問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
さあ、漸く2巻目にはいりますよ。
では、どうぞ。
義仁は今本の虫となっていた。場所はノーネーム本拠の地下三階にある書庫。そこで徹夜をすること五日。彼の突っ伏しているテーブルの上には何十本と本の塔が出来ており、手元の紙の束には本の内容を纏めたであろう資料が几帳面にそれぞれの内容ごとで分けられていた。
その内容は多少の違いはあれど、ほぼ同じ。『魔王に汚染された土地』に関することであった。
この事を調べようと思った切っ掛けはレティシアの一言にあった。
※
ミニトマトを植えそれなりに時間が経った。ミニトマトは温度が高すぎたせいか
そして、今日も子供たちと一緒に作業をし終えた。その頃に一人の来客、レティシアが義仁の元を訪れた。
「生育は順調かな?」
「レティシア。うん、出来た個数は少なかったけど、子供たちが喜んでくれてるから大成功って言えるんじゃないかな」
「そうか、それはよかった」
レティシアは口を閉じ、辺りを見渡す。見渡す限り荒廃してる白地の土地に、義仁とレティシアは佇んでいる。
「何度見ても、この光景が信じられない。この本拠も、農園区もどこもかしこも石と砂」
レティシアは、悲しげに頭を左右に振ってその場にしゃがみこむ。砂を掬うが砂は隙間から零れ落ちていく。
「義仁殿は信じられないかもしれないが、ここは緑豊かで、豊潤な土壌があった土地だったんだ」
「うん」
義仁は静かに頷く。今は聞くべきだと判断した。
「もはやこの土地は人の手でどうこうできるような代物じゃない。土地が死んでいる。かといって、私たちにはこの土地を生き返らせるほどの土地神や豊穣神とのつてがある訳でもない。それに、依頼できるほどの金もない…… 一体、この土地を復活させるためにどれだけの時間が必要になるんだろうな」
レティシアは乾いた笑をその顔に貼り付け、立ち上がった。
「それじゃあ、失礼するよ。黒ウサギに呼ばれているんだった」
レティシアは小走りでその場を去っていった。
※
『人の手でどうこうできるものではない』それに対抗心を燃やし今こうしている。と、皆にはそう言っている。
本当のところは、レティシアちゃんのあんな姿を見たくないからなのだが、面と向かってそう言うのは三十代のおっさんでも厳しかったようだ。
義仁はテーブルに突っ伏し爆睡。そして、それとは別に山積みの本の中で十六夜とジンは眠りこけていた。水没して壊れたヘッドホンを付けて寝ていた十六夜は、首をもたげて呟く。
「………ん……御チビ、起きてるか?」
「………くー………」
「寝てるか……まあ、俺のペースに合わせて本を読んでたんだから当然だな……。そして、あっちは漸くお休みか」
閑散とした書庫に、ふぁ、と大きな欠伸が響く。
毎日朝早く本拠を出て、帰ってきては未読の書籍を漁る。それが十六夜の生活サイクルだった。ジンは書庫の案内も含め、それに付き合っていた。箱庭に来てから、そんな生活をずっと繰り返していたのだ。人並み外れた体力の十六夜でも眠気に限界が来たのだろう。
しかし、十六夜とて寝る時は寝る。少なくとも五日も六日も薄暗いところに篭もりひたすら文字を追いながら、同時に手を動かし続けるとなると……精神的にヤバそうだ。と、結論づけそのまま十六夜は二度寝をするため瞼を下ろした。
三人が健やかに寝息を立てていると、飛鳥達が慌ただしく階段を下りてきた。
「十六夜君! 何処にいるの!?」
「…………うん? ああ、お嬢様か……―――」
と、うつらうつらと頭を揺らして再び眠ろうとする十六夜。飛鳥は散乱した本を踏み台に、十六夜の側頭部へ飛び膝蹴り―――別名シャイニングウィザードで強襲。
「起きなさい!」
「させるか!」
「グボハァ!?」
飛鳥の蹴りは、盾にされたジン=ラッセル少年の側頭部を見事強襲。寝起きを襲われたジンは三回転半して見事に吹き飛んだ。追ってきたリリの悲鳴と耀の驚いた声が書庫に響く。
「ジ、ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!? 大丈夫!?」
「……。側頭部を膝で蹴られて大丈夫な訳ないと思うな」
突然の事態に混乱しながらも、ジンに駆け寄るリリ。顔色一つ変えずに合掌する耀。そして、そんな事態の中でも寝息を立てながら爆睡している義仁。
ジンを吹っ飛ばした飛鳥は特に気にも留めず、腰に手を当て叫ぶ。
「十六夜君、ジン君! 緊急事態よ! 二度寝している場合じゃないわ!!」
「そうかい。 それは嬉しいが、側頭部にシャイニングウィザードは止めておけお嬢様。俺は頑丈だから兎も角、御チビの場合は命に関わ」
「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう!?」
ガバッ!! と本の山から起き上がるジン。どうやら生きていたらしい。
「大丈夫よ。だってほら、生きているじゃない」
「デッドオアアライブ!? というか生きていても致命傷です!! 飛鳥さんはもう少しオブラートにと黒ウサギからも義仁さんからも散々」
「御チビも五月蝿い」
スコーン! っと、十六夜が投げた本の角がジンの頭にクリンヒット。ジンは先程以上の速度で後ろに吹き飛び失神。唯一ジンを心配していたリリも既にその場におらず、寝ている義仁に掛ける毛布の代わりになるような物を探し始めていた。
そんなジンを見ていた耀が、再びジンに対して合掌するのも無理はない。
そんな少年少女を余所に、不機嫌な視線を飛鳥に向ける十六夜。
「………それで? 人の快眠を邪魔したんだから、相応のプレゼントがあるんだよな?」
彼にしてみれば快眠を邪魔された怒りが強いのだろう。十六夜は壮絶に不機嫌そうな声を飛鳥に返す。わりと本気の殺意が籠もった声だったが、飛鳥は気にしない。人生初の二度寝を決行しようとした決意を、耀の連続ノックにへし折られた時に比べれば軽いもんである。
飛鳥は構わず眠たげな十六夜に招待状を手渡す。
「いいからコレを読みなさい。絶対に喜ぶから」
「うん?」
不機嫌な表情のまま、開封された招待状に目を通す十六夜。
「双女神の封蝋……? 白夜叉からか? あー何々? 北と東の〝
「そう。よく分からないけど、きっとすごいお祭りだわ。十六夜君もワクワクするでしょう?」
何故か自慢げな飛鳥に、プルプルと腕を震わせて叫ぶ十六夜。
「オイ、ふざけんなよお嬢様。こんなクソくだらないことで快眠中にも拘らず俺は側頭部をシャイニングウィザードで襲われたのか!? しかもなんだよこの祭典のラインナップは!? 『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の閲覧会および批評会に加え、様々な〝主催者〟がギフトゲームを開催。メインは〝階層支配者〟が主催する大祭を予定しております』だと!?
クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」
「ノリノリね」
獣のように身体を撓らせて飛び起き、颯爽と制服を着込む十六夜。
唯一止められる(かもしれない)ジンはそのまま担がれ、リリは義仁の横で本の整理。つまり、誰も彼らを止めようとするものは居なかった。
「…………おっさんも連れていくか」
十六夜はジンを担いでいる腕とは反対の腕で義仁を担ぐ。
「リリ、おっさんを借りてくぞ。ちょっとはおっさんも休むべきだからな。丁度いい息抜きになるだろ」
「確かにそうかもしれないですが……北側に行ける程のお金がないってジン君が言ってましたよ? だから秘密にって言われた―――あっ」
「「「秘密?」」」
重なる三人の疑問符。やってしまったとアハハと硬い笑を浮かべるリリ。失言に気が付いた時にはもう既に手遅れだった。目の前には邪悪な笑と怒りのオーラ。放つ耀・飛鳥・十六夜の三大問題児。
「……そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」
「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日新聞頑張ってるのに、とっても残念だわ。ぐすん」
「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」
※
「く、黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁん! あ、大変ーーー!」
「リリ!? どうしたのですか!?」
「じ、実は飛鳥様たちが十六夜様と耀様を連れて……あ、こ、これ、手紙! わ、私が秘密を言っちゃたから!」
リリの目尻には大粒の涙が溜まっている。
黒ウサギはそんなリリを宥めつつ手紙の内容を読んだ。
『黒ウサギへ。
北側の四○○○○○○外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。
貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。
私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合
P/S ジン君は案内役として、義仁さんは観光客として連れていきます』
「…………、」
「……………?」
「――――――!?」
たっぷり黙り込むこと三○秒。黒ウサギは手紙を持つ手をワナワナと震わせながら、悲鳴のような声を上げた。
「な――……何を言っちゃてんですかあの問題児様方あああ――――!!」
黒ウサギの絶叫が一帯に響き渡った。
お読みいただきありがとうございます。
徹夜で作業に慣れているおっさんでした。力尽きてたけどね。
誤字脱字報告、感想、アドバイス等がありましたら、よろしくお願いします。
では、また次回~