オイラックス村を回って早五日。何一つそれらしき有益な情報は得られなかった。それどころか他のプレイヤーすら出会わなかったのだけれど、βテストってこんなに過疎ってるものなの?
「あーいたいた!探したよー!あたし以外のプレイヤー!」
「ん?」
黄緑のツーサイドアップをしたハツラツ系の女の子。私たちを見つけるや否や、笑顔でこちらへ走ってくる
「あたし、らぶしぃ!よろしくねカンナ、阿修羅!」
「うん、よろしくー」
思わずよろしくって言っちゃったけど、え、なに、らぶしぃさんとスリーマンセル組むことになっちゃったのか?
「それより見て見て、これ!」
ポケットから取り出したのはどこで拾ったのかわからないガラスの破片。らぶしぃはそれを何の躊躇もなく手首にあてがった
「こうやってリストカットするとね、ほら、こんな風にぷくーってリアルな血の出方するんだ!」
「へぇ、すごいな」
「阿修羅、危ない!グロウ・ブースト!!」
アビリティの力でらぶしぃの腕をのぞき込んでいた阿修羅こと俊一を引き離す
小さな声で『ダーティ・コールド』と言っていたのを私は聞き逃さなかった。
「……邪魔しないでよ、カンナ。咲口神菜!」
傷口から氷の花が咲いていた。恐らくそういうアビリティなのだろう。それより何故彼女は私の本名を知ってるんだ?
「らぶしぃとか言ったね。あなたは何者なの?」
「奥知美麻。アンタと同じ師恩高校の生徒会書記」
心当たり……どころの話じゃあない。私は以前彼女と殴り合いの喧嘩になって、奥知さんに勝ったことがある。さっきの奇襲はそれを根に持ってのことだと思う
「バトルよ、カンナ。」
「待てよ、何も戦うことはねーだろ」
「阿修羅、下がって。どうせチームアップするなら実力は知っておいたほうがいい」
「足手纏いって言いたいわけ?」
「そんなこと言ってない……!!」
腕の氷がなくなってる。ということは、『次』がある
「阿修羅、作戦。血が飛んできたらあんたのアビリティで地面伝いで血を止めて。その隙にぶん殴る」
「了解」
俊一……じゃない、阿修羅のアビリティは触れたものに南京錠を付け時間を止める『ザ・ロック』だ。地面ごと時間停止させれば血が凍ることはないだろう
「敵前に作戦会議って…余裕ね!」
予想通り血が飛んできた
「阿修羅!」
「遅せぇよ!ダーティ・コールド!」
「なっ!?」
空中で血が氷に変形し、私めがけて飛んでくる。グロウ・ブーストを発動させ避けようとしたけど間に合わない!
「っち」
何発か掠った。痛いじゃないかこの野郎……ってか痛みもフィードバックするのね
「ねぇカンナ。いつ私が『なにかに付着しなきゃ凍らない』なんて言った?」
言われてみれば確かに
「ダーティ……コールドォォオオ!!」
飛来する血と氷を避けるので精一杯で近付けやしない。グロウ・ブーストの効果もそんなに残ってないし、挙句の果てに背中に民家、左は崖、右にはダーティ・コールドの氷柱…困ったな
「追い込んだよ?」
「追い込まれたのはお前だよ」
「いつの間に……」
「ジャマーのクラススキル、スニーキングさ」
音もなくらぶしぃの背後にいた阿修羅。肩を叩き宣告
「ザ・ロック。あとは頼んだぜ、カンナ」
グロウ・ブーストの残り時間を全部使い切るくらい強く拳を握る。必殺技っぽく、この一撃に名前をつけよう
「ブーストカノン!」
廃屋の壁に、らぶしぃが埋まった
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「なるほど、妹さんがねー」
回復アイテムのお陰で擦り傷一つ残ってないらぶしぃこと奥知美麻。彼女には事実を伝えてもいいだろう
「一応あたし生徒会役員だし、顔は広いからさ。こっちはこっちで探してみるよ」
心強い援軍ってレベルじゃない
「お、アンタらハウンドキャットのエージェントか?」
「え?あ、はい」
やっぱこんな片田舎だと黒スーツは目立ってしゃーないよね
「それならアダラートの森へ向かうとええぞ」
「アダラートの森?」
曰く、この辺で最も格式高い森。精霊が住んでいて、その精霊に会えると幸福が待っているらしい
初めての具体的な目的地ということで、阿修羅もらぶしぃも反対しなかった
「そんじゃ、精霊さんに会いに行くか!」
「おー。ってなんで阿修羅が仕切るのさ」
To be continued...