問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

やっとここまで来た感がすごい。

では、どうぞ。


第69話 哄笑

 深夜を回る頃には地下都市も静まり返り、静寂が包み込んでいる。

 川辺の清涼な風が大樹の歯を揺らし、ザァッと吹き抜けていく。篝火が消され、三日月から零れる星光が水面で揺れていた。

 大樹の天辺に二人、盃を交わす二つの影。

 隻眼に眼帯を付けるという、いとも奇妙な二人。蛟魔王・蛟劉と、木島義仁。二人は静まり返った水の都を見下ろした。

 

「いやあ……昔話を語って聞かせたのは、さて。何年ぶりになるんかな」

「私は蛟劉さんが西遊記に出てきてた方とは思いもしませんでしたけどね」

 

 驚いた? そりゃあもう。いい歳こいた大人が子供のようにケラケラと。

 

「ま、やり過ぎた結果、色々あって魔王の烙印を押されたりしたわけやけど」

「若気の至り……と」

「先読みせんといてーな」

 

 蛟劉の手にある盃にら紅塗に交錯する二匹の蛇が描かれている。かっこええやろ? と、蛟劉はニッと笑ってみせた。

 箱庭の常識に未だ疎い義仁でも、それが蛟劉の持つ……持っていたであろう旗印だと言うことは察しがつく。ユラユラと紅塗の杯を揺らし、酒の水面に写った月を乱し何処か懐かしそうに顔を綻ばせる蛟劉。

 

 紗蘭――――と怜悧な鈴の音に、心底意外そうな顔を浮かべる。

 

「…………なんや。随分と懐かしいお方の登場やね」

「うむ。おんしと会うのは本当に久しいな、蛟劉。この何世紀かで私の気配も読めんほどに気が弱まったのか?」

「さて…………悟空姐さんが仏門に帰依すると決めた、その時以来ちゃいます? あと、今は息抜き中なんで完全に油断しといただけですー。なー義仁はん」

「私に振られても……気配なんて分かりませんよ私」

 

 隻眼でにんまりと笑う蛟劉。

 白夜叉は夜風で靡く銀髪を押さえながら苦笑した。

 

「それは悪い事をしたな。箱庭で楽しむのは最優先事項。色々と変な噂を耳にしたが……その心配も杞憂にすぎんかったようじゃの」

「噂は所詮噂。無理やり消せんこともないけど、面倒くさくてなあ。オッサン同士で酒飲めれば文句はないんよ。あ、そうそう。長兄から頼まれとったんやったわ。ほらこれ」

「牛魔王から?」

「〝階層支配者〟襲撃事件の事で伝えたいことがあると」

 

 白夜叉は表情を強張らせ、蛟劉の隣に座った。話を聞かせろ。そういう事らしい。

 なお、いつものように義仁は早々に空気に徹している。下手に会話に参加しても邪魔になるだけだと理解しているためだ。

 

「……なんの情報だ?」

「北を襲った魔王と、主犯格らしい連中。詳しいことはここに書いてあるそうで」

 

 そう言って懐から一枚の封書を取り出す。

 確かに牛魔王〝平天大聖〟封蝋を押された封書を渡すと、蛟劉は背筋を伸ばした。

 

「いやあ、これで長兄の御遣いもおわりや。これで心置き無く義仁はんとデートができるってもんよ」

「デートですか……いやまあいいですけど」

「なんや? 僕とはデートしてくれへんのー? ウサギさんとはしとったくせに……」

 

 白夜叉は気持ち悪い男二人の絡みを微妙な笑みを浮かべ観察する。蛟劉がこの手紙の重要性を分かっていないはずも無く、ここに来るまでに魔王の襲撃も十二分に有り得たのだ。

 牛魔王も、その可能性を考え、実力共に信頼出来る蛟劉へとこの封書を託したのだろうが……。

 

「あ、そうだそうだ白夜王。僕も今度のレースに参加するわ。義仁はんのサポートとして」

「レース……〝ヒッポカンプの騎手〟の事か?」

「そそ。ルールが変わるんやろ? 個人種目からチーム戦に。サラちゃんから〝契約書類〟を……とと、あったあった」

 

『ギフトゲーム ― ヒッポカンプの騎手 ―

  ・参加資格

  一、水上を駆けることが出来る幻獣と騎手

  二、騎手・騎馬を川辺からサポートする者を三人まで選出可

  三、本部で海馬を貸入れする場合、コミュニティの女性は水着必着

  ・禁止事項

  一、騎馬へ危害を加える行為を全て禁止。

  二、水中に落ちた者は落馬扱いで失格とする。

  ・勝利条件

  一、〝アンダーウッド〟から激流を遡り、海樹の果実を収穫。

  二、最速で駆け抜けた者が優勝。

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。

  〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟 印』

 

「うん、チーム戦になっとるな。まー、流石に僕が出たらゲームが壊れるからな、義仁はんと一緒にゆっくりとゴールを目指しますわ」

「ふむ、義仁は承知しているのか?」

「私ですか? むしろ、私から持ちかけたと言いますか……たまには、私もと言いますか」

「承知しているのならば良い。それに元々蛟劉にはこのゲームに参加させるつもりだったしの」

「え? なんでなん? 言っちゃあ悪いが、僕が出たら本当にゲームが壊れるで?」

「いやなに、焚き付けるために斉天大聖に合わせることも考えたが……それも必要ないじゃろ」

「え? 待って待って。……え?なんの話?」

 

 蛟劉は珍しく慌てた様子。

 

「なに気にするでない。ただ、そうじゃな……このゲームでおんしのその消え去った覇気が戻るじゃろうよ、と宣言でもしとこうか。

 さ、義仁も待たせたの。黒ウサギとのデートの話をこってりと聞かせてもらおうか」

「そんな面白い話でもないですよ?」

 

 しかし、慌てた蛟劉を他所に白夜叉は義仁の隣へと座り直す。後ろでぎゃーぎゃー騒ぐ蛟劉。なんとも、かの七代幼王が一人蛟魔王とは到底思えない。白夜叉はいいんですか? と苦笑いを浮かべる義仁に、いいんじゃよ。愉快で楽しいだろう? と笑ってみせる。 少し間を開け、半泣きになり義仁に擦り寄ってくる蛟劉を見て、確かに面白いものではあるなと、不謹慎ながらも思ってしまうのは致し方ないことだろう。

 

 そんな二人を見てか、誰かから分からず笑いだし酒を交わす。愉快で小さな宴は過去の因縁も何もかも拭いさり、高らかな哄笑は月明かりに消えていくのだった。




お読みいただきありがとうございます。

ようやく次回からヒッポカンプレースに入れます。
うん、多分入る。はいるはいる……

では、また次回〜

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