問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

変身能力って憧れますよね。

では、どうぞ。


第6話 ガルド=ガスパー

「これが、私の力よ」

 

 飛鳥の表情は暗い。耀は飛鳥を元気づけようと声をかけようとするが、元々人付き合いが苦手なせいか言葉が見つからない。ジンはジンでなんて声を掛けたらいいのか分からないようだ。

 

 そんな二人の様子を見て飛鳥はやっぱりかと言った表示で、謝った。

 

「ごめんなさい。気持ちのいいものでは無かったわね。そちらの方も、宜しかったら座ったらいかが?」

 

 ずっと腰を曲げた状態で微動だにしなかった長身の男は、急に動けるようなった事に困惑と軽い恐怖を覚えながら、その感情を押し殺すようにゆっくりと椅子に座った。その額には大粒の汗が幾つも滲んでいた。

 

「あ、ああ。失礼します」

「それで?私達に何か御用があって?」

 

 飛鳥が長身の男に話すように促す。男は一度深呼吸をした後、口を開いた。

 

「お初にお目にかかります。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ〝六百六十六の獣〟の傘下であるコミュニティ〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパーと申します。この度は、貴方がたをスカウトするためにここまで足を運ばせていただきました」

 

 スカウトするため。この言葉にジンはガルドへ抗議の声を挙げようと、顔をガルドへ向けるも、何かを言う前にガルドが先手を打った。

 

「何も知らない相手を騙そうとしているのを黙って見過ごすと思っていたのか? ジン。俺にも箱庭に住む一住人として通さなきゃならねえ仁義がある。分かってるよな?」

「………………騙してなんか、ない」

「あっ?」

「僕は、僕等は騙してなんかいません。ガルド=ガスパー。彼女達は僕等のコミュニティの現状を知った上で、僕等に協力してくれると言ってくれています」

 

 多少引け腰になりながらも、ガルドの目をしっかりと見据え、自身の意見を言って見せた。

 

「……それは本当ですか?レディ達」

「ええ、本当よ」

「うん」

「お言葉ですがレディ、流石にそれは早計かと。ジンの率いる〝ノーネーム〟はその名の通り、名も旗印もありません。それらは、自分たちの縄張りを主張する大事なもの。この店にも大きな旗が掲げられているでしょう?あれがそうです。名は身分証明書のようなものでしょうか」

「つまり、私達は身分も証明できず、自分たちの住む場所だと主張することが出来ない」

 

 耀が確認のためにガルドの言葉を噛み砕いて復唱した。

 

「そうなります。ただ、ジンのコミュニティには黒ウサギがいる。〝箱庭の貴族〟とまで謳われるほどの強大なギフトを持つ彼女が〝ノーネーム〟に縛られているからこそ、ジンのコミュニティは未だ健在はしているのです」

「その、名や旗印は新しく作れないの?」

「手間は掛かりますが作ることができます。もしも、ジンが名と旗印を一刻も早く作り直していれば、去っていった仲間の一部はコミュニティに残っていたことでしょう。水もまともに確保出来ていない現状とは遠くかけ離れていた結果になっていたはずです。勿論、良い方向で」

 

 ジンは顔を真っ赤にして両手を膝の上で握り締めていた。

 

「さらに言えば、彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりでリーダーとしての活動はしていません。11歳とまだ子供なので、コミュニティの再建は無理でも、小さなゲームには参加できる。それに、黒ウサギと言う最高の指導役もいる。しかし、それをやろうとはしなかった。他にも、コミュニティを大きくしたいと望むのであれば、あの旗印のコミュニティに両者同意でギフトゲームを仕掛ければいいのです。私のコミュニティは実際にそうやって大きくしましたから」

 

 自慢げに語るガルドはピチピチのタキシードに刻まれた旗印を指さす。彼の胸には虎の紋様をモチーフにした刺繍が施されている。耀と飛鳥が辺りを見回すと、広場周辺の商店や建造物には同様の紋が飾られていた。

 

「なるほど、ならこの付近はほぼ貴方達のコミュニティが支配している訳ね。でも、一つだけ分からないことがあるの。聞いてもいいかしら?」

「ええ、勿論」

「貴方はこの地域のコミュニティに〝両者合意〟で勝負を挑み、そして勝利したと言ったわ。だけど、私が聞いたギフトゲームの内容は少し違うわ。コミュニティのゲームとは〝主催者〟とそれに挑戦する者が様々なチップを賭けて行う物のはず。……ねえ、ジン君。コミュニティそのものをチップにゲームをすることは、そうあることなの?」

「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」

「……ああ、だからか」

 

 静かに三人の会話を聞いていた耀が納得したように声を漏らす。

 

「何か分かったの春日部さん?」

「うん。ずっと気になってたんだ。この人から血の匂いがする。それもかなりキツイ」

「あ、朝方に狩りをしてきたので恐らくはそれでしょう。にしても、キチンと臭いも落としてきたはずなのですが、随分と嗅覚が敏感なのですね」

「うん。でもね、獣特有の臭さは感じない。本当に狩りなんてしていたの?」

 

 ガルドは口を閉じたまま動かない。一度引いた汗が再び彼の額に滲んでいる。こういった交渉や口での勝負が苦手なガルドには、切り返す言葉が見つからなかった。

 

 目を泳がせ口を開こうとしないガルドに飛鳥が痺れを切らせた。

 

「私も狩りには興味があるの。今朝狩りをしていたのなら、何が標的だったのかしら?教えてくださる(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 正直なところ、飛鳥も、ジンも、その標的とやらがなんとなく分かっていた。しかし、それが本当にそうなのかはガルド本人から聞くしかない。

 

 ガルドの口が震えながら広がっていく。しかし、その前に立ち上がり逃げようとするガルド。だが、容赦なく飛鳥の口は言葉を紡ぐ。

 

「あら、同席者に何も言わず立ち去るなんてマナーがなっていないんじゃないかしら?座りなさい(・・・・・・・・・)

 

 立ち上がり逃げようとしていたガルドの体が、吸い込まれるように椅子へと戻った。

 しかし、なおも逃げようとしているのか、額には青筋が生まれ、机の上に置いてある手には力が込められ机にはひびが入っていく。

 

 その様子に驚いた猫耳の店員が急いで飛鳥達に駆け寄る。

 

「お、おきゃくさん!!当店でのもめ事は控えてくださ―――」

「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として聞いていって欲しいの。多分、面白いことが聞けるはずよ」

 

 首を傾げる猫耳の店員を制して、飛鳥はガルドに話すよう促した。

 

「さあ、どうぞ?お話を続けましょう?」

「け、今朝は、部下が攫ってきた獣人のガキを殺してきた」

「……そう。予想通りの吐き気がする回答をどうもありがとう。なら、なんで部下に子供を攫わせるような真似をさせたのかしら」

「き、脅迫するためだ。女子供を攫って脅迫すれば、大体のコミュニティが言うことをきく。これに動じない相手は後に回して、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

「まあ、そんなところでしょう。貴方のような小者らしい堅実な手です。どうせ、吸収した後も、従順に働いてもらうため人質を取っているのでしょう?」

「そうだ」

 

 ガルドが口を開く度に、飛鳥を取り巻く雰囲気には嫌悪感が滲み出てくる。コミュニティには無関心な耀でさえ不快そうに目を細めている。

 

「なら、その子達は何処に幽閉されているの?」

「もう殺した。初めてガキ共を連れてきた日、鳴き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい、母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食

 

黙れ(、、)

 

 ガチン!! とガルドの口が勢いよく閉ざされた。

 飛鳥の声は先程以上に凄みを増し、魂ごと鷲掴む勢いでガルドを締め付ける。

 

「素晴らしいわ。私の想像以上の外道ねアナタ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭といったところかしら……ねえジン君?」

 

 飛鳥の冷ややかな視線に慌てて否定する。

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

「そう?それはそれで残念。―――ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことは出来るかしら?」

「できます。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ですから。でも、裁かれるまでに彼が箱庭から逃げ出してしまえば、それまでです」

 

 それはある意味で裁きといえなくもない。リーダーであるガルドがコミュニティを去れば、脅迫でしか成り立っていない〝フォレス・ガロ〟が瓦解するのは目に見えている。

 

 しかし飛鳥はそれでは満足出来なかった。

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

 苛立たしげに指をパチンと鳴らす。それが合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力は霧散し、体に自由が戻る。怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを勢いよく砕くと、

 

「こ…………この小娘がァァァァァァァァ!!」

 

 雄叫びとともにその体を激変させた。巨躯を包むタキシードは膨張する後背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。

 

 彼のギフトは人狼などに近い系譜を持つ。通称、ワータイガーと呼ばれる混在種だった。

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが…………俺の上に誰がいるか分かってんだろうなァ!? 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!! 俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!! その意味が

黙りなさい(、、、、、)。私の話はまだ終わっていないわ」

 

 ガチン、とまた勢いよく黙る。しかし今の怒りはそれだけでは止まらない。ガルドは丸太のように太い剛腕を振り上げて飛鳥に襲いかかる。それに割って入るように耀が腕を伸ばした。

 

「友達に手を出さないで」

 

 耀が腕を掴む。更に腕を回すようにしてガルドの巨躯を回転させて押さえつけた。

 

「ギッ…………!!」

 

 少女の細腕からは想像もつかない力に目を剥くガルド。飛鳥だけは楽しそうに笑っていた。

 

「ありがとう春日部さん。さて、ガルドさん。私は貴方の上に誰がいようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した〝打倒魔王〟だもの」

 

 その言葉にジンは大きく息を呑む。内心、魔王の名が出た時は恐怖に負けそうになったジンだが、自分達の目標を飛鳥に問われて我に返る。

 

 まだ、手は震えている。けど、進まなければならない。ジンはガルドの前に立った。

 

「……はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません」

「そういうこと。つまり貴方は破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

「く…………くそ……!!」

 

 どういう理屈かは不明だが、耀に組み伏せられたガルドは身動き出来ずに地に伏せている。

 飛鳥は機嫌を少し取り戻し、足先でガルドの顎を持ち上げると悪戯っぽい笑顔で話を切り出す。

 

「だけどね。私はあなたのコミュニティが瓦解する程度の事では満足出来ないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきだと思うの。―――そこで皆に提案なのだけれど」

 

 飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。飛鳥は足先を離し、今度は女性らしい細長い綺麗な指先でガルドの顎を掴み、

 

 

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の〝フォレス・ガロ〟の存続と〝ノーネーム〟の誇りと魂を賭けて、ね」

 

 




お読みいただきありがとうございます。

フォレス・ガロの領地ってギフトゲームの後どうなったのでしょう?
もし、あのままなら話を進める上でかなり有難いのですが……

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

ヒロインっていりますかね?おっさん既婚だし娘もいたから全然考えてなかったのですが……どうなんだろう?

では、また次回〜

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