問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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きっと矛盾とかないはず……なんか、解説会とか毎回これ書いてるな……

では、どうぞ


第20話 誇り

 空を眩い光が埋め尽くす。それは、真実の伝承を掲げるのとほぼ同じ。

 

 光が視界を埋め尽くし、そして開けた視界には魔王によって荒らされた街並み。

 

 そして、魔王の放った呪いは解け、黒い斑点は消え失せた。

 

 失ったものはとても大きい。しかし、助かったものも同じく大きく、多い。

 

 だから、まずは声を上げよう。

 

「か、った」

 

 大きな声で、精一杯。

 

「やった」

 

 今までの不安を、恐怖を全部吐き出すように。

 

「魔王に……魔王に」

 

 祝杯を掲げよう。

 

「「勝ったぞォォおおおおおお!!!!!」」

 

 失くしたモノから、目を、そらすために。

 

 

 ※

 

 

 魔王のゲームに勝利したのち、迅速に後処理が行われた。瓦礫の撤去や、怪我人の治療。そして、勇敢なる死を遂げた者への喝采と黙祷を……。

 

 今回のゲームでの死者数が合計三十七名。特に前線を張っていたサラマンドラからの死者が最も多くその数三十四人。残りの三人は、二人が黒死病による病死。一人が、戦いの最中吹き飛んだ瓦礫が不運にも直撃。そのまま押し潰される形で亡くなった。

 

 重傷者、重態者もかなりの数になっており、重態者として義仁はサラマンドラの医療機関にて治療を受けている。

 

 だが、そんな中でも祭典は続けられる。こんな時にまでとは思われるが、それでも祭典とは大切な行事。それに加え、今の北側の現状は『魔王の毒牙に掛かった街』になっている。時間が過ぎ、冷静になり、失ったものの大きさを知った故の結果である。それを払拭するためには祭典を執り行い『魔王の毒牙に屈せず魔王を打ち破った街』と言う意識を街全体に持たせなければならない。払拭と言うよりはすり替えという方が正しいが、街の秩序等を守る為にも必要なこととなる。

 

 黒ウサギの正式なゲーム終了の宣言。白夜叉の謝罪に加え、誕生祭を続ける事の宣言。及び魔王のゲーム攻略による功績の授与。

 

 窓から見える復興の様子。悲しみに涙するものもいれば、家族との再開に笑顔するもの。汗水流し瓦礫を移動する者もいれば、祭典の準備を進める者もいる。

 

 窓を閉め切り、扉も誰も入れぬよう閉め切る。そして、手に持つ手紙に目を落とし、手紙の内容に目を通す。そして、手紙の内容に一通り目を通したマンドラは、執務机に手紙を置き、一人嘆く。

 

「『全てが万事上手く進行し、魔王を撃退されましたこと、お祝い申し上げます。新生〝サラマンドラ〟が北のフロアマスターとしてご活躍されることを心より期待しております。

  追伸/星海龍王からお預かりした新珍鉄は、例の撒き餌達に送らせていただきました』、か。

 全てが上手く進行? はっ、笑わせる。これだけの犠牲を生み出しておきながら上手くいったなんて言えるわけがないだろう。流石は〝サウザンドアイズ〟。何もかもお見通しの上でこちらの傷に塩を塗ってくるとは。悪い事は出来んな」

「何が?」

 

 ガタンッ!! とマンドラは立ち上がる。周囲には誰もいない。だが聞き覚えのある声だった。

 

「まさか、〝ノーネーム〟の小僧……! 何処にいる!!」

「屋根裏にいるぞ!」

 

 ズドガァン! と天井を破って現れる十六夜。何処から潜り込んだのか、全身蜘蛛の巣だらけである。右腕は包帯を巻かれて固定されているというのに、随分と手の込んだ潜入法だ。

 

 ペッペッと埃を払い、やや侮蔑の嘲笑を交えた表情で、

 

「で、何が悪いことなんだ? まさか、〝サラマンドラ〟が魔王を祭りに招き入れたことか?」

「……なっ、」

「いやいや、驚くところかそこ? 普通に考えれば分かることだろ。連中は出展物に紛れて現れたんだぜ? それも一三〇枚もの笛吹き道化のステンドグラスを出展していた。主催者側が意図的に見落としてない限りは、不審に思うだろ」

 

 違うか? と首を傾げる十六夜。マンドラは冷や汗を背中に流しながら、帯刀していた剣の柄を握っている。十六夜は壮絶に面倒くさそうな顔で頭を掻き、両手を広げた。

 

「アンタがその気なら俺としては有難い。キチンとした正当防衛を持ってアンタを殺せるからな」

「何…………!?」

「今回の件は、サンドラを殺すとか、跡目が欲しいとかじゃない。サンドラがしっかりすることで〝サラマンドラ〟を支えて欲しかったんだろ?」

「…………」

「それは別に悪いことじゃねぇさ。その気持ちは分からんでもないからな。だが、家の仲間が巻き込まれて死に目にあってる。外側も、内側もな。んで? どうしてくれる訳? これって、あれだろ? 〝階層支配者〟として一人前として認められるための通過儀礼みたいなもんなんだろ?」

 

 十六夜は両手を広げたままマンドラへと近付く。程よい、その剣の間合いに。

 

「そんな通過儀礼に家のオッサンは巻き込まれた。ルーキー魔王VSルーキーマスターの壮絶な出来レースに。俺はさ? 別に他のコミュニティがどうなろうが、潰れようが構わないんだわ。ただ、お前らの都合で非戦闘員が死に掛けてるのが気に食わねぇの。だが、現状オッサンはアンタらの医療技術で助かってる。だから、下手に手を出せない。だから、アンタが俺にその刃を向けてくれれば、俺は心置き無くテメェを殺せる」

 

 明らかに肩で息をしているマンドラに十六夜は溜息を漏らし、その広げた両手を戻した。

 

「〝サラマンドラ〟の総意だとか、テメェだけの勝手な偽善なのか、そこは俺には分からん。だが、この事を知っている連中からしたら、テメェらの名誉なんてものはあってないようなものかもしれないがな」

 

 マンドラは言い返したかった。しかし、言い返せなかった。現に〝サラマンドラ〟以外のコミュニティから死者が出てしまっているのだから。自分達のコミュニティを守る為に、自分達が企てた悪事で、自分達以外のコミュニティから犠牲が出てしまっているのだから。

 

「さてと、こんな名誉も誇りも無いような奴を相手にしてるほど俺も暇じゃぁない。それじゃぁな」

 

 十六夜は興味が失せたのか、後ろ手に手を振りながら部屋を出ていこうとする。しかし、それに待ったを掛けたものが居た。他でもないマンドラだ。

 

「ま、待ってくれ!」

「……なんだ? もうアンタの首にも興味なんて無いんだが」

 

 マンドラは思考を巡らせる。どうすれば〝サラマンドラ〟の誇りを、名誉を取り戻せるのか。そして、〝ノーネーム〟風情にあれだけ言われたまま、下に見られてたままで終わって良いのか!? 否! 否!! 否!!!

 

 ならば、どうする!? 私の首に既に価値はない。ならば、恩を買うのだ。彼等のコミュニティは対魔王コミュニティだと小耳に挟んだ。つまり、万が一が常に隣に立っていることになる。そこを付けば……!

 

「確かに、貴方の言う通りだ。だが、それでもなお、我等にも引けぬところはある。我々、〝サラマンドラ〟は〝ノーネーム〟に万が一があった場合、いの一番に駆けつける。我等の御旗に誓おう。その時こそ、〝サラマンドラ〟は秩序の守護者として駆けつけると」

「…………ま、覚えておくわ」

 

 執務室の扉をぶっきらぼうに開け放ち、十六夜は部屋を出る。滑稽だな。と不意に思った。

 

 マンドラは〝ノーネーム〟を下に見ていた。そんなもの態度で分かる。

 

「まずはテメェがその姿勢をどうにかしないと、誇りも糞もねぇんだがなぁ」

 

 そんな事を呟きながら廊下を進み、一つの病室の前でその足を止めた。扉には木島 義仁の文字。

 

「さてと、オッサンは起きてるかなっと」

 

 扉の取っ手に手をやり、開く。そこには―――

 

「はっ……―――?」

 

 ―――ナイフを両手で握り締め、義仁の胸を刺そうとする少女と、それを笑顔で見守る義仁の姿があった。

 




お読みいただきありがとうございます。

十六夜くんブチ切れモード。けど、ここで騒動を起こすとノーネームの皆に迷惑なので我慢しました。
その結果マンドラの価値が下がりました。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたらよろしくお願いします。

最後? さて、どうなることやら。

ではまた次回〜

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