問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

先週は投稿出来ず申し訳ありませんでしたm(_ _)m

では、どうぞ。


第37話 人間の幻獣

 轟音と共に天井の一部が崩れジンの頭上に。咄嗟にテーブルを乗り越えジンを庇う義仁。ガツンっと義仁の頭に強い衝撃が走った。

 

 頭から垂れた血がジンの顔に滴り落ちる。

 

 ジンの震える手が、頬に落ちた血に触れる。ねちゃっとした気持ち悪い触感。ジンの顔から血の気が引いていき青くなった。

 

 ジンの口はまるで病人のような青紫色に変色している。その口からゆっくりと義仁の安否を確認するための言葉が紡がれた。

 

「あ……、よ、義仁さん。だい、だいじょうぶ、です……か……」

 

 義仁の体がピクリと震えた。目は閉じられ口は半開き。しかし、義仁の体はジンを庇うように抱き締めたまま動かない。

 

 ジンの頭に死と言う最悪の一文字が浮かび上がる。ジンの瞳には大粒の涙が浮かび流れ落ちた。義仁の服を握り締め、むせび泣く。

 

「また、だ……ぼくが……僕が弱いから……っ!」

 

 悲観する。努力が足りなかった。思考が足りなかった。義仁さんに手を伸ばして貰って、その手を掴んで、救われた。そこで、僕は油断していたんだ。

 

 ジンは義仁の腕を外し、その腕を肩に。大人の義仁と、子供のジンの体格では運ぶ事なんて到底無理だ。

 

「それでもっ」

 

 やりきった。と、言わんばかりに力が抜ける義仁の体。その分だけジンの体に重さが加わる。

 

「僕はやりゃなきゃ、僕が、やるんだ……っ!」

「……ぁ」

 

 小さな声が漏れた。それはジンのものでは無い。ここには義仁と、ジン以外の人はいない。そう。なれば、誰のものかは必然的に定まってくる。

 

「……ぁあ…………。ジン、くん。無事だったんだね」

 

 そう。義仁だ。義仁は目が覚めた瞬間にジンの心配をした。とても暖かくて、嬉しくて……涙がこみ上げる。よかったと。

 

「義仁さんのお陰です。僕には傷一つありません。本当に、義仁さんのお陰ですっ!」

「そうか……よかった……だいじょうぶ。私もそんなに酷くはないから。少しふらふらするけどね。これぐらいならまだ歩けるよ」

 

 義仁はジンから離れ1人で立ってみせる。だが、歩こうとすると足元がおぼ付いている。

 

「酷くないわけがありません! まずは止血をしなくちゃ……」

「それなら、これでだいじょうぶ。兎に角先にここから出よう。まだ、外では何かが起きているみたいだし、早くサラさん達に合流しないと」

 

 そう言う義仁は上着を脱ぎ出血部分に押し付ける。元々藍色だった上着はみるみる内に赤く染まっていく。

 

 外からは轟音が未だ鳴り響き、怒号も聞こえれば、獣の叫び声の様なものも聞こえる。そして、助ける声や、何かが潰される様な音も。

 

 義仁はおぼつかない足取りのまま出口へと向かう。このままでは、この部屋もいつまで無事か分からない。急いで脱出しなくてはと、扉を開ける。その瞬間一際大きな地響きが鳴り響く。まるで、この巨樹そのものに攻撃が入ったかのような轟音と揺れ。義仁とジンはその揺れで部屋から投げ出された。

 

 後には巨大な鎖。

 

 もし、投げ出されていなければ、あの鎖に……想像は容易なものだった。

 

 義仁はジンに支えられ立ち上がる。二人が体制を立て直した頃に黒ウサギが慌てた様子で走ってきた。

 

「大丈夫ですか義仁さん」

「ああ。大丈夫」

「おふた方! 無事でしたか!? っ! 頭に怪我を……良かった。見た目は派手ですが傷自体は深くはないみたいです。ですが、万が一がございます。医療班は既に動いておりますので、早くそちらへ。場所は先程話し合っていた部屋の近くにあるエレベーター付近です。私もついて行きたい所ではありますが、これ以上奴らの好き勝手にはやらせる事は出来ません。ですので、私は外の無法者共を退けてきます。ついていくことは出来ませんが……どうかお二人共お気を付けて!」

 

 そう言い残し黒ウサギはジン達が吹き飛ばされた部屋の鎖を駆け上って行った。

 

「……行きましょう義仁さん」

 

 ジンが呟く。それに力強く頷いた。大樹の中に作られた通路を進み、先程会議を行った部屋の近くまで来れた。そこから見えた景色。

 

 樹の根が網目模様に張り巡らされた地下都市からは煙が上り、美しかった街並みは今では見られない。

 清凉とした飛沫の舞う水舞台なんてものはなくなり、水は混濁とし濁流となって街を呑み込んでいた。

 

「義仁殿! ジン! 無事だったか。今何とか奴らの奇襲から立ち直ったところだ。詳しい話は後ほど。それよりも義仁殿、その頭の傷を見せてくれ」

 

 貴賓室前にて指揮を執っていたサラがジン達に気付き近付いてくる。そして、そのまま義仁の頭を掴み自身の見えやすい位置へ。

 

 傷は黒ウサギが言った様に深くはない。恐らく頭蓋骨にひび等も入っていないだろうと確認したサラはその傷跡に指を這わせ……。

 

「私の治療恩恵を使う。少し熱いと思うが我慢してくれ」

 

 そして、義仁の頭にライターで熱されているような熱さが伝わる。我慢出来ないほどではないと口を噛み締め耐える義仁。

 

「よし。終わったぞ。私のこの恩恵は後遺症になりうるものも一緒に浄化してくれる。だから、これ以上悪くなることはないだろう。少しばかり熱いのが欠点だがな」

「ありがとうございます」

「お話をしている所すいません。一つお聞きしたいことが……敵はアレですか?」

 

 街を壊し、水を穢した無法者達。2本の足で立つその姿は、人間と瓜二つ。しかし、その大きさは人間とは比べ物にはならない。

 

「ああ。敵は奴ら……人類の幻獣――――巨人族だ」

 

 オオオオオオオオッォォォォォォォォ――――――!!!!

 

 街の中で猛々しい声を上げて暴れ回る巨人族。

 

「箱庭の巨人族と言えばその多くが異界での敗残兵です。大体がケルトの者達。代表格としてならフォモール族。ですが、北欧の者達も多い……だが、どちらにせよ、巨人族は穏やかな気性だ。だとすれば、1人の首謀者が居るとは考えにくい……複数の後ろがいるか……〝アンダーウッド〟を襲うだけの価値があるものがあるか……心辺りはありますかサラ様」

「……〝バロールの死眼〟封印はしているが、奴らがそれを解けるとしたら」

「襲う価値は充分にありえる。そして、恐らくあの巨人族はケルトのものでしょう。時間を稼いで下さい。そして情報を出来る限り集めて下さい。奇襲と言うことは、サラ様も気付かなかった。そう……特に巨人族が攻め込んできた時の状況を。敵はアレだけじゃない。恐らく精神干渉系、それに髄する恩恵を使っているはずです。特徴が絞り込めれば対策も取れる……出来る限り急いで! まだ、始まったばかりだ……!」

 

 相手が誰だろうとなんだろうと使いこなして

 

 仲間が最大限動きやすく、そして、生き延びやすい環境を作る

 

「それが、戦えない、自分の身すら守れない僕の出来る全てだからッ!」

 




お読み頂きありがとうございます。

ジンくん覚悟完了。
オッサンは軽傷ですみました(感覚麻痺)

では、また次回〜

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