問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

多分矛盾だとか、そう言ったものは無いはず……無いよね?

今更ですが、この物語は基本的に平和な世界です。

では、どうぞ!!


第4話 規格外

「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。いきなり耳を掴まれて何も言わずに外に連れ出されるなんて」

「いいからさっさと案内しろ」

 

 自身のうさぎ耳を大事そうに撫でながら、黒ウサギはその場が何処なのかを確認する。

 

 十六夜の目の前には巨大な滝と大河。トリトニス大河と呼ばれる場所。

 

「……確かに、ここはトリトニス大河です。この場所に水神の眷属である蛇神様がおられるはずです。しかし、人間一人の力で神をどうこう出来るはずがございません。さあ、十六夜さんここは大人しく帰りましょう?」

 

 黒ウサギは無理矢理にでも連れ戻したい気持ちを抑え、優しい声色で語りかける。しかし、十六夜は黒ウサギの忠告を無視して、勝手に河岸まで移動し水面を覗き込んでいた。

 

「……出てこねぇな。なあ、黒ウサギ……本当にここなのか?」

「あの、黒ウサギの話し聞いてました?」

「人ひとりがどうこう出来ないから帰ろうってか?ああ、聞いてたぞ」

「なら!!」

「帰らんぞ?それに、漸く神様のお出ましのようだ」

 

 十六夜は悪戯の成功した子供のような、無邪気な笑みを浮かべ、水底から起き上がってくる巨大な影を見ていた。

 

「黒ウサギ、手は出すなよ?出したらコミュニティに入る話は無しだ。分かったな?」

「っ!?」

 

 黒ウサギはこれで何も出来ない。少なくとも邪魔はされないだろう。と、十六夜はほくそ笑む。

 

 そして、巨大な影の主が、その姿を現した。

 十六夜の前に現れたそれは―――身の丈三〇尺強はある巨大な大蛇だった。それが黒ウサギが先程から言っている水神の眷属である蛇神であることは間違いないだろう。

 

『ほう……人間に、箱庭の貴族様ではないか。我に何用だ?』

「なぁに、ちょいと喧嘩を売りに来ただけだ」

『喧嘩……?クククッ……たかが人間がこの私に挑むと言うのか。良いだろう。その挑戦受けて立とうではないか』

 

 蛇神は笑いを噛み殺しながら、楽しそうに答える。そして、十六夜の所に二枚の輝く羊皮紙が現れる。

 

『さあ、選べ。知恵比べか?その勇気を示すか?』

 

 十六夜は二枚の羊皮紙を手に取り、その内容を確認。そして、

 

「つまらん」

 

 一蹴した。

 十六夜の顔には先程と変わらない、無邪気な笑みが張り付いている。

 

『ほう……?我の試練が気に食わない……と?』

「ああ。そもそもの話、俺はアンタに挑戦をしに来たんじゃねぇ」

『では、なんだ?我と決闘でもしに来たと?』

「そうなるな」

『クッ……クククッ……本当に笑わせてくれるな小僧。箱庭の貴族様からの紹介で多少は腕に自身があるのだろうが……』

 

 調子に乗るなよ小童が

 

 十六夜の顔すぐ横に迫った、その巨大な口から囁くように声が漏れる。しかし、そんな状態にあろうとも、十六夜の表情は崩れない。むしろ、笑顔を浮かべたまま脅し返す始末。

 

「そっちこそ調子に乗んじゃねぇぞ?クソ蛇」

 

 正しく一触即発。いつ暴れだしてもおかしくない状況。流石の黒ウサギも、これは不味いと仲介に入ろうとした。その時、十六夜が動いた。

 

「ああ、俺としたことが、一つやる事を忘れてた。まずはアンタが俺を試せるかどうかを……試さないといけないよな?」

『やれるものならやってみるがいいさ。まあ、傷の一つも付けれんだろうがなぁ!!』

 

 高笑いと共に首を戻していく蛇神。しかし、気付けばその視界に十六夜はいなく、その視界には雲が流れる青い空が写っていた。

 

 顎に響く鈍い痛み。殴られたのだと気付くことにそう時間は掛からなかった。

 

 呆気に取られていると、空は遠のき背中に強い衝撃が襲う。しかし、そんなことさえどうだって良くなるほど、蛇神の心は理解が出来ないと訴えかけていた。

 

(我は神である。一人間程度に負けることなどまずない。あの者は英雄だとでも言うのか?否。そんな英雄的な強さを感じなかった。あの者は、箱庭の貴族が連れてきた、一人の男。そのはずだ。では、あの男は何者だ?英雄ですらない、あの男は何者だ?)

 

 蛇神の神としてのプライドが、たかが人間風情に殴られた。そして、その攻撃に気付くことすら出来なかった。その事実を頑なとして受け入れない。受け入れられない。故に

 

『まだ……まだ終わっていないぞ、小僧ォ!!』

「はッ!!動けもしなかった奴がよく言うぜ!!」

『付け上がるな人間!!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

 叩き潰す、と。

 

 蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち上る。十六夜が軽く後ろを振り向けば、更に水柱が二本。

 

「十六夜さん、下がって!!」

 

 黒ウサギは庇おうとするが、十六夜の鋭い視線はそれを阻む。

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。さっきの抜けるどうこうの話じゃねぇ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

 本気の殺意が籠った声音だった。黒ウサギも始まってしまったゲームに手出しは出来ないと気付いて歯噛みする。

 

「さあ、敗者を決めようか。求めるまでもなく、敗者は決まっているんだがな?」

『ほざけ小僧ォ!!』

 

 蛇神の雄叫びに答えて嵐のように川の水が巻き上がる。竜巻のように渦を巻いた水柱は蛇神の丈よりも遥か高く舞い上がり、何百トンもの水を吸い上げる。

 

 竜巻く水柱は計四本。二本は十六夜の後ろに、もう二本は十六夜の前に。それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。

 

 この力こそ時に嵐を呼び、時に生態系さえ崩す〝神格〟のギフトを持つ者の力だった。

 

「十六夜さん!!」

 

 黒ウサギが叫ぶ。しかし、もう遅い。竜巻く水柱は地面を川辺を抉り、木々捩じ切り、十六夜の体を激流に飲み込む―――!!

 

 あの水流に巻き込まれたが最後、人間の胴体など容赦なく千切れ飛ぶのは間違いない。黒ウサギは目を瞑った。そして、謝った。助けられない自分に、コミュニティを、新しい同士を見殺しにしてしまってごめんなさい。

 

 そんな時、その声は聞こえた。その、強気で、絶望も何も感じさせない声に、黒ウサギは閉じた瞼をハッと持ち上げた。

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

 突如発生した、嵐を超える暴力の渦。十六夜は竜巻く激流の中、ただの腕の一振りで嵐を薙ぎ払ったのだ。

 

「嘘……だ、だめです!!油断しては!!」

『遅い!!』

 

 嵐は晴れた。しかし、今度は蛇神の尻尾。その、圧倒的な質量が十六夜を襲う。尻尾が風を切り、十六夜を叩き潰した。その、あまりにも呆気ない終結に黒ウサギは膝から崩れ落ちる。

 

 尻尾の落ちる衝撃で、川の水は雨と化し、木々は倒れる。まるで、隕石でも降ってきたのかと疑いたくなるような光景。尻尾の傍には砂埃が立ち込め、十六夜の安否が確認出来ないが、まず生きてはいないだろう。しかし、黒ウサギと蛇神は認識を改めることとなる。

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

 新たな同士は規格外な存在(この人間は英雄でもない規格外)だと。

 

 蛇神の尻尾は、十六夜に掴まれていた。十六夜はその尻尾を離し、跳躍。大地を砕くような爆音。胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、蛇神の巨軀は空中高く打ち上げられて地面に落下した。

 

 また全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに黒ウサギの元へと戻った。

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

 雨が降る青空を見上げ鬱陶しそうな十六夜の声は黒ウサギには届かない。彼女の頭の中はパニックでそれどころではなかったのだ。

 

(人間が……神格を倒した……?ただの腕力のみで……?)

 

『彼らは間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ』

 

 黒ウサギの頭に過ぎる、彼らを召喚するギフトを与えた〝主催者〟の言葉。黒ウサギはその言葉を、リップサービスか何かだと思っていた。信用できる相手だったが、ジンにそう伝えた黒ウサギ自身も〝主催者〟の言葉を眉唾に思っていた。

 

(信じられない……だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのなら……!!私達のコミュニティ再建も、本当に夢じゃないかもしれない!!)

 

 黒ウサギは内心の興奮を抑えきれず、鼓動が速くなるのを感じ取っていた。

 

「おい、どうした?」

「え、きゃあ!!」

 

 髪をかきあげながら戻ってきた十六夜に、黒ウサギは驚きの声をあげる。その事に対して十六夜は不満の声をあげた。

 

「戻ってきただけなのに随分な歓迎だな?」

「あ、すいません」

「ま、いいさ。んで、結局ギフトゲームだかなんだか分からんくなったが、貰えるもんがあるなら貰っとけ。貰えんのなら、今度は正式にゲームに参加するだけだがな」

「はい。それじゃあ聞いてまいりますね」

 

 黒ウサギはまるで湖のようになったトリトニス大河、その中心でグッタリとしている蛇神の元へ向かう。ついさっきまで水が吹き飛び水底まで見えていたのも、既に水が流れ込み元の水位まで戻ろうとしていた。

 

 一分程して黒ウサギが浮き足立って戻ってくる。どうやら、無事ギフトを手に入れられたようだ。

 

「収穫は……その苗か?」

「はい!!これは水樹の苗と言いまして、文字通り水の樹。水を大量に貯蓄できるものです。これだけの大きさ……かなりの量を貯蓄出来ること間違いなしデスよ!!お風呂問題もこれにて解決です!!」

 

 うキャー!!その場でクルクル回り始める黒ウサギ。そこで十六夜は、ずっと疑問に思っていた事を聞いてみることにした。

 

「なあ、黒ウサギ。お前はギフトゲームには参加しないのか?俺が見たところ、オマエの方がよっぽど強いように見えるが」

「ああ、その事でこざいますか。それはウサギ達が〝箱庭の貴族〟と呼ばれる事に由来します」

 

 十六夜は近場の石に腰を下ろしながら、聞く体制をとる。

 

「ウサギ達は〝主催者権限〟と同じく〝審判権限(ジャッジマスター)〟と呼ばれる権限を所持できるのです。〝審判権限〟を持つものがゲームの審判を務めた場合、両者は絶対にギフトゲームのルールを破ることが出来なくなり……いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します」

「なら、黒ウサギと共謀すれば無敗に……って、そんなうまい話はねえか。ルール違反=敗北なのに、それだと、黒ウサギの中でのルール=判定になっちまう」

「はい。ウサギの目と耳は箱庭の中枢に繋がっております。つまりウサギ達の意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てる事が出来るのですよ。それでも無理に判定を揺るがすと…………」

「揺るがすと?」

「爆死します」

「爆死するのか」

「それはもう、盛大に。〝審判権限〟の所持はその代償として幾つかの〝縛り〟が御座います。

 一つ、ギフトゲームの審判を務めた日より数えて十五日間はゲームに参加できない。

 二つ、〝主催者〟の側からの認可を取らねば参加出来ない。

 三つ、箱庭の外で行われているゲームには参加出来ない。

 ――――とまあ、他にもありますけど、蛇神様のゲームに挑めなかった大きな理由はこの三つですね。それに黒ウサギの審判家業はコミュニティで唯一の稼ぎでしたから、必然的にコミュニティのゲームに参加する機会も少なかったのデスよ」

「なるほどね。実力があってもゲームに使えないカードじゃ仕方ないか」

 

 肩を竦め、立ち上がる。この先の光景も気になるが、ここにいれば見にくる機会はまた来よう。それまでお預けだ。と、自身に言い聞かせ川辺を歩き出す。

 

「その、黒ウサギも一つ十六夜さんにお聞きしたいことがあります」

「却下。嘘。どうぞ」

「え?ああ、はい。十六夜さんはどうして黒ウサギ達に協力してくれるのですか?」

「楽しそうだったから、面白そうだったから」

 

 あまりにも簡単に答えてみせる十六夜に、驚きを隠せない黒ウサギ。まだ、詳しく魔王について話してはいない。しかし、コミュニティのあの惨状をみれば、魔王がどれだけ強大な存在なのかは分かるはずだ。

 

「そ、それだけなのですか?」

「なんだ、不満なのか?そうだな……〝ロマンがあるから〟だな。俺の居た世界は先人様方がロマンというロマンを掘り尽くして、俺の趣向に合うものが殆ど残ってなかったんだよ。だから、ここじゃない世界なら俺並みにすごいものが、俺が本当に満足できるような出来事があるかもしれない。そう思った。その矢先に、黒ウサギ達のコミュニティ。コミュニティを支えてきた奴を前に言う言葉でもないが、面白そうじゃねえか。〇どころか-に行っているコミュニティの復興。更には魔王とか言う素敵ネーミングの化物が相手。上等じゃねえか。やる気が湧いてくるってもんだ。だから、落ちてくる時にチラッと見えた世界の果てに行くのはお預け。今はそれより風呂に入りたいから、さっさと帰るぞ黒ウサギ」

 

 日が暮れ始め、沈む太陽を横目に十六夜は歩く速度を早めた。川辺を歩く速度を変えた十六夜に慌てて追いつく黒ウサギ。

 

(少し……自分語りが過ぎたかッ)

 

 その頬が少し赤く染まっているのは夕日のせいなのか、はたまた別の要因があったのか。それは十六夜にしか分からない。

 

 ただ、黒ウサギの瞳には、しっかりと不自然に赤くなった頬が写っていた。

 

「ふふっ……そうですね。帰りましょうって、ああ、置いていかないでください!!」

 




お読みいただきありがとうございます。

なんか色々原作無視したけど……い、いいよね(震え声)
おっさん(主人公)も出なかったけど……問題なんて無いよね?(開き直り)

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

次回は飛鳥たちの話になると思います。

では、また次回。

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