問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

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投稿です。

忘年会でした。
前日に急ピッチで書いてて助かりました(なおクオリティ)

では、どうぞ。


第120話 憎悪

 痛みというものは特に感じなかった。ただ、自分というモノ、言葉では表現しづらいナニカが外へと零れ落ちていくような感覚。

 口の奥から湧き出してくるそれが途切れ途切れになっている呼吸を塞ぐ。視界は暗転を繰り返し、やがて腹を貫通している腕からずり落ちて、地面にぼちゃりと落ちた。

 

 精一杯の気力で浮かんでいるその足に手を伸ばすが、届く前に地面へと吸い付けられた。

 

 やってやった。そう言っても大丈夫なのか。不安は募るが、少なくとも昔の自分を、あの時の自分を超えられた。自己満足だと言われても仕方はない。だが、それでいいのだ。

 

 私はずっと前に終わっていたのだから。

 最期くらい、一歩を踏み出してみたって、きっとみんな許してくれるさ。

 

 既に感覚という感覚がすべて死んだ状態。辛うじて聞こえる耳の奥に何かが迫ってくるかのような音が聞こえた。

 

 ありがとう、さようなら。

 

 真っ暗になった視界が不思議と熱く、眩い光のようなものが感じられた。

 

 君たちに出会えて、本当に……良かっ──

 

 

 

 

「離せ!! まだおっさんが!!」

「そうです!! まだ義仁さんがあそこに、早く助けに戻らないと!!」

 

 飛鳥の新たなギフト、アルマティアの城塞。山羊の姿をとるその恩恵の上で二人は暴れていた。理由は明白。義仁の救出させろというもの。

 

「二人して私の腕から抜け出せないくせに馬鹿な事言わないでくれるかしら」

 

 必死にもがく二人。恩恵のペナルティを受けている黒ウサギは兎も角、十六夜までもが飛鳥の腕から抜け出すことができないでいた。それだけ弱っている。少なくともあの大トカゲには到底届きはしない。

 

「追っても来てる。最低十六夜くんだけでも送り届けるから、さっさとその傷を治して万全の状態にしてきなさい。仇、とるんでしょう?」

 

 二人の抵抗は止んだ。自覚しているのだろう二人とも。いま、義仁を助けに行ったところで犬死するのが関の山だと。

 十六夜は潰れた拳を握りしめた。噛みしめた奥歯は砕け、歯茎から血が滲み出る。

 

 守ってやると言った、だが、現実として守られたのは己自身だった。これが、義仁が感じていた無力感。ああ、確かにこれはくるものがある。屈辱、羞恥、そういったもの全てがぐちゃぐちゃに混ざり合って絡み合う。自分自身、逆廻十六夜もかの男に依存していた一人だった事実がひしひしと体を汚染していく。

 

 屈辱、羞恥、それらが混沌としたものはやがて怒りとなり、憎悪となっていく。

 

 やがて、十六夜達は避難所の前まで来ていた。ちらほらと異形のモノと戦っているが避難所自体は無事だった。飛鳥が避難所内に入り話を聞いている間、十六夜はその異形どもを蹴散らしていた。

 

「援軍も来たみたい。リリちゃんたちも〝ノーネーム〟の医療器具を持って医療班の手伝いをしているらしいわ。私は残党をどうにかしてくる。黒ウサギ、春日部さんをよろしく。春日部さんはリリたちの手伝いをしているらしいから。私はトカゲの残党をどうにかしてくる。

 十六夜くん。貴方が立ち直るだけの時間は稼いできてあげる」

 

 そう言って、飛鳥は山羊に飛び乗り鈴を鳴らした。

 恐らく、今の彼に私の声は届いていないだろう。そう、確信しながら。




お読みいただきありがとうございます。

次回最終回になるかなー?
多分なる気がするー
うん、たぶんなるとおもうようん

では、また次回〜

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