問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

先週は投稿出来ず申し訳ない……
熱中症に久々に掛かったけど、やっぱキツいですわあれ

では、どうぞ。


第66話 煽り

 あの後、黒ウサギと十六夜と別れた義仁と蛟劉。そんな2人は『焼けた肉を食べる為の肉料理』〝斬る!〟〝焼く!〟〝齧る!〟の三工程で食べる〝六本傷〟の名物料理を食べに向かっていた。

 

「おっさん2人で若者向けの飯屋に行くってのも、なんか楽しいもんやね」

「まだ着いてすらないですけどね」

「そう固いこと言わんといてーな。ええやん、少しくらいワクワクしても」

 

 頬を膨らまし怒ってみせる蛟劉。その姿は年相応の威厳あるようなものではなく、実に子供らしい……まさに童心に帰っている姿だった。

 

 程なくし〝六本傷〟主催の立食会場へ。立食会場では何かのイベントが行われているのか、中央部には大きな人集りが出来ている。

 

「なんや集まっとるな」

「ですねぇ、賑やかでいいじゃないですか」

「それもそうやな。静かな食事より賑やかな食事。僕らはイベントも楽しみ食事も楽しめる。一石二鳥ってやつやな!」

 

 雄叫びや歓声が行き交う中央部を避け、端の席を陣取る。新しく入ってきた客になんの反応もないが、イベントが盛り上がっているようだし仕方ないと2人は笑いあった。

 

 食事も本来は持ってきて貰う筈なのだが、テーブルの上に置かれた大皿には『現在テーブルまでお届けすることが出来ません』と、書かれた札が立て掛けられている。

 2人は各々が食べたいものを皿に移しテーブルへと戻った。その間にもイベントは激励を極め全面戦争等と聞こえ始めた。

 

 義仁達も料理に舌づつみを打ち、参加するゲームについての話や、義仁の行っている研究。なんてことは無い雑談を繰り返していた。

 

 イベントの熱は収まらず、義仁達の口も止まらない中でふと、冷めた声が聞こえた。

 

「……フン。何だ、この馬鹿騒ぎは。〝名無し〟の屑が、意地汚く食事しているだけではないか」

 

 ここに来て漸く義仁はイベントの中心に居る人間が自身が身を置くコミュニティの同士だと気付く。少し広がり隙間が出来た人混みからは春日部の姿が確認できた。

 

「連中はアレですよ。巨龍を倒してもてはやされている猿の一人です」

「ああ、例の小僧のコミュニティか。……なるほど。普段から残飯を漁っていそうな、貧相な身形だ。碌に食事も与えられていないのだろう」

「〝名無し〟である以上、一時の栄光ですからな。収穫祭が終わるころには皆、奴らの事など忘れております」

「違いない。数日後にはまたゴミに塗れた残飯生活に逆戻りです」

「ああ。所詮、屑は屑如何なる功績を積み上げても〝名無し〟の旗に降り注ぐ栄光などありはしないのだから―――」

「―――そんなことはありませんッ!!!」

 

 ああ、あの中には君もいたのか。と、義仁はぼんやりと思う。こう言った事は見に任せ流しすのが1番。そうすれぼ勝手に自滅してくれるのだから。しかし、リリちゃんにはまだ早かったか。

 

 〝ノーネーム〟を蔑んだ男は、有翼人の類なのだろうか。人の姿に鷲と思われる翼を生やしている。細身ながらも鍛え抜かれた体躯を持ち、鬣のような髪と猛禽類のような瞳を持つ凶暴そうな男は、鋭い眼光でリリを睨みつけた。

 

「……なんだ、この狐の娘は」

「私は〝ノーネーム〟の同士です! 貴方の侮蔑の言葉、確かにこの耳で聞きました! 直ちに訂正と謝罪を申し入れます!」

 

 1本と言わず2歩3歩、男の目の前に立ち、見上げ、真っ赤に頬を染めながら、ひょコン! と狐耳を立てて怒るリリ。

 

「なるほど。君が誰かはよく分かった。……でも君は、この御方が誰かわかっていますか? この方は〝二翼〟の長にして幻獣・ヒッポグリフのグリフィス様ですよ?」

 

 取り巻きの男たちの言葉に、今度はリリがたじろいだ。

 

「ヒ、ヒッポグリフ……? でも、ヒッポグリフは鷲獅子と馬の姿を持った幻獣で、」

「阿呆か貴様。人化の術なんぞ珍しくとも無いだろうが。数が多い獣人共の都合で変化してやってるだけだ。……それよりも、先程の発言のツケ。どう払うつもりだ?」

「ど、どうも何もありません! 謝罪を求めているのは此方です!」

「ハッ、分を弁えろ。グリフィス様は次期〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の長になられる御方。南の〝階層守護者〟だぞ。〝ノーネーム〟なんぞに下げる頭は無いわッ!」

「……待って。それ、どういうこと?」

 

 観衆の視線が、一斉に動く。

 取り巻きに強く反応したのはリリではなく会場の中心にいた春日部耀だった。食事の手を止めた耀は訝しげな瞳でグリフィスを睨む。グリフィスは鬣のような髪を掻き揚げ、獰猛に笑った。

 

「何だ、あの女から聞かされてないのか? あの女は龍角を折ったことで霊格が縮小し、力を上手く使いこなすことが出来なくなったのだ。実力を見込まれて議長に推薦されたのだから、失えば退陣するのが道理だろう?」

「……それ、本当?」

「狡い嘘など吐かん。何なら本人にでも聞いてみるといい。龍種としての誇りを無くし、栄光の未来を手折った、愚かな女の子にな」

 

 クックッと喉で笑うグリフィス。取り巻きよりも品無く下卑た声で嘲笑った。彼の話す事実を知った観衆にも動揺が広がり、ちょっとした騒ぎになっている。

 腸が煮えくり返る……正しくその状態の義仁が立ち上がり怒鳴らなかったのは、蛟劉がまだだと優しく諭しているからだ。

 しかし、耀にはそんな余裕はない。無言で立ち、男たちへと近づいていく。鼻先3寸の距離まで迫った耀は普段の口調のまま淡々と、

 

「……訂正して」

「何?」

「サラは〝愚かな女〟なんかじゃない。彼女が龍角を折ったのは、〝アンダーウッド〟を守るためで……私の、友達を守るためだ」

 

 耀は淡々と謝罪を求める。声音の抑揚の無さは普段以上だろう。取り巻きの男たちはそれを鼻で笑い、グリフィスと耀の間に割って入る。

 

「おい小娘。いい加減に、」

 

 離れろ―――という言葉は、その場では響かなかった。

 響いてきたのは全く別の方向。立ち上がり声を出したと思われる男と、頭に手をやり抑えきれなかったと嘆く男の2人。片方は耀もよく知っている人物だった。

 

 立ち上がっていた方の男、義仁はゆっくりと歩き、耀の蹴りあげようとしている脚を降ろすよう促す。

 

「耀ちゃん。暴力はだめだよ。有無を言わさず僕達が悪くなるからね」

「……義仁さん……でも」

「でもも何も無い。こんな道徳心も持ち合わせていないような非常識な獣は無視するに限るよ。それにサラさんは降りられないし、高望みを続けるだけの獣なんだ。哀れな目で見てあげるのが正解じゃないかな?」

 

 そこまで言って、なるほどと何か合点が行ったかのように耀もリリも手を合わせた。耀は優しげな瞳で男達を見た後、その脚を下ろす。

 

「途中から出てきたと思えば、随分な物言いだな。あの女が降りられないとは……余程現実が理解出来ないらしい」

「獣が人の話を理解出来るなんて凄いですね! 立派立派」

「……あくまで愚弄する気か貴様」

「自分たちはあれだけ煽ってたのに……煽られる耐性はないとは、リリちゃんも耀ちゃんもあんな大人になっちゃだめだからね」

 

 観衆からのクスクスと小さく聞こえる笑い声。先程までの驕った顔はどこえやら。顔を真っ赤にしたのはグリフィス達だった。

 取り巻きが義仁の胸倉を掴み上げる。義仁は苦しげな声を出しながらもそれを受け入れた。

 

「話で解決出来ないからって……暴力に走る、それを止めようともしない。やっぱり獣……いや、獣以下かな?」

「貴様……いい加減その口を塞いだらどうだ」

「脅ししか出来ないんですか?」

 

 取り巻きの拳が義仁の腹に刺さる。容赦のない一撃に、体から嫌な音が聞こえた。しかし、取り巻きの行動は止まらない。そのまま義仁の体を持ち上げ投げ飛ばした。リリと耀の叫び声が聞こえ、地面に落ちる筈の体は優しく抱きとめられた。

 

「義仁はん、軽く打ち合わせしたとはいえやりすぎ。さてと、君たち、僕のお友達に手を出したこと……どう責任取って貰おうか」

 




お読みいただきありがとうございます。

最後迷走しましたはい。
おっさんがねぇ、最近血を吐いてないなぁって思って……いや、なんでもないっすすいません。

では、また次回〜

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