問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

もう少し書こうかなー
なんか終わりがしっくりこないなー
結果ずっと書き続けてる

ありません?

では、どうぞ。


第40話 クッション

「義仁さんはここで何してたの?」

 

 よいしょと隣に座り込む耀。ペストはどうすべきかと悩んでいたが、耀の隣に座った。

 

「んー……何が出来るのかを考えていたかな」

「……金の亡者?」

「そういう事じゃないでしょうよ」

 

 ペストが耀の言葉に反応した。それを見て義仁は笑を零した。それに耀は少し不機嫌そうに疑問を口にする。

 

「……むぅ。義仁さんはたった1人で〝ノーネーム〟の食費を賄ってる。〝ノーネーム〟に一番貢献していると言っても過言じゃない」

「確か〝ノーネーム〟の人数って……」

「……100人くらい。その食費を賄って更に何か出来ないかなんて言ってたら」

「まあ、お金に固執しているようにも感じれないこともないわね」

 

 でも、ド直球に言うのもどうかと思うのだけれど? と、ペストに言わればつの悪い様子で耀は義仁に謝った。

 

「いや、いいよ。私も言葉足らずだったしね。ところで、二人は私を探していたみたいだがどうしたんだい?」

「ジン達が呼んでるのよ。でも、ジンは作戦会議で動けない。飛鳥と黒ウサギはジンの護衛。動けるのは私達だけでね。護衛するのは私でも良かったのだけれど、流石に、隷属させてすぐの元魔王を護衛にするつもりは無かったようね。そして、この子は……」

「……十六夜のヘッドホンが私の鞄に入ってた」

 

 そこで、義仁は十六夜のヘッドホンが無くなっており、急遽収穫祭に耀が参加することになったことを思い出した。

 十六夜もさほど気にしていなかった様子だったので完全に忘れていた。

 

「それは……耀ちゃんがやったのかい?」

 

 義仁の当然の質問にぎゅっとズボンを握り締める耀。ペストはやれやれと言った様子で肩を竦めた。

 耀は怒られた経験がない。今でこそ、父から譲り受けた動物の能力を受け継ぐギフト〝生命の樹(ゲノムツリー)〟のおかげでこうして動けているのだが、それ以前は歩くことさえままならない程の難病を患っていたのだ。

 耀が生まれた時代は義仁よりも未来にあり、その分医療技術も格段に進化していた。それこそ、義仁の時代では治すことが出来ない不治の病と称された奇病難病ですら治すことが出来た。

 

 だが、耀の持つその病はそれでもなお治すことができなかった。

 

 物心のつく頃には病室で1人。見舞いに来ていた父は気が付けば行方不明。お医者様はお手上げだと優しく遠回しに言い続けるだけ。学校? 友達? そんなものはいない、知らない、分からない。

 心配されど、怒られることは無かった。ただ、見放されることの辛さだけを味わい続けた。

 

 心の支えは感情が分からない、ただのお気楽な1匹の猫だけ。

 

 そして、ある時ひょこり戻ってきた父。その父から貰ったペンダント。そのペンダントには、動物と会話できる力があった。そのペンダントには、他の生き物から力を貰う力があった。

 手も、足も全てが快調。お医者様は気絶仕掛ける。しかし、病院の中にはそれを否定する者はいなかった。奇跡だと喜んでくれていた。

 

 そう、病院の中では。

 

 学校に行くと、奇異の目で見られ、動物と意思を疎通させて見せれば気持ち悪いと罵られる。

 どうすれば良かったの? そんなの、人と付き合うことが極端に少なかった彼女には分からなかった。

 だが、そんな中でも分かったことはある。

 

誰かが成功すれば、周りは喜んでくれる。

誰かが失敗すれば、周りは見放していく。

 

 私は失敗したんだ。

 

 彼女は怒られることが無かった。その機会が無かった。だから、馬鹿正直に話せば見放される。

 それは、嫌だ。もう、見放されたくない。

 

 盗まれたヘッドホン。その原因を作ったのは他でもない耀。実行したのは、三毛猫だ。私が弱かったから、三毛猫がそんな私を見かねて……私はどうすればよかったの? 何が成功なの?

 

 耀の頭に巨人族の腕に潰された砕けたヘッドホンが思い浮かぶ。それを見た黒ウサギと飛鳥。彼女たちは私をどんな目で見ていた?

 

 分からない分からない分からない分かりたくない

 

 もう独りはいや

 

 ごめんなさいみはなさないでひとりにしないでごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

 耀の唇が紫に染まり、大粒の油汗が額ににじみ出る。肩は震え、口からは何かを紡ごうと動いていた。

 

 とても正常には見えない様子にペストが声を掛ける。だが、反応はない。

 

「ちょ、ちょっと? 耀? 大丈夫?」

「大丈夫じゃなさそうだね。うん」

 

 ゆっくりと、義仁は耀の手を取る。温もりというのは、そこにあるだけで人を安心させる。そして、ゆっくりと抱き締めた。

 

「よく、頑張った。辛かったんだね。大丈夫。私はここにいるから。どこにも行ったりしない。全部受け止めてみせるよ」

「……ごめん、なさい」

「うん」

「……十六夜のヘッドホン……鞄の中入ってた。三毛猫の臭いがして、私、飼い主だから私が責任とらないと、でも、どうすればいいのか分からなくて」

「なら、まずは三毛猫くんと話してみなきゃね」

「……怖い」

「そうだね。だが、話さなきゃいけない三毛猫くんのためにも。まず、君が勇気を出さないと」

 

 義仁は耀の顔を見て、微笑みかける。それにつられ、耀も少しだけ笑ってみせた。

 

「……話してくれるかな」

「話してくれるさ」

「……十六夜は許してくれる?」

「心から謝ればね」

「……行ってくる」

「付いていかなくてもいいかい?」

「大丈夫。1人でやってみる。だめだったら義仁さんのせい」

「それは困ったな。行ってらしゃい」

 

 行ってきます。と、耀は走り出した。生まれて初めて叱られた。世間的には叱る、怒ると言うよりも諭すと言う方が近いが、耀からすれば、それは初めての経験だった。

 

「案外素直に立ち直るのね」

「耀ちゃんは慣れてないだからね。後は、失敗した時のクッションを用意してあげれば、あの子は1人で歩いて行ける。強い子だよ」

「貴方は随分手慣れている様子だったけど。こういった立ち回りが多いのかしら」

「……むしろ、逆だよ。私が、みんなに助けられている。私は弱い人間だからね。さてと、ジンくんが呼んでいるんだったかな? それじゃあ行こうか」

 

 ペストは、何処か歪なモノを見る目で義仁を見ていた。

 

「……私が言うのもおかしいけれど。押し潰されないように気を付けなさいよ」

「え?」

「何でもないわ」

 

 ペストは義仁に背を向け、歩き始める。義仁は首を傾げながらもその後について行った。

 

 ペストの手は、強く握られていた。そこに、どういった感情がこもっているのか……それは、ペスト自身にも分からなかった……。

 




お読み頂きありがとうございます。

耀ちゃんの立ち直り早すぎね?
元が強いので……経験さえ積めばすぐ立ち直れるのです。ただしくは、向き直って行動出来る子なのです。

では、また次回〜

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