そこに何よりも早さを求める申し子である島風が、

 

「白露おっそーい!」

 

と言いながらもその場で連装砲ちゃん達と一緒に即席のダンスを踊りだし始めていて、他にもそれを酒の肴に酒飲み達が「いいぞー!」と言って場をさらに盛り上げていた。

そんな光景を目にして、

 

「………無くしたくないな」

 

私はそう誰にも聞こえない声で呟く。

だけどそんな呟きも榛名は聞き逃していなかったのか私の手に自身の手を乗せて実体はないのに温もりが感じ始めながら、

 

《…大丈夫ですよ。提督ならきっとこの光景も守れます》

「そうか…?」

《はい。榛名、信じていますから…提督ならきっと大丈夫だって》

「ありがとう、榛名」

《はい!》

 

そんな榛名に感謝しながらももう一度桜の木を見上げたのだった。

今日もとってもいいお花見日和だ。

 

 

 




少しでも瑞加賀の成分が入っていれば幸いです。

うちの艦娘達は自分たちがゲームのキャラクターで電子の存在だったという事をしっかりと認識しています。

ですからこの世界の艦娘達とは意識的には別物ですし、今後入手する新艦娘とは別物設定かもしれませんね。

それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。

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