問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
卒検が迫ってなかなか手をつけられない。
では、どうぞ。
日が暮れ空にはチラホラと星が見え始めた頃に義仁の部屋で合流し、話を聞いた黒ウサギは案の定耳を逆立てて怒っていた。突然の展開に嵐のような説教と質問が飛び交う。
「な、なんであの短時間に〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーの内で戦うなんて!!」「準備している時間もお金もありません!!」「一体どういう心算があってのことです!!」「聞いているのですか三人とも!!」
「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」
「ご、ごめんなさい」
「お二人方は黙らっしゃい!!ジン坊ちゃんは今後このような事になりそうでしたら止めに入るかゲームのルールを有利になるように務めてください。これでは仲間を死地に丸腰で送り出しているに過ぎませんよ」
飛鳥と春日部は、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。
それをニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。
「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩を、、、わけじゃないんだから許してやれよ。それに怪我人のいる部屋で急に大声を出す黒ウサギも大概だと思うが?」
「あ、す、すいません……配慮が足りていませんでした」
さっきまで逆だっていたうさぎ耳はしょんぼりとしおれた。
「いえ、気にしないでください。それと、遅れましたが助けていただきありがとうございます。さ、私は大丈夫ですので、話を進めてください。その様子だと時間が無いのですよね?」
「すいません。碌なおもてなしも出来ず……こちらの話が終わりましたらキチンと事情を説明いたしますので」
「はい。その時はお願いします」
黒ウサギはもう一度義仁に謝罪をしたのち、飛鳥たちへと向き直った。そして大きなため息が部屋に響いた。
「はあ〜……。 このゲームで得られるものと言えば……自己満足だけですか」
黒ウサギが見ている〝
「〝
ちなみに飛鳥達のチップ〝罪を黙認する〟というものだ。それは今回に限ったことではなく、これいこうもずっと口を閉ざし続けるという意味である。
「でも時間さえかければ、彼の罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その、」
黒ウサギが言い淀む。彼女も〝フォレス・ガロ〟の悪評は聞いていたがそこまで酷い状態になっているとは思わなかったのだろう。
「そう。人質は既にこの世にはいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出てくるでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間はかけたくないの」
箱庭の法はあくまで箱庭都市内でのみ有効なものだ。外は無法地帯になっており、様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールの下で生活している。
そこに逃げ込まれては、箱庭の法で裁くことはもう不可能だろう。しかし〝契約書類〟による強制執行ならばどれだけ逃げようとも、強力な〝契約〟でガルドを追い詰められる。
「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりもあの外道が私の活動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃せば、いつかまた狙いに来るに決まっているもの」
「ま、まあ……逃せば厄介かもしれませんけれど」
「僕としてもガルドを逃がしたくないって思ってる。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」
珍しく強気なジンの同調もあり、黒ウサギは諦めたように頷いた。
「はぁ〜……。仕方がない人たちです。まあいいデス。〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いればいれば楽勝でしょう」
それは黒ウサギの正当な評価のつもりだった。しかし十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、
「黒ウサギにゃ悪いが、俺は参加しねぇぞ?」
「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」
興味なさそうに言い放つ十六夜と、フン、と鼻を鳴らす飛鳥。黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。
「だ、駄目ですよ!! 御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そういう事じゃねえんだよ、黒ウサギ」
十六夜が真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。
「いいか? この喧嘩は、コイツらが
「あら、分かってるじゃない」
「そしてぶっちゃけると黒ウサギが俺一人で充分って言った瞬間に興味が失せた」
「……。ああもう、好きにしてください」
たった一日の間に色んなことがあり過ぎて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。
どうせ失うものは無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。
※
黒ウサギは、急げばまだ間に合うかもしれません。と十六夜達を連れ部屋を出ていった。一体何に間に合うのかは分からないが、少なくとも分かることは初対面の少年と二人きりになってしまった。ということか。
ジンはジンで初対面の大人の男性にどう接するべきか悩んでいた。だがジンが義仁に何かを言う前に義仁からジンに話かけた。
「君がここの、主人……なのかい?」
「あ、は、はい!! 〝ノーネーム〟のリーダーをさせて頂いております。ジン=ラッセルですよろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私は木島義仁。よろしくね。ジン君……でいいのかな?」
「は、はい。大丈夫です木島さん」
まだ堅苦しところはあるものの、緊張も少しずつ解けているように見える。
しかしそれでも二人の間が気まずいのには変わらない。ジンは義仁がここまで来た経緯を話すべきなのか、自分がそれを上手く説明できるかを考えた結果、何も話さないよりはマシだろうと考え話すことにした。
「あの、木島さんはここに来た経緯、箱庭については何処まで把握していますか?」
「ここに来た経緯? 気が付いたら空にいて、溺れた。それをあの四人に助けられたみたいだね。間違えて召喚されたってリリちゃんから聞いたよ。箱庭については箱庭って名前と人間じゃない獣人って言うんだっけ?が生活していること。後はギフトゲームの存在と、そのギフトゲームとやらで私は賭けられるような物を所持していない。後はリリちゃんからこのノーネームの現状について軽く教えてもらってるよ」
ジンは義仁の言葉を反芻させ、他に何を話さなければいけないかを考える。一分ほど考えた後ジンは口を開く。
「義仁さんが召喚された状況については僕も黒ウサギから詳しく聞かされていないのでそれ以上のことは分かりません。ごめんなさい。箱庭についての見方は大体はその通りです。人間とは違う種、神や幻獣、獣人など沢山の種族がいる分、人間と違う文化も勿論あります。なので人間での常識が通じない場合もあるので気を付けて下さい。それと、ギフトゲームでのやり取りもありますが、勿論法も存在しています。店頭から何かを盗んだり、殺人等をした場合箱庭の法の下に裁かれるのでそう言った事はしないようにして下さいね」
その後も箱庭についてやノーネームについての細々とした説明をしたジン。そしてジンは義仁に最後の質問をする。
「これで説明は終わりです。それと、最後に一つお聞きしたいのですが……義仁さんは元の世界に戻りたいですか? もし戻りたいのであれば時間は掛かるとは思いますが何とかしてみようとは思いますが」
帰りたいのか。その質問に対する回答は既に決まっていた。とは言えジンは義仁の過去もリリとのやり取りを知らないため、どんな事にも動じない心の強い人なんだ。とちよっとした勘違いが生じてしまっているが問題は無いだろう。
「いや、いいよ。私はここでやり直すことにしたんだ。君たちに迷惑は掛けないよう何とか頑張ってみるさ」
「つ、強いんですね義仁さんは。あの、よろしかったら、僕達のコミュニティに来ませんか?」
「その提案は嬉しいのだけど、いいのかい? 私には特別な力のようなものはないよ? それにこのコミュニティは随分追い詰められてるって」
「大丈夫です!! むしろ義仁さんのような大人の方が一人はいた方が良いと思うんです。だから、僕達のコミュニティに入ってくれませんか?」
「それじゃあご好意に甘えて、これからよろしくお願いします。ジン君。出来る限り役に立てるように頑張ってるよ」
義仁はジンに手を差し伸べる。それをジンは力強く握り返してきた。
こうして、 誰かの手を握ったのは何時ぶりだろうか。いや、仕事上握ってはいたのだろうが覚えていない。
少しでも、この恩を返さないとな。
今の自分には何が出来るだろうか?
まずは箱庭についての知識をより詳しいものにしなくちゃな。
なんにせよ、この世界にこれて良かった。今は、そう思えている。
お読みいただきありがとうございます。
これからおっさんの活躍(?)の場が増えていく!!
いやー長っかったですね。話数的にはそこまでではないですが約2ヶ月でようやくガルド=ガスパー。原作100ページ行ってるか行ってないかですが、ここからテンポが良くなる!! はず!!
誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたらよろしくお願いします。
では、また次回〜