問題児たちと一緒にただのオッサンも来るそうですよ?   作:ちゃるもん

1 / 121
皆さん初めまして。前作を読んでいただいている方はお久しぶり? です。

今まで東方プロジェクトを原作に書かせていただいていたちゃるもんと申します。

今回は原作が違い、色々と勝手が違いますが何とか続けて行けたらなと思います。

それでは、どうぞ!!


第1話 巻き込まれ

午後一時の河川敷を、ヨレヨレのスーツを着た一人の男がフラフラと歩いていた。

こんな真っ昼間から外を彷徨く男に、通りすぎていく人たちは必ずと言って良いほど振り向いていく。それだけ、男は疲労している様子だった。

 

「はぁ……」

 

男は溜め息を吐く。手に持った、妻と娘がプレゼントしてくれた鞄に目をやり、その中に隠れている書類に不安を覚えたからだ。

男の業績は良かった。順調に業績を伸ばしていき、上司からの信頼も厚かった。しかし、今から二年前、ガクンっと地に落ちることになる。

 

別に、男が何かを仕出かしたわけではない。それは、世間も、会社も重々承知で、男自身にも無罪というレッテルが貼り付けられたのだから、疑い用はない。

 

 けれど、男の業績が良くなることはなかった。

 

今回、男が受け持った仕事は、何ら難しくはない仕事。けれど、相手は大手企業で失敗は許されない。故に、今回の仕事が成功すれば、一気に業績を伸ばせる事が出来る。それだけの仕事を、男は上司から任されたのだ。まだ、上司は男のことを見捨ててはおらず、そして、同時に最終通告でもあった。これ以上は守ることは出来ないぞと。

 

 

ドォォォオオオオンッ!!

ドォンドォオンドォオォオンッ!!

 

 

不意に聞こえた爆音に男は顔を上げた。そこには、隕石でも落ちてきたのか?と疑うようなクレーターが数個、反対側の河川敷に出来ており、そして、離れた所で、大笑いをしている金髪の少年の姿があった。

男は、この少年が何かを仕出かしたのだろうと考え、巻き込まれないように見て見ぬふりをする事に決めた。

 

今はそれどころじゃないんだ……

 

そんなことを考えながら、少年の後ろを通った時―――

 

 

 

 

 

―――世界が反転した

 

 

 

 

 

さっきまで歩いていたコンクリートの道は無くなり、足は何かを踏み締めることはない。身に感じる風は、男が重力に従い落下しているのを教えた。

 

「(チクショウ……ッ!!)」

 

男の目からは涙が流れていた。

 

「(なんだって……俺が何をしたって言うんだ……ゴメンな……ゴメンなッ!!こんなダメな父ちゃんでよぉッ!!)」

 

何かに謝り始める男。そして、最後の心の叫びと共に

 

 

 

バシャァアンッ!!

 

 

 

水が破裂する音が響いた。

 

 

□■□■

 

 

逆廻十六夜は突然『降ってきた』手紙に無邪気な笑顔を浮かべる。

そもそも、手紙が降ってくると言う表現事態が可笑しいのだが、それが事実なのだからしょうがない。けれど、逆廻十六夜はその手紙に心当たりがあるのか「漸くか……まったく、待たせすぎだろ」と、少し不満そうに小さく呟いた。

 

「さてさて?それで内容は……『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能 ギフトを試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、我らが箱庭に来られたし』」

 

逆廻十六夜は笑った。これが単なる悪戯ではないと知っていたから。

そして、彼は同意する。

 

「せいぜい楽しませてくれよ?」

 

そう、小さく呟いて。

まさか、そのすぐ後ろを通っていた三十路のおっさんを巻き込むことになったとは露知らずに。

 

 

□■□■

 

 

「(ああ……死ぬんだろうな……俺……ははッ体が痛てぇよ)」

 

男は驚くほど透き通った水の中、自分の体から流れ出す血液を見て、死が近付いているのが分かった。

体は動かない。指先一本動かない。恐らく、水に叩き付けられた衝撃で動かなくなった……或いは、この二年間の疲労が、今になって表立ってきたのか……もしくは、その両方か。

 

「(まあ……娘と妻を見殺しにした俺には…………当然の報い……なのか……も、な……)」

 

そして、男の意識は遠退いていく。視界は黒く染まり、体からすべての感覚が無くなった。

 

 

故に、誰かが自分を助けてくれたことにも気付かず、絶望と納得を心に抱きながら……

 

 

□■□■

 

 

「し、信じられないわ!!まさか問答無用で引き摺り込んだ挙げ句、空に放り出すなんて!!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃあゲームオーバーコースだぞコレ。石の中に呼び出された方がマシじゃねえか」

「……いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう、身勝手ね……ねえ、あれって」

「ん?」

 

さっきまで苛立ちを露にし、顔を赤くしていた少女は一変。顔を真っ青にしながら金髪の少年、逆廻十六夜の後ろ、自分達が落ちた湖を指差していた。

それに釣られ十六夜も後ろを振り向く。そして、その顔には苦虫を噛み潰したような表情が生まれ、更に後から一匹の猫を抱え湖から上がってきた少女もそんな二人のようすに疑問を浮かべ振り返る。そして、彼女もまた二人と同じように顔から血の気が引いて行く。

 

『なあ、お嬢……あの赤いのって……』

 

猫がにゃーと低い声を出す。それはこの場にいる二人を除きただの鳴き声にしか聞こえなかったが、それが引き金となった。

はっとなった十六夜が「クソガッ!!」と悪態を付きながら湖に飛び込む。十六夜は水を掻き分け赤い線を辿りながら湖を潜っていく。十秒程度潜り続け漸く十六夜の右手が溺れている男の腕を掴んだ。両手でしっかりと男の体を抱え、水をかき分け一気に浮上。陸へと上がり男の状態を見る。

 

「おい、おっさん。聞こえるか?」

 

頬をペチペチとしながら呼び掛けるが反応はない。そして、気道の確保を行うも呼吸は止まっている。これは不味いと判断した十六夜は人工呼吸を始めた。

 

「わ、私誰か呼んでくる!!」

 

猫を抱え、おどおどとしながらも何かしらの行動を起こさねばと考えたのだろう。猫を抱えた少女は何の躊躇いもなく茂みの中へと飛び込んでいった。

 

「こ、これって止血した方が……いいのよね?は、ハンカチで押さえるしか出来ないけど」

 

もう一人の少女はハンカチを手に、一番酷い傷口をハンカチで押さえる。しかし、その程度で押さえきれるほど傷口は小さくなく、隙間から血は流れ続けた。

 

「ごホッ」

 

十六夜が人工呼吸を始めたのが早く、水中からすぐに引き上げたのが幸を制したのか、男の口から水が吹き上がってきた。

 

「よしっ……顔を横にして一度水を全部はかせて……後はこれを繰り返せば……大丈夫な筈だ」

「ほ、本当?」

 

十六夜は上着を脱ぎ、男の脇腹を止血する。

 

「ああ、確信は無いがな。溺れた時の対処法はこれで大丈夫なはず。一応だが止血もできたしな。所でアンタ、火は起こせるか?」

「マッチとかは持ってないわ」

「そうか、ならいい。そこの奴、いい加減大人しく出て来いよ」

 

十六夜は猫を抱えた少女が飛び込んだ茂みに向かって声を掛ける。しかし、返事は返ってこない。

 

「?」

 

確かに気配はそこにある。なのに出てこない。そう言えば、飛び込んでいった奴もまだ戻ってきていない。

その事に疑問を持った十六夜は、茂みをかき分け様子を確認した。

 

そして、ポカンと間抜けな表情を浮かべる事になる。

 

「……何やってんだコイツら」

 

そこには、頭同士がぶつかり合った状態で気絶している少女が二人、転がっていたのだから。

 

 

 

 

時は少し遡り、十六夜達が池から這い上がってきたところ。

 

頭にうさぎ耳を生やし、ナイスバディを持つ少女……黒ウサギは頭を抱えていた。

それもそのはず……黒ウサギが召喚した人数は三人(・・・)の筈なのだ。しかし、実際に召喚されたのは四人(・・・)。一人多い。

 

「間違えた?いえ、間違える要素なんて何処にも……」

 

思考をグルグルと巡らせていると ドボンッ と、五度目の着水音が聞こえた。

 

「マジですか……」

 

黒ウサギは諦めの溜息をつき、池へと視線を戻す。そこには一人減った少女二人の姿があった。

 

(一人……いない?…………いや、そんな、まさか)

 

黒ウサギはそこで一つの可能性を思い付いた。

 

(まさか……溺れた……?いや、そんなまさか、ありえません!!)

 

この世界、箱庭と呼ばれる世界には幾つかの制約がある。その中の一つに、箱庭と言う世界そのものから加護を与えられる瞬間が存在する。その瞬間というのが、何者かによって異世界から箱庭に召喚された時だ。そして、異世界から箱庭に来る為には何者からの招待が必要となる。

しかし、今回呼ばれた筈の人数は三人。しかし、現に呼ばれていたのは四人。つまり、一人は正規の方法での召喚ではない事になる。

 

(だとすれば……加護を受けられず、衝撃が吸収されることもなく、陸へと引っ張られることも……)

 

最悪の場合が黒ウサギの脳裏をよぎった。

そして、それと同時に金髪の男、十六夜が水面から顔を出す。その片腕には一人の男がしっかりと抱えられていた。

本当に溺れていた事に驚きを隠せない黒ウサギ。その硬直は十六夜が陸に上がって来るまで続いた。

 

「……あっ、しゅっ、出血が酷い!!」

 

血を見たことよってか、黒ウサギの思考がもう一度働きはじた。

黒ウサギが隠れている茂みから十六夜達のいる所までは結構な距離がある。しかし、それでもなお広がり続ける赤色は目立ちすぎた。

 

「た、確か救急セットがあったはず!!」

 

黒ウサギはスカートのポケットから一枚のカードを取り出し、慌てた様子でカードを凝視する。

そして、そんな事をしていたら慌て過ぎてつまづいている少女。それも、自身の頭に直撃する形で倒れてきていることになんか気付かないわけで……

 

ゴチンッ!!

 

と、まるでアニメの世界のように綺麗に頭同士がぶつかり二人して気を失った。

 

 

 

 

そして、現在に至る。

 

「何処か落ち着けるところを教えて欲しかったんだが、一時は無理そうだな」

 

十六夜が呆れた声で二人を抱え、湖へと戻る。

 

「……何があったの?」

「俺が聞きてぇよ」

 

十六夜はぶっきらぼうに答え、抱えた二人を地面に寝かせた。

 

「はぁ……これじゃあ治療のしようもねぇな。俺は勿論、オマエもコッチに来たばっかりなんだろ?」

「確かにそうだけど、取り敢えずその〝オマエ〟って呼び方は訂正して。私は久遠飛鳥よ」

「さっきまでアワアワしてた奴がよく言うぜ。俺は逆廻十六夜だ。よろしく頼むぜお嬢様」

「それはしょうがないでしょ!!気が付いたら空に放り投げられてて、無事かと思ったら一人溺れてるとか……想像出来る!?」

「そりゃぁ……出来ねえわなぁ」

 

でしょ!?と、軽く十六夜が引くレベルで不満を爆発させる飛鳥。そして、その不満が止まる気配はない。

 

「そもそも問答無用で呼び出しといて此処が何処なのかを説明できそうな存在が呑気に寝てるのもおかしいのよ!! そして、何!?下手したら私達もこの男の人みたいになっていた訳でしょ!?いやむしろ何で死んでないわけ!?巫山戯てるの!?」

「何で死んでない事に対して八つ当たりしてんだよ」

「シャラプ!!」

 

十六夜のツッコミに対し、犬が威嚇する時のようにガルルルルっと聞こえてきても可笑しくない食いつきよう。こりゃ何言っても駄目だな。そう判断されました十六夜は、飛鳥のギャーギャーと五月蝿い文句に何も答えず、ただ黙々と、その文句を聞いているだけだった。

 

(この先……本当にこんなんで大丈夫なのか?)

 

そんな、十六夜の疑問に対する答えなんか帰ってくるはずもなく、十六夜は小さく溜息を付くのだった。




お読みいただきありがとうございます。

補足として二つほど……オッサンは本当に巻き込まれただけです。世界の因果的なものや、何者かの陰謀などは一切ありません。

それと、十六夜君は河川敷から箱庭に行ったんじゃねえ。と、思われる方がいると思いますが、ここではアイツと出会い、その後、河川敷で手紙を受け取った。と言う流れになっています。ご了承ください。

誤字脱字報告、感想、アドバイス等があれば、よろしくお願いします。

では、また次回お会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。