問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ? 作:ちゃるもん
漸くメインの話に片足を突っ込める。
ではどうぞ。
義仁のアルバイト計画が根元から崩れ落ちたあの日から五日。義仁はリリから農業についての話を聞いていた。
「と、このような現象により同じ野菜を同じ場所で育て続けると生育が悪くなってしまいます……コホッ」
「あんまり無理はしないようにね。頼んでいる私が言えたものではないけど」
リリは喉の調子が良くなっているのか饒舌に話していく。ただ、時折むせたりしていることから本調子出ない事が伺えた。そんなリリに多少の罪悪感を覚えながらも、義仁は先程の話を噛み砕き理解していく。
「なるほど、例えばトマトを同じ場所で何度も育てていたら、そのトマトが自分の好きな栄養だけを吸収していって最終的にトマトが好きな栄養だけがなくなり成長が遅くなる。そう言う事であってるかな?」
「はい! その通りです! 他にもその野菜が好きな害虫が集中して集まって病気が発生しやすくなったりします」
「なるほど……それが
手に持った専門書へと視線をやり、連作障害について事細かくビッシリと書かれた文字列をなぞっていく。素人の義仁には専門用語ばかりでちんぷんかんぷんだが、隣には物心ついた時から土を扱いながら生活してきた心強い先生がいる。そのおかげか習い始めてたった二日の義仁でも少しは理解できるようにはなっていた。
「本当なら実際に育てながらの方が良いのですが、この土地で野菜栽培は出来ませんし、それに怪我もまだ完治していませんから。取り敢えず今は知識を身に付けていきましょう!」
胸の前で両手を握り満面の笑みを浮かべるリリ。そんな姿を見せられてか釣られて笑ってしまう義仁。はたから見れば仲の良い父と娘にしか見えない。そんな時 こんっこんっ とノックの音が二人の間に飛び込んだ。
「りりちゃん? いる?」
あくまでこの部屋の主は義仁なのだが、ついこの間まで義仁は寝ていて、半場リリの部屋のようになっていた。なので、訪ね主がリリを呼ぶのも分からない話ではない。しかし、今は義仁が起きている。リリはどうしたら良いのかと軽い困惑を覚えながら見る。義仁はリリに通して貰うよう頼んだ。リリはそれに頷き扉を開いた。
「飛鳥様に……耀様ですか? どうかなさいましたか?」
「いえ、ちょっと相談があって……ね」
「相談?」
「ええ、入っても大丈夫かしら?」
リリは飛鳥と耀を部屋へと入れる。そして、二人の視線が起きている義仁を見つけた。
確かに義仁が目を覚ましたとは聞いていた。しかし、二人は半信半疑だったのだ。それだけ、あの時の状態はそれ程までに酷かったのだ。
「いらっしゃい。一応初めましてになるのかな? 私は木島義仁」
「あ、え、ええ初めまして。私は久遠飛鳥」
「春日部耀」
義仁は専門書に栞を挟み閉じる。何故かその動きに焦りを感じてしまう飛鳥と耀。そんな二人を見て少し微笑ましくなり笑みを零してしまう。
「せっかく来たんだから、ゆっくりして行きなさい。とは言っても禄なもてなしなんて出来ないんだけどね」
「そ、そうさせて貰います」
「……起きてて大丈夫なの?」
耀は義仁の一言でかなり気が楽になったのか、まったりとした雰囲気が戻り、いつの間にか持ってきていた椅子に腰を掛けていた。
「あんまり激しく動けはしないけどね。起きて本を読むくらいなら問題ないよ」
「そう……よかった。死んじゃってるって思ってたから。それに、誰かを本気で守れる人ってカッコイイとし、気兼ねなくギフトゲームに参加しに行ける」
「ありがとう。私には特殊な力はないけれど、私には出来ることなら力になるよ。それで、りりちゃんに何か相談事があったんだろう? 私も力になれそうかな?」
そうだったとはっと意識を取り戻した飛鳥がリリに詰め寄った。
「黒ウサギに元気を取り戻してほしいんだけど……どうすればいいと思う!?」
急に元気になった飛鳥に手に持っていた紅茶をトレーごと落としそうになるリリ。
「うわっとと……ふぅ。もう、危ないですよ飛鳥様!」
「ご、ごめんなさい……」
リリは何とかバランスを保ったトレーを一度義仁に渡し、部屋の角に置いていたテーブルを耀たちの前まで持ってくる。そこに、先程預けたトレーを置き、ティーカップへ紅茶を注いでいく。
「はい。どうぞ」
飛鳥と耀の前にほんのり甘い香りが漂う。その香りのおかげか飛鳥も冷静さを取り戻し、口を開いた。
「えっと、今黒ウサギが部屋に引き篭もっているじゃない? どうにか元気なってほしいんだけど」
「黒ウサギさんが引き篭もってる? 何かあったのかい?」
「あ、木島さんは知らなかったのね。このノーネームの仲間が商品としてゲームが開発される予定だったのだけれど、そのゲームが中止になっての。更にはそのゲームの主催者のコミュニティがノーネームへと攻め込んできた。
私たちはそれに抗議をしたわ。その仲間を返せば許してやる。本当はもっと遠まわしだったけど、そんな感じに。けれど、向こうはそんなこと知ったことではないと言った感じに私たちを突っぱねた。そして、仲間を返す代わりに黒ウサギを寄越せなんて言い出す始末。挙句の果てにはその要求を呑むべきか黒ウサギ自身が悩み始めちゃうし。
その結果、黒ウサギは絶賛ひきこもり中」
「飛鳥、黒ウサギと喧嘩したこと隠しちゃダメ」
「春日部さんはそんな余計なことを何処で知ったのかしら?」
ぎりぎりと飛鳥が耀の頭を両手でぐりぐりと押さえ付ける。その光景はじゃれ合う妻と娘のよう。イタズラがバレた娘が妻に怒られ、何故か今度は妻と娘が共謀して私にイタズラを仕掛けてくる。あの頃は本当に良かった。
「そんな事があったのか。取り敢えず喧嘩の件は置いておいて、要するに引き篭もっちゃった黒ウサギさんと話を出来ればいいんだね。だったら簡単だ」
「……何か良い案があるの?」
「案って程でもないけどね。さっきの話を聞く限りその話を知らなかったのは私だけのようだ。なら、子供たちも黒ウサギさんを元気づけたいはず。だから、子供たちに黒ウサギさんへ何かプレゼントを作ってもらって、それを子供たちの代表として渡す。その時に一緒に部屋へと入ってしまえばいい」
黒ウサギは病的なほどの仲間思いだ。種族の本能と言うのもあるが、それを差し引いても仲間のためにこの身を捧げる事を良しとする。それに加え、黒ウサギは親バカ気質である。つまりは子供たちからのプレゼントを断る事が出来るのかと問われれば否としか言いようがない。仲間思いの親バカ。そんな事を義仁は知らないが、これ以上とない方法だろう。
「けど、それは子供たちを利用しているようでなんか嫌なんだけれど」
「確かにそうかもしれないが、やらないで後悔するのは本当に辛いものだ。君たちが思う以上にね。君たちは若いんだ。それに、今日はまだまだ時間がある。色んなことを沢山試してみなさい。ほら、分かったら早く飲んで行動に移すように!!」
「「は、はい!!」」
飛鳥と耀は義仁の急な大声に体が一瞬硬直したが、すぐに返事を返し紅茶を飲み干した。そして、二人して部屋を出ていく。ドタバタと騒がしい音が聞こえるが、そんな音も何処か懐かしく感じられた。
「懐かしい……か」
「懐かしかったんですか?」
「……ああ」
「そうですか。私、食器片付けて来ますね」
リリはそう言って早々に義仁に背を向け、食器を洗い始める。
「本当に、懐かしい……私も涙もろくなったものだなぁ」
お読みいただきありがとうございます。
一話に対して一回泣いているシーンがはいっていますが、次回辺りから無くなっていくかな。まあ、シリアスメインだからそこまで気にしなくても良さそうだけど。
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあればよろしくお願いします。
今後は農業についての専門用語が増えてきます。分からなければご気軽にご質問下さい。
では、また次回~