問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

自分自身に価値を、目的を与えること。それは、とても大切なこと。

では、どうぞ。


第30話 生きている

 蝋燭の炎が揺らめく部屋にペンの走る音が静かに響く。

 

 

『誰かに何かを遺すとは意外と難しいもので、それが文章となれば尚更のことなのだろう。今日書いていてそんなふうに思った。

 

 いっそのこと何も残さないと言う手もあったが……、せめて生きた証を残しておきたい。なんて思うのは人間故か。

 

 何で急にこんな事を書き始めたのか。一言で言えば、疲れたから……、だろうか。』

 

 

 義仁は手元のメモ帳にサラサラと書いていく。

 

 しかし、それとは別に纏められた羊皮紙の束があった。

 

 

『心の整理をしたかった。だから、こんな事を書いている。

 

 生きる意味を失くした私に何度も火を灯してくれた、生きる意味をくれた箱庭。

 

 だけど、その意味を殺していった。この、私自身の手で。

 

 今思うと、目が見えなくなったのも、味覚を失ったのも、全て当然の報いなのかもしれない。

 

 リリちゃんを救えて舞い上がっていた、3人もの命を奪った私への報い。』

 

 

 メモ帳の中身は、自分自身の事が。

 

 羊皮紙の中には、みんなの事が書かれていた。

 

 

『私は、死ぬのが怖い。死ぬのが、怖い。

 

 けれど、もしも死ねたのなら、それはどれだけ楽だったのだろうか。

 

 リリちゃんを助けた時に、あのまま大量出血で死ねていたのなら。

 

 瓦礫に潰されてしまったロオタスくんの代わりに瓦礫に潰されていたのなら。

 

 病室で、あの少女に胸を貫かれていたのなら。

 

 それこそ、妻と娘と共に死んでいたのなら。妻と娘の代わりに死ねていたのなら。

 

 私は、こんなにも沢山の人を殺さずに済んだ。私自身が苦しまずにも済んだ。』

 

 

 羊皮紙は質素な黒色の箱に入れられ丁寧に包装された。

 

 メモ帳には乱雑な文字が連なっている。

 

 

『生きる意味が亡くなったのだ。大切な人が私の前からは毎回毎回消えていく。

 

 ジンくんの悩みを聞いた。黒ウサギちゃんからの頼み事とは言え、悩みを聞いた。

 

 それが、今私を動かしている原動力だ。

 

 まるで、寄生虫の様だな。

 

 最後には、宿主が死ぬ。他殺であれなんであれ、死ぬ。』

 

 

 義仁は羊皮紙の入った箱を撫でる。それがキチンとジン達に届くのだろうかと一抹の不安を感じて。

 

 

『ジンくんも、死んでしまうのだろうか。わたしが関わったから。

 

 リリちゃんにも、黒ウサギちゃんにも、レティシアちゃんにも、十六夜くんにも、飛鳥ちゃんにも、耀ちゃんにも

 

 私が関わってしまった皆に、本来の目的でもって届いてくれるのだろうか。

 

 いや、それぐらいは成して見せよう。それが、私の生きる意味になる。

 

 それだけが、私を生かしてくれている。

 

 だから、もう少し頑張ってみよう』

 

 

 メモ帳は閉じられた。感情を吐露するかのように書き綴った。これでもう少し頑張れる。心がすっと閉じられる。

 

 

「まだ、私は、生きている」

 

 

 確認するかのように呟いた小さな声は、蝋燭の炎を揺らしながら消えていった。

 

 蝋燭の炎はまだ、消えいくことを許されない。

 




お読み頂きありがとうございます。

一度、義仁の心情と言いますか、縋っているモノを書いておいた方が良いかなと思い書かせていただきました。

何か人じゃなく、物に頼るという事は、傍から見たら滑稽に写っているのかも知れませんが、とても大切で重要な事なんじゃないのかな。と、思います。

では、また次回。

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