問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
おっさん頑張ります。そして、奇跡を起こします(盛大なネタバレ)
では、どうぞ!
明るくなった部屋、明るくなった視界。そして、ロオタスの身体中に浮かび上がっている黒い斑点。ロオタスの体へ手を伸ばす。その手にも黒い斑点が浮かび上がっていた。
黒い斑点、これが一体なんなのか、それは分からない。けれど、このままではマズいと言うことだけは分かった。
外からは叫び声や悲鳴、爆発音のようなものまで聴こえてくる。外に行くのは危険すぎる。だが、かといってこのままここでじっとしているのも安全という訳では無い。時期にここもあの爆発音に吹き飛ばされるかもしれない。それ以前にここで助けを待っていても、助けが来る前に死ぬかもしれない。少なくとも、ロオタスには後がない。助けを呼びに行っている間に息絶えていてもおかしくはない。
方や足の骨折、意識はほぼ無い。方や足を捻り、意識は朦朧。
それでも、生きるために逃げる、逃げねばならない。
この子を助けられるのは私だけなのだから。
近くに寄せていた水の桶から水を掬い喉へと流し込んでいく。そして、顔を洗った。生温い水が義仁の意識を覚ませていく。目を開けば、水面に自分の顔。その顔にも
チラホラと黒い斑点が見られる。
「生きるか、死ぬかだ」
立ち上がれば、捻った足が痛む。だからどうした。と、足を動かし、意識のないロオタスに一応確認をし「動かすよ」と声を掛ける。背中にロオタスの重みが伝わる。まだ、熱い。まだ、生きている。まだ助けられる。私が助ける。私だけしか彼を助けられない。
部屋の出口と思われる扉に手を掛け、押す。驚くほどすんなりと扉は開いた。地下室から出て、リビングのようなところに出る。感傷に浸っているなんて暇はない。リビングを出て廊下に出る。右を向けば無造作に置かれた靴。つまりは玄関。あの扉の先が外だろう。
外から聞こえる轟音が途切れた瞬間、義仁は一気にその扉を開いた。
赤い壁と炎、そしてガラスの街。何処か黄昏時を連想させるあの街並みは無くなり、木造の街並みに姿を変えている。
何が起きているのか、義仁には理解ができない。兎に角人のいるところへ行かなければと、足を踏み出した。瞬間、轟音がすぐ近く、目の前で鳴り響いた。あの白い巨人が何かに吹き飛ばされたのか、義仁達が今さっきまでいた建物を巻き込み、目の前の建物へと激突していた。後ろを振り向けば、丁度脇下の部分だけ建物が残っている。
もし、もう少しでも動くのが早かったら……?
目の前の白い巨人に押し潰され、叩き潰された自分とロオタス。きっと、水風船が破れるかのように簡単に死んでしまうのだろう。
「ヒッ」
その事を理解してしまったが故に漏れた恐怖。後はガムシャラだった。死にたくはない。死にたくない。死にたくない。荒れる呼吸、ぼやける視界、流れる涙、いやだいやだ嫌だ……私はまだ、死ねない。この子を助けなきゃならない。
死にたくない。それも、義仁を動かす力にはなっている。だか、それ以上にロオタスを、誰かを救わなければ。その感情が義仁の原動力……生きる意味にさえなっていた。
「ハアッ……ハッハッ……ごホッ!」
足は震え、体はガタガタ。呼吸なんてものはろくに行えず、唾液の代わりに生臭く、酷くねっとりとしたものが口内に溜まっていく。吐き出してみるとそれは赤かった。
家と家の隙間、路地裏に一度身を隠し呼吸を整える。流れ出る涙と汗を乱雑に拭い、口の中の血液を吐き出し、代わりに空気を取り入れる。座って、そのまま寝てしまいたい衝動を押さえ込み、正面を向いた。
走る程の体力は残っていない。けれど、背中のロオタスの為に足を動かす。
「だい……じょうぶ…………おじさんが、た……けてみせ、るから」
途切れ途切れの自分の声。届いているかも分からない声。その声に応じるかのように、首筋にはねっとりとした液体が掛けられた。
生臭く、酷くねっとりした液体。
義仁の視界に、先程吐き出した自身の血液が映る。元より生気なかった顔が絶望に染まっていく。
「お、ねぇ……ちゃ……さむ……い……ょ」
その声に安堵の息が漏れた。まだ、まだ大丈夫。まだ間に合う。けれど、時間はない。
歩くことしか許さなかった足を無理やり動かした。徐々にスピードを上げていき、全速力とまでは行かなくとも走ることが出来た。足から変な音が伝わるが、気にしない。目から涙とは別の何かが流れてきているが、気にしない。
走って、走って、走って、走った。
そうして、見つけた。何人かは分からないが、人影を。義仁には分からなかったが、それは指示を出すジンと、スタンドグラスを見つけた指示を仰ぎに来た者の集団だった。
(助かったッ……! これで、助かる!! 私はこの子を救えたんだ!!)
「助かった……! 助かったんだよロオタス君!! 君もお姉さんの所に帰れるんだ!! 奇跡だ!! 私たちは生き残ったんだ!!」
最後の力を振り絞り義仁は叫んだ。助かる、助かるんだ。と。
そして、義仁は勢いを緩めずその集団の中へと飛び込んでいく。
集団は焦った。まさか、前線で魔王達と戦っている者がやられ此処に敵の手が!? 集団は距離を取りその人影を確認する。そして、距離を取るなんて、そんな必要は無かった。そこに倒れ込んできたのは一人の男と一人の少年。二人の足は青白く腫れ上がり、身体中には黒死病特有の黒い斑点が浮かび上がっている。特に男は口や足、腕や頭、目からさえも出血していた。
「たす……け、て……この子を……」
義仁はロオタスを降ろす。ゆっくりと、その体を傷つけない様に。
しかし、倒れてしまった。足がもつれ、立とうとした瞬間に。ロオタスの体は義仁の少し先に転がる。やってしまったと義仁の顔は青くなっていく。
慌てて立ち上がろうとした。
グチャっ
目の前でロオタスの体が飛んできた瓦礫に押し潰された。
立とうとしていた体からは力が抜け、その場に倒れ伏す。
義仁の手に何かが当たった。それを握り目の前へと持ってきた。ゆっくりと開く。
目が合った。
手の中には飛び出たロオタスの眼球。
プツンッと、何かが弾けた。
アハ
アハハ
アヒヒヒ
アハヒヒハははヒヒハ
アキキキキハキひひヒきヒききはハハヒきひひははははキキキキキキキはひひひひきキキキキアヒヤあひヤアヒヤフヒひひヒヒクキャキャキャキャキャキャキャキャキャ
赤い血だまりに、透明な雫が落ちていく。
赤い血だまりに、狂った笑いが広がった。
お読みいただきありがとうございます。
ええ、奇跡が起きましたね。ピンポイントで落石と言う奇跡が……
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
さてはて、おっさんの心はどうなることやら
では、また次回〜