「さんびゃく……ご!」
残党狩りは実に一週間に及んだ。事前に仕入れた情報が正しければ305人いるはずなのでこれで終わりだ。報告を兼ねてロッジへ行こう
「皆さんお疲れ様でした」
ハーブティーを飲みながら談話する。こういう時間、嫌いじゃないよ
「てかアニスもさ、あんな強いアビリティ持ってんだったら協力してくれても良かったのに」
「ごめんなさい、それは出来ないわ」
「何故?」
「貴方達エージェントを含む、アビリティの使用を許可された人以外が保護観察者の許可なくアビリティを使うことは、本来法律で固く禁じられていることなの。私もホントは罰せられるはずだったんだけど、森の保護って大義名分のおかげでお咎めなしっ!」
バチコン★って効果音が聞こえてきそうなウインクね
「なるほど……ねぇアニス、ひとつ聞いていいかな」
「なぁに、カンナ?」
「貴女は幻獣イフリートと人間のハーフって本当なの?」
ずっと引っかかっていた
「それも"キャサリン"の支配下にイフリートはいる」
いろんなゲームで炎の化け物として扱われるイフリート。このゲームでもそうだとしたら
「ねぇアニス、貴女は"何者"?」
アニスが味方なのか、もう分からなくなっていた
「――全部話すわ。でも一度しか言わない。ちゃんと聞いてね」
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今から21年前、ホスレノールっていう山間の村に大災害が起きた。その村は活火山の途中に立地した村だったから、山の地表が薄くなっていたところからマグマが流れ出て村に流れてきた、といったところかな。
人々はそれを古くから伝わる"幻獣"の怒りだと信じ疑わなかった。よくあることよね、言い伝えは本当だったってやつ。ホスレノール村もそうだった。
――"操炎の幻獣"イフリートが現れたの
イフリートは言った。『我が力を継承する人間が欲しい。その人間を授かる器を寄越せ』と。
簡単に言い換えれば自分に見合う嫁を寄越せってことね
そこで、リジア・スタリアムと名乗る村一番の美女が標的になった。リジアには当時存在が認知されたばかりの『アビリティ』を有していたから、余計にね
うん、リジア・スタリアムは私の後のお母さんよ
イフリートはリジアを大層気に入って彼女を連れ去り村に平和が訪れた
一方のリジア。連れ去られた翌年、イフリートとの間に赤子を授かるの。それが私――と言いたいところだけど違うわ。男の子だったのだけれど、完全に普通の人間だった上に虚弱体質で、生後数ヶ月で命を落としたの
そして亡き兄を産んだ翌年に産まれた第二子が私。産声をあげた時にトウシキミの実…スターアニスに似た炎を吐いたことから、アニスフレアの名前を付けた。
言ってしまうわ。私の本名はアニスフレア・スタリアム。手から生成されるマグマを炎に変換する、"操炎"の力を幻獣から受け継ぐ者
アニス・リアルローズはアダラートの森に来てからの名前よ
……本題に戻るわね。私の生誕は両親の明暗を分けた。イフリートはツノと炎の産声に狂喜乱舞し、リジアは自分が人外を産んでしまったその事実で自分に絶望した。
父は人間の姿を模倣し、母と私を連れてオイラックス村に移住。その五年後、段々イフリートに似ていく私をリジアは教会に捨て、自殺した。イフリートが私を捨てたことに立腹して殺した説も否めないわ
不思議なことに、教会では私を疑う人はいなかったわ。何なら天使だと言ってくれる人もいたわ
そして"キャサリン"襲来の日、私は14歳の誕生日。今まで育ててくれたシスターは今までのことを全て私に話し、私をアダラートの森へ送り届け、私の目の前で殺された。
私の父 "操炎の幻獣"イフリートにね
このロッジの裏に小さなお墓があるでしょ?それはそのシスターのお墓なの
……私は父を恨まなかった。なぜならその時既に"キャサリン"に操られていると気付いてしまったから
その後、私はアビリティを所有している事を偶然知った。『ビート・ビート・ビート』よ。炎と一切関係ないこの能力。私は両親のことを一度忘れ、操炎の能力を封印した
アニスフレア・スタリアムはこの時死んだの
アニス・リアルローズ。森を護る精霊の誕生を祝福するようにね
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「"操炎の半幻獣"アニスフレア・スタリアム。それが私の正体。ご清聴ありがとう、お話は終わりよ」
誰も、開口できなかった。私たちにはアニスの境遇を慮ることすら出来ない
でも、だからこそ言えることがある。それを言ったのは阿修羅。私も、きっとらぶしぃも同意見
「……俺たちにアニスの話に感想を言うことはできないけど、これだけは信じてくれ。少なくともここにいる三人は『アニス・リアルローズ』のことが大好きだ。俺たちに出来ることなら何でもするさ」
「だから頼む。俺らハウンドキャットを頼ってくれよな――仲間だろ、俺達」
「……うん!」
アニスのことを知った今、彼女を放っておけないからね。私達にはアニスを護る責任がある。椎那を取り戻すのと並べるのはアレな気がするけど、それ位大切なことだ
強い絆が結ばれたから、後に私は後悔するのだけれど、それはまた別のお話ってことで。
To be continued...