【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0126話『お盆の日、会いに来た艦娘達』

 

 

 

今日はお盆の日だ。

この世界では誰かを失ったという事はないんだけどそれでも私はしておきたい事がある。

それでナスときゅうりを鳳翔さんから拝借して馬やら動物の形を作って鎮守府の入り口に置いた。

 

《提督……? これは……?》

「榛名も知っているだろう? 死んでしまったものがこれに乗って帰ってこれるように動物の形をしているんだ」

《ですが……この世界に来て提督はまだ誰も失っていませんよ》

「そうだな。でも、きっと彼女達は彷徨っていると思うんだ……」

《かつて沈んでしまった木曾さんや綾波さん達ですか……?》

「そうだ。もし本当に彼女達が死んだ後も彷徨っていたとしたら目印くらいは置いておいた方がいいだろう……?」

《そうですね》

 

それで榛名が笑顔になって頷いてくれた。

お墓もないけど、きっと帰ってきてくれるという思いで私はその場を離れようとしたその時に、

 

【―――………】

「ん……?」

 

なにか、聞こえてきたような気がした。

でも気のせいかという思いで、

 

「さて、それじゃ今日もはりきって大規模作戦の攻略にでも乗り出すとするか」

《…………そ、そうですね提督》

 

私が元気を出してそう言ったのだけどどこか榛名が声が上ずっているのが気になったので聞いてみることにした。

 

「どうした榛名?」

《い、いえ……提督は気にしないでください。ただ……》

「ただ? どうしたんだ一体……?」

《……いえ、提督に害がないのでしたら別にいいのです》

 

なんか榛名はそう言って体を少し震わせながらも微妙な笑みを浮かべていた。

気になるな……?

まぁ、榛名が話したくないのだったら別に無理に聞き出すこともないだろう。

それで私は執務室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

榛名は提督が気づいていないのを分かっていてか虚空に向かって提督に聞こえないように話しかけた。

 

《ですが……驚きました。なんで私には見えるのかはわかりませんが……木曾さん達なんですね?》

《ああ。どういう訳か知らないがここに戻って来ちまった……》

《司令官に会いたいという気持ちが私達の魂を引き寄せたのでしょうか……?》

《どうでもいいけど多分榛名さんは今は精神の状態だからイムヤ達の事が見えるんじゃない……?》

《もぐもぐ……まるゆもそう思います》

 

現れた四人の姿に榛名は多少は驚きながらももう会えないと思っていた彼女達と再び会えたことに喜びの思いを感じていた。

 

《でも、不謹慎ですけどよかったです……沈んでしまったら深海棲艦になるという噂話もあったのでみなさんがこうして艦娘のままの姿で……》

《まぁな。しっかし提督も見ない間に逞しくなったな。榛名さんの姿になっているのはなんか微妙な気持ちだけどな……》

《ふふ……そうですね。綾波達もさすがに今の司令官の姿は驚きを感じています。でも……》

 

綾波は視線をそっと別の方へと向ける。

そこでは今の綾波がつい最近仲間になった狭霧とともに笑顔を浮かべながら一緒に歩いている姿を見て、

 

《そっか……。狭霧ちゃんもやっとこの鎮守府に来られたんですね。実際に会えないのが寂しいですけど嬉しいです》

《綾波さん……》

 

榛名はそれで綾波にどういって声をかければいいか分からなかった。

榛名は意識すればみんなに姿を見せられるけど四人はもう榛名という特例を除いて誰にも声をかけられないのだ。

それがどれだけ悔しい事か計り知れないだろう。

 

《あ、すみません。ついしんみりしてしまいました》

《いや、綾波は悪くないわよ。イムヤ達はまたみんなに会えるだけで幸せなんだから》

《そうです! まるゆもそう思わないと悲しくなっちゃいます!》

 

イムヤとまるゆが綾波を慰めている時に、今の綾波と狭霧が提督のもとへと歩いてきた。

それでつい身構えてしまう幽霊の方の綾波。

 

「司令官! 天霧ちゃんも仲間になるっていうんですから必ず助けましょうね!」

「お願いします! 提督! 天霧ちゃんも助けてくださいね!」

「そうだな。きっと……助けような」

 

それで綾波と狭霧に優しい笑顔を向ける提督。

そんな姿を見て、

 

《司令官……今でも頑張ってくれているんですね。嬉しいです》

 

綾波がそう言っている時に、

 

「ところで司令官……? なにか肩が重くなっていませんか?」

「またどうして……?」

「いえ、なにか榛名さんとは別に誰かが提督の肩にいるようなそんな感じがするんです」

「そ、そうか……もしかしたら今日はお盆だから沈めてしまった彼女達がいるのかもしれないな」

「そうなのでしょうか? でも懐かしい感じがしますからきっと悪いようにはならないと思います。きっと司令官の事を守ってくれているんだと思います」

「そうだと、いいな……。私は彼女達に恨まれても仕方ない事をしてしまったんだからこれくらいの重みは我慢しないとな……」

 

そう言って提督は少し儚い笑みを浮かべる。

 

《そんなことないです!》

 

綾波は叫んでいた。

決して恨んではいないと……!

またこうして会えて嬉しいと!

そんな気持ちがつい爆発してしまっていたが、それでも提督には聞こえない事がこんなに辛い事だなんて……ッ!

そんな涙を流している綾波の肩に木曾が手を置き、

 

《無理をするな綾波。俺達はこうして現れているだけでも奇跡みたいなもんだからな》

《そうよ》

《はい……》

 

四人はそれで少し落ち込み気味に声のトーンを落とす。

そんな四人の姿を見かねて榛名はある事を提案した。

 

《でしたら皆さんの声を提督に伝えますね。きっと、届くはずです》

 

それで榛名は透明な姿で提督の前に現れて、

 

《提督……》

「ん? どうした榛名……?」

《はい。沈んでしまった彼女達の声を提督に届けたいと思いまして……》

「え?」

 

提督と綾波達はハテナ顔をするけど榛名は構わず続ける。

 

《まずまるゆさんからです。『隊長、まるゆは隊長の事を恨んでいません!』》

「ま、待ってくれ榛名……? みんながいるのか……?」

《はい。ですから伝えますね》

「私もいるんですか……?」

《綾波さんもいますよ。伝えます。『綾波は決して司令官の事を恨んでいません。むしろまた司令官に会えてうれしいです』って言っています》

「「「………」」」

 

それで三人は無言で榛名の言葉を聞いていた。

提督の目尻には涙がうっすらと浮かんでいた。

 

《イムヤさんからです。『司令官? イムヤ達を沈めてしまった事を今でも覚えていて苦しんでいるなら気にしないでとは言わないけどあまり背負い込まないでね……?』って言っています》

「イムヤ……」

《最後に木曾さんからです。『おい、提督。俺は沈んだことは悔やんではいるけどお前の事を恨んじゃいないさ。だから代わりにこれからも誰かを沈めるのだけはやめてくれよ? こっちにいるのは俺達だけでいいからさ』って言っています》

 

四人の言葉を言い終えたのだろう榛名はすっきりとした表情をして、

 

《お盆の間だけは木曾さん達はいるそうですから、ですから提督も話しかけてあげてくださいね?》

「ああ、ああ……必ず」

 

それでもう提督は涙を流し続けていた。

そんな提督の背中を綾波と狭霧が宥めてあげていた。

彼女達も提督ほどではないけど涙を浮かべているのだから感情移入できたのだろう。

こんな奇跡の再会にただただ榛名も嬉しい限りだった。

 

そして四人は笑みを浮かべながらも提督の後ろで榛名に「ありがとう」という言葉を贈っていた。

 

 

 




イベントとは関係ありませんけど今日はお盆ですからこんな話を書いてみました。
実際こんなだったら嬉しいですね。



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