問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

もう少しでスランプから脱出できそう(な気がする)。

では、どうぞ。


第28話 また

 目が死んでいる。光がない。等といった人が絶望したり、心が壊れた時の表現法があるが、正しくその状態の人間を義仁は見ていた。

 

 ジン=ラッセル。齢11歳にして百数人の命を背負い、幾万の思いを背負い、自らの采配によって少なくない命を失った。

 

 ジンは立派にリーダーとしてやっているのだと、義仁は思う。しかし、どうしてもジンをリーダーとして見ることが出来なかった。

 

 それは、元の世界での常識。家族を守る。言ってしまえば、義仁はジンを守るべき家族として見ているのだ。リーダーではなく、一人の息子として。

 

 だから、それをジンには知っていて欲しかった。一番の頑張り屋で、無茶をして、けど、そうしなければならない。そんな、ジンに知っていて欲しかった。

 

 光を移さない虚ろな目でジンは義仁を見つめる。

 

 

 まだ間にあうだろうか。私はまた、救えず見殺しにしなければならないのか。

 

 違う。今度は見殺しではない。私が、ジンくんにとどめを刺したのだ。この、口で。この、言葉で。ジンくんを殺したのだ。

 

 少なからず、ジンくんはリーダーとして見られているかにコンプレックスを抱えていたのだろう。

 

 ああ、ああもう遅いのだろうか。もう、彼に何を言っても意味は無いのではないのか。

 

 私は、ジンくんをリーダーとして見ていない。だから、ジンくんの抱えている全部を吐き出してもいいんだよ。黒ウサギちゃんにも、十六夜くんにも、飛鳥ちゃんにも、耀ちゃんにも、リリちゃんにもレティシアちゃんにも言えない、吐き出したい辛いことや悲しいこと。苦しいことや投げ出してしまいたいことも……全部、全部私の前でぐらい吐き出してしまってもいいんだよ?

 

 

 自分がどれだけ早計だったのか、馬鹿で浅はかだったのか……。嫌という程に突き付けられる。

 

 もう彼を一人にした方が良いのか、声掛けるべきなのか……それすらも義仁には分からなくなっていた。

 

 一人が、独りがどれだけ寒く、辛い事かはこの身をもって知っているというのに。

 

 ジンの瞳が義仁を写す。青白く額から汗を流し、口半開き。肩で息をしているのが見て取れる。とても、誰かの前に立つような状態ではなかった。

 

 

 ああ……。どちらにせよ、こんな私ではジンくんが安心して話をしてくれるはずもないか……。

 

 

 吹っ切れた。いや、壊れた、の方が正しいかもしれない。

 

 一人の少年を助けたいと、言葉を投げかけ心を壊し、心を殺した。遅れて自分の行った浅はかな行動に気付く。自身は焦るだけで何をする訳でもなく、このままの彼を独りしようとしている。

 

 しかし、私がこのままジンくんと共にいたとしても、良いことなんて何もないのかもしれない。ならば、別の誰かに託すのが一番良いのだろう。

 

 そもそも、私は何故ジンくんの部屋まできたのだったか? …………ああ、そうだ。黒ウサギちゃんに頼まれたんだった。別の人に頼むなら、レティシアちゃん辺りが適任だろうか?

 

 うん。そうしよう。

 

 そもそも、黒ウサギちゃんは何故私を選んだのだろうか。きっと、さして何かをしている訳でもなく、暇な私を選んだろうな。

 

 黒ウサギちゃんも見る目が無い。こんな私に何かを頼んでも、全部悪い方向にしか進まないというのに。

 

 ああ、でも、でも……もし、こんな私でも君の助けになれるというのなら私は喜んで犠牲になろう。

 

「ごめんね。ジンくん。私はリーダーとして君を見ていない。けれど、だからこそ、君がリーダーだから、他の人の前では吐けない辛いことも、悲しいことも投げ出してしまいたいことも、全部全部受けとめるから。何時でも、呼んでくれていいからね」

 

 義仁は車椅子を器用に動かし反転する。きっと、呼ばれることはないだろう。私はまた、間違ったのだ。後悔は涙にすらならず、心の中にすっと溶けて行く。

 

 そして、義仁は動きを止めた。どうしてか……。それは、義仁の服を掴む手があったから。

 

 呼ばれることはないのだろう。またもや彼は間違えたのだ。

 




お読み頂きありがとうございます。

オッサンも心の何処かで焦っていたのでしょう。何時かの自分と重ね合わせていたのかも知れません。はたまた、別の誰かと重ねてしまっていたのかも知れません。

そして、この世は絶望だけではないんやで?

では、また次回〜

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