問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
殺伐とか血みどろないと何処となーく書くことがないような気がしてきてならない。
では、どうぞ。
蛟劉が義仁の後ろに跨り義仁ごと抱える形で手綱を取る。義仁はほっと肩の力を抜き手綱を軽く握った。慣れない事をすれば緊張するもので、関節からパキパキと小気味の良い音が鳴る。
一通り関節を鳴らした後蛟劉が声を掛けた。
「ほな行くで」
ピッポグリフの水をかく音が徐々に大きくなり、頬に当たる風も強く、冷たくなって行く。体感で3分を過ぎようとしていた頃、樹海がバッと開けた。
十数キロ先に見える巨大な山。その山頂付近は平になっており、何方向かに向かって滝が形成され川になっている。現在義仁達が進んでいる川もそのひとつのようだ。
「ここからじゃ見えんけど、あそこの頂上の中央付近に木があるんよ。割と低い位置にもなっとるからそれを取って帰ればゲームクリアやで」
なんだかんだで数十キロ走らなければならなく、滝のぼりに木登りとハードな内容。それを、助力に頼りきりとはいえ自ら進んでいると思うとなんだか不思議な気分になる。いや、不思議な気分になっているのはそれが原因では無いのかもしれない。
「にしても、結構残ってるもんね」
「ですね。てっきり折り返しているものかと。にしても、なんで皆岸辺から動かないのかな」
そう。前を走っていた筈の参加者達が岸辺にピッポカンプを寄せて動かないのだ。
「仮面の子と、義仁はんのお仲間かおらんね」
蛟劉の言葉に義仁も辺りを見渡すが、確かにそれらしき姿は見られない。で、あればどこに居るのだろか。彼らに限って途中敗退はそうないだろうし……。と、悩んでいると蛟劉がその悩みをポンっと解決してみせた。
「なーに、簡単なことや。あのお山の上で戦っとるんやろ。んで、被害が及ばないここまで逃げてきた……ってところやろ」
ああ、たしかに。彼等なら間違いなく周りへの被害は気にしない。同居人として注意すべきなのだろうが、黒ウサギさんがあれだけ言って変わらないのだから特に意味は無いのだろう。
それに、なんども助けられてるし……強くは言えないよね。
「うーん……ゲームやから問題は無いんやけど」
「乱入するんですか?」
「あの程度なら義仁はん守りながらでも余裕あるんやけど……。うん、乱入しよか。なんか白夜王に遊ばれてる気がするのが気に食わないよねえ」
「白夜叉さんですから。私がお邪魔する時なんか未来でも知ってるかのようにその日の仕事終わらせてるみたいですしね。もはや監視されてるとしか」
「うっわ、やってそう……」
さらっと白夜叉の事で小言を言い、さて、とと蛟劉が手綱。握り直す。
「さ、今度は全速力や! しっかりはーくいしばっとかんと舌噛むでー!」
「はい!」
義仁は手綱を握り直した。先程よりどれほど早いのだろうかと、少しの期待と共に。ヒッポカンプの蹄が水を蹴る。
瞬間、背中が蛟劉に叩きつけられる。風が強すぎて体は動かず、動く視線は光景を正しく捉えられていなかった。感覚的には新幹線。いや、それよりも早いかもしれない。そこは詳しくわからないが、新幹線の外に飛び出したらきっと同じ気持ちを味わえるのだろうと強い確信を持てた。
目の前に迫る滝。滝の飛沫が鼻先に当たったと同時に強い浮遊感。手を伸ばせば雲が掴めるのではないかとさえ幻視する高さ。箱庭に呼び出された時と同じ景色が広がり、隣に聳え立つは水の壁。どれだけの勢いで跳べばこんな事になるのだろうか?
「加速するでぇぇ!!!」
壁が収束し、落下を後押しするジェットエンジンが如く。みるみる近付く水面。耳につんざく悲鳴が如き風切り音。箱庭に呼び出された時と同じ景色も相まってか、義仁の恐怖は有頂天。
「いやぁぁぁぁぁァァァァァアアア!!!?!???!?!!!」
瞳から零れた涙は、着地と共に起きた水飛沫と混ざり合い、彼の悲鳴は津波と共にかき消された。
お読みいただきありがとうございます。
これはぁ、蛟劉さんリリさんからの説教ルートですねぇ(確信)
では、また次回〜