問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

すいません、風邪気味で多分文章がおかしくなっていると思います。

皆さんも、季節の変わり目は体調に気を付けましょう。

では、どうぞ。


第3話 誰かの為にあれ

「ひゃぁあああふぅううう!!」

 

 黒ウサギは素敵で自慢のウサギ耳をガッシリと掴まれた状態で、森の中を爆走状態の十六夜に引っ張られていた。

 

 事の発端は一刻ほど前の事。春日部耀の『お風呂とか大丈夫なの?』発言による。

 

 黒ウサギ達のコミュニティは魔王の襲撃により壊滅状態にある。その際に人材、食料、住居、名前、旗等と言った活動に必要な物をほぼ全て奪われてしまっている。そして、そこには水源も含まれていた。

 

 黒ウサギ達のコミュニティは、本来水を売る側として生活していた。それは、先人が手に入れた宝具の効果によって、水を無限に手に入れることが出来た為である。

 

 しかし、それも今となっては昔の事で、かつて水が沢山貯まっていた貯水池には砂埃が立つしまつ。子供たち総出で水を汲んできても、122人分をまかなうには少ない量。耀が言ったお風呂に入る等という贅沢は、夢のまた夢なのだ。

 

 そこで十六夜は黒ウサギにこう聞いた。

 

『その宝具と同じ物、もしくは同じような物を手に入れられるようなギフトゲームは行われていないのか?』

 

 と。これに対し黒ウサギは迂闊にも答えてしまう。とは言え、彼がこんな横暴に出るとは思いもしなかったようだが。

 

『十六夜さん達が落ちてきた所の近くに、蛇神がギフトゲームを行っているはずです。確かその蛇神は水神の筈ですので、もっていてもおかしくはないと思いますが』

 

 その言葉を聞いた十六夜は、口を歪めた。それはもう、最高だと言わんばかりに。これに黒ウサギは止めに入る。

 

『右も左も分からない方を生かせるわけには行きません!!』

 

 しかし十六夜。黒ウサギがそれを言い終わると同時にそのウサギ耳を掴んでいた。その光景に皆が皆、ぽかんと呆けた顔をする。そして、窓を開け……

 

『じゃ、ちょっくら喧嘩売ってくるわ』

 

 〝第三宇宙速度〟等と馬鹿げたスピードで窓から飛び出して行った。

 

 そして、今現在森の中を爆走中なのである。

 

 

  ※

 

 

 一方その頃、飛鳥たちは……

 

「あそこなんてどうです?」

 

 ジンが指差すのは〝六本傷〟の旗を掲げるカフェ。

 

「良い雰囲気のお店ね。私は賛成」

「私も」

「それじゃあ、決まりですね。座りましょうか」

 

 3人と+一匹はカフェテラスへと座った。

 注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出してきた。

 

『いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?』

「えっと……紅茶二つと緑茶を一つ。あと、コレとコレを」

『ネコマンマを!!』

『はいはーい。ティーセット三つにネコマンマですね』

 

 ……ん?と飛鳥とジンは首を傾げる。誰もネコマンマ等頼んだ覚えはないからだ。しかし、耀だけは驚いた様子で猫耳の少女を見つめていた。

 

「……三毛猫の言葉分かるの?」

『そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並な旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー』

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鍵尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

 猫耳の少女は長い鍵尻尾をフリフリと揺らしながら店内に戻る。その後ろ姿を見送った耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。

 

「……箱庭って凄いね、私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいた」

『来てよかったなお嬢』

「……もしかしなくても、春日部さんってその子と話せてるの?」

「……うん」

 

 少しの躊躇いと共に吐き出された言葉。

 

「もしかして、猫以外とも話せたりするのかしら?」

「うん。生きてるなら誰とでも話は出来る」

「もしそれが幻獣等とも会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

「そうなの?」

「はい。幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通が出来ないのが一般です」

「なら、黒ウサギは兎たちと話せるの?」

「そうですね。ですが、黒ウサギは箱庭の創始者の眷属に当たるので、殆どの種とコミュニケーションが取ることが可能です」

「ようするに、素敵能力という事ね。私のとは違ってとても素敵な力だわ」

 

 そう笑いかける飛鳥。困ったように頭を掻く耀。しかし、その笑にはどこか陰りが見えた。それは、会って数時間の耀に、彼女らしくないと思わせるほどだ。

 

「久遠さんは」

「飛鳥でいいわ」

「う、うん。飛鳥はどんな力を持ってるの?」

「私?私の力は醜いものよ。だって」

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 品のない上品ぶった声がジンを呼ぶ。振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。変な男は不覚にも……本当に不覚にも、ジンの知った者の声だ。

 ジンは顔を顰めて男に返事を返そうとするが、その前に飛鳥が口を開いた。

 

「名乗りもせずに私の友人を馬鹿にしないで下さるかしら?謝りなさい(・・・・・・・・・)

「うグッ!?」

 

 2mをも超える巨体がピシッと固まり、ゆっくりとその腰を曲げ始め

 

「す……すいま、せんでした」

 

 謝った。

 

「これが、私の力よ」

 

 飛鳥の表情はとても、暗かった。

 

 

  ※

 

 

「ん……んん……ッ……ここ、は……」

 

 男が目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。体には良く分からない管が繋がれているし、包帯があっちこっちに巻かれていて動きずらい。

 

「あ、気が付かれましたか?」

 

 幼く、明るい声が聞こえる。その声のした方を向くと、そこには桶を持ったリリの姿があった。

 

(最近の仮装道具ってのは進化しているんだな)

 

 リリの頭に付いているきつね耳をマジマジと眺め、それが本物とは1ミリも考えていない男。しかし、それもしょうがない事だろう。なにせ、特別、特殊等の存在とは全く縁のなかった一般人なのだから。

 

「あの……ボーッとしてますけど、大丈夫ですか?」

「あ、いや、ごめんよ。うん、大丈夫みたいだ」

 

 じっと見つめていたからか、リリが不安そうに聞いてきた。それを誤魔化すためか、男はすぐに謝った。

 

「ところで、此処はどこなんだい?」

「ここはノーネーム本拠です」

「ノーネーム?」

「はい!!」

 

 リリは男の質問に元気よく答えた。が、男からすれば、それは答えであっても答えとはなっていなかった。リリの答えが『〜様のお屋敷です』等であれば、男は納得しただろう。しかし、リリの答えは『ノーネームの本拠です』だった。

 

(ノーネーム?人の名前……ではないか。だとすれば、企業や団体の名前?でも、そんな名前聞いたことないしなぁ……)

 

 ノーネーム、名無し等と好んで付けるような人間でもいるのだろうか?

 

(まず……いない、よな?)

 

 自信の無いまま、確定させる。

 

「……いたッ……」

 

 取り敢えず起きようと布団を剥ぐと、腹部が包帯でぐるぐる巻にされていた。無理に体を捻ったためか、その包帯の下から鋭い痛みを感じる。

 

「あ、無理に動いたらだめですよ!!傷口が塞がりきれていないんですからね。木片かなにか、ギザギザした物で切っていたみたいですし……治るまで時間は掛かると思いますが、安静にして下さい」

「うグッ……分かった、そうしておくよ」

 

 リリの忠告に大人しく従う男。まだ、微かに痛みが残っているが、幸いにも傷口が開くことはなかったようだ。

 

「私はリリと申します。何か困った事や、欲しいものがあれば言ってくださいね」

「ああ、そうさせて貰うよ。リリちゃん……で、よかったかな?」

「はい!!」

「早速で悪いんだけど、私の鞄はないかな?あの中には、今度の仕事で使う資料が入っていてね。出来れば直ぐに目を通したいんだが」

 

 正直、今のメンタルでどうこう出来るほどの精神力はない。だが、せめて目を通して、やれる事はやらなければいけない。会社の仲間に迷惑は掛けられないから。

 

「あの……多分ですが……湖の底にあると思います。黒ウサギのお姉ちゃんからは、そう言った物は預けられてないし……ごめんなさい……」

(湖の底?何故そこで湖なんて単語が出て来るんだ?いや、違う。この子は間違っていないんだ。そうだ、落ちてきたんだ。ずっと空高くから)

 

 男の頭の中に、消えていた記憶が蘇る。

 

 気が付けば空にいて、落下していた。そして、水の中に落ちて、赤い線が見えて……

 

(ああ、あの時手から離れていたのか。こりゃあ会社には戻れないな……妻と娘を殺して、両親にも、会社にも迷惑をかけて……挙句は良く分からない所に飛ばされた)

 

「ハハハ……」

 

 男の口から乾いた笑い声が漏れる。その姿は、まるで死人のようで、まだ子供であるリリは、男から無意識に遠ざかっていた。

 

「誰かのためにあれ……折角貰った名前なのに……真逆だな……こんな人生……」

「……あ、名前。お名前はなんて言うんですか」

「……」

 

 リリは少しでも会話をしようと、明るく、積極的に質問してくる。ただ、その腰は引き気味ではあるが。

 

「……俺の名前は、木島 義仁(きじま よしひと)。誰かの為にありなさい。そんな意味を込められて付けられた名前だよ」

「素敵なお名前ですね」

 

 リリは男の、義仁の名前を素敵だと褒める。

 

 しかし、男の表情が明るくなることはなかった。

 

 死人のような、生きている方がおかしいと思えるその表情には、自身を責めるかのような気持ち悪い笑みが張り付いたままだった。

 




お読みいただきありがとうございます。

誰かの為に、誰かを支えられる人になりなさい。そんな意味を込めた名前。これから、誰かを支えられるような人になって欲しいものです。

誤字脱字報告、アドバイス、感想等がございましたら、よろしくお願いします。

うがい手洗い……皆もやりましょうね?

では、また次回。

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