問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
GE3が予想以上に楽しくて困る
では、どうぞ。
翔ける 駈ける 駆ける
足を前に、水を掻く。ただ前へ、ひたすら前へと血眼になって。海樹の森の小さな隙間を走り、潜り、想定されていない道なき道を無茶苦茶に突き進む。それは、蛟劉の恩恵を直に受けていた時の走りと謙遜なく、直線で叶うものはまずい無いと確信出来るものだ。
このまま進めば台に上がる事は叶わないとしても、それなりの順位にまで上がる事は可能だろう。
しかし、樹海には精霊や妖精が住み、見過ごす者もいれば、悪戯好きもいる。そして、その魂を引き摺りだそうとする者も。ゲームのルートがある程度設定されているのも比較的精霊や妖精が通らない、集まりにくい場所を参加者に通らせる為である。
幾度となくその皮膚を裂いていく枝、手綱を引っ張ろうとする小さな手を振り払う。吐き出される息は白くなり、視界もボヤける。妙に寒いのは何故だろう……と、原因が分からない義仁は自身の身体が少しやつれている事には気付くことは出来ない。今はただ落ちないように手綱を握り締めることしか出来ない。
体にぶつかる風が冷たい。裂けた皮膚の下から血が流れる。唇は紫色に変色し、握り締めた拳はむしろ開く事が出来ない。体の芯を握られたかのような寒気。着実に義仁の体力は奪われている。
もう、乗っているのもやっとな状態。誰かが助けに入らねば後遺症が残っても可笑しくない。最悪死も有りうる。
ヒッポカンプはこのまま走り続けてもいいのだろうかと、後ろの小さくなり続ける生気に焦りを感じ始めた。動物故に、その本能が危険信号を出し続ける。だが、戻るにしてもそれなりの距離はある。進む方が安全な所まで進める可能性もあるのだ。
グルグルと、決まらない会議が頭を巡る。そして、パタリと背中の重みが強まった。背を確認しなくても分かる。背に跨る男の体力が限界に近いのだ。
ゆっくりとヒッポカンプの足が遅くなる。昂る気持ちのまま、調子に乗り危険な道を進んだ故の帰結。知識を持つ獣故に、焦りが募る。助けを呼ばなければ、だが、どうやって、そんなことより進む、いや戻って―――
「…………だい、じょうぶ……だから」
首筋にあたる冷たい空気。義仁の腕はヒッポカンプの首に回され、無理に開かれた指の関節はパックリと割れ血が流れている。
―――自分の失態は自分が払拭する。ドンッと、足を踏み出す。木と木の間を駆け巡り、目指すは上。
木の頂上に辿り着いたと同時に、木の一本を全力で蹴り跳躍。衝撃で海樹がへし折れたが、そんなこと気にしていられる余裕なぞない。
着地する為に体勢を空中で整え、滝を降りた時とは違い優雅に降りた。
これで、魂を引き摺りだそうとする者はいなくなった。後はゴールにあるであろう医務室に駆け込む。
あと少しの辛抱だと、駆け出そうとする二人の前には、今まさに争い続ける三人の影があった。
お読みいただきありがとうございます。
ヒッポカンプが主人公しすぎて困る
喋らない馬の主人公ってどうよ?
では、また次回~